最強生命体、その名もギャル
詫び投稿(1週間開いてゴメンねの土下寝ポーズ)
中年男は一切抵抗の意志を見せずに、突入してきた警察部隊に取り押さえられた。男は連行され、人質にされていた銀行内の人々も保護されている。
「お……終わりで良いのかな……?」
「やはりお前ら『第五』を呼ぶ程の案件でも無かったな……単独犯だからそりゃそうか。いずれにせよ、人質の安全な解放に協力してくれた事、感謝する」
銃弾を防いだはいいが地味に結構痛い腹を、俺は抑えて突っ立っていた。
吐くような飛行で駆け付けた末、事件は一瞬で収束せんとしている……いや、直接的には俺が解決したんだが、何故か釈然としない。
撤収作業が進む警察部隊を横目に口をひん曲げていると、後ろからカズヤが喋りかけてきた。
「ニコル君凄いね。一切手を下さず、気迫だけで強盗犯を制圧するなんて……君ひょっとして、刑事の方が向いてるんじゃない?」
「はは……そいつはどうも」
今のは純粋な賞賛なんだろうが、俺にはとんだ皮肉にしか聞こえなかった。
あの中年男、古びた作業服の感じからすると十中八九、ここ最近職を失った労働者だろうな。どこであんなクスリを手に入れたかは知らないが……実際、職を失って行き詰った末に薬物に手を出すってのは最近じゃよくある光景だ。最も、それも国に見捨てられた田舎での光景だったんだが……
「ニコル君、さっきの犯人……明らかに様子がおかしかったね」
「恐らく違法薬物の類でも持ってたんだろうな」
「はぁ、またか……最近は薬物関連の事件がこの辺りでも増えてるんだよね……」
「増えてるって、取引現場……あるいは乱用者の暴動がか?」
「……どっちも同じくらい検挙されてるかな?」
「いつ頃からだ?」
「え、うーん……報道でも大々的に取り上げ始めたのは最近だけど、増え始めたのは去年位からじゃないかなぁ。僕もそこまで詳しいわけじゃないんだ」
血烏の首都での活動が活発化しているとは小耳に挟んでいたが、実際に目に見える程の影響が出ているとは……状況は楽観できなさそうだが、逆に言えばこれはチャンスだ。大っぴらに動けばその分尻尾を出す可能性も出てくる。そうなれば再び奴らの首領に辿り着く機会も……
「どうしたの、何か考え事?」
「っ……いや、なんでもない。北部でも同じく薬物の蔓延が問題になってたのを思い出してただけだ」
「そっか、北部は治安がここより悪いんだっけ。通りでニコル君が薬に詳しそうな訳だね」
咄嗟の誤魔化しが上手くいった。というかカズヤの口ぶりからして、俺がやけに薬物について食いつきを見せたのを若干怪しんでいたらしい。油断できないな。
すると向こうから警官のおっさんが歩いてきた。
「やぁお二人さん、事後処理の事なんだが……上が『第五』について来てほしいと言っててね。どちらか一人でも十分なんだが、協力してくれるか?」
「ああ、そういう事なら……」
カズヤはこっちを振り返って、俺の腹の氷の弾痕を見た。
「多分それ、痛いでしょ? 君は戻って休んでなよ」
「……分かった、恩に着る」
事後処理の手順も知らない状態で送り出されても困るからな、俺としては願ってもない申し出だ。ありがたくカズヤの厚意に甘えて、帰宅させてもらうとするか……って、ちょっと待てよ。
「それってどうやって帰るんだ、俺は?」
ここまで飛んできたんだ、帰る為の馬も車も持って来ちゃいないんじゃないか?
「ああ、それなら兵員回収車が来るまで待ってればいいよ」
「兵員回収車……?」
「騎士団は警察の応援に、それなりの距離を離れる事が多いからね。一定のルートを周回する専用の乗合馬車がいくつか走ってるんだ」
「んな、スクールバスみてぇな……」
* * *
という訳で、言われた通りに大通りで馬車の到着を待っている。わざわざ専用の回収車があるとは……これが首都クオリティ、軍隊なのに福利厚生がしっかりし過ぎてないか……?
王の金庫から費用が出されてるんなら、まぁそれなりの金はあるのか……などと考えつつ、無人販売所で買ったコーヒーを啜っている。しばらくして、それらしき馬車が見えた。
言われた通り、こちらの存在をアピールするように手を挙げる。騎士団制服姿の俺を識別した運転手は、緩やかに速度を落として停車させた。
「はい、詰めて座って下さいねー」
「……結構狭いな」
乗合馬車の客車はまぁ平凡、狭く安いバスのそれだった。地味にコストカットの跡が見えるな。
できれば一人席が良かったが、俺の座る位置には先客が居たらしい。渋々相席になる。
「すいませんね、隣失礼しま……」
「あ、新入り君じゃーん! やっほー!」
誰かと思ったら、先客はツインテ金髪女……ライラとかいう馴れ馴れしいギャルだった。眉間にしわが寄りそうになるのを我慢しながら、無理矢理作り笑いを浮かべる。
「ち、ちっす……」
「任務帰りだよね、カズヤは一緒じゃないの?」
「え、あ……アイツは何か、事後処理で警察に付いてったから一緒じゃないんだが……」
「そうなんだ、良かったぁ……危うくサボりがバレるとこだったよ」
席の狭さ以上に、何か大きな存在感に押しつぶされるような気分がしている。この感覚は身に覚えがあるような……そうだ、あの「お兄ちゃん」を自称する変人に詰められてる時の感覚に似ている。
俺はそもそも人と不用意に関わらない様にしているが、それとは別に苦手なタイプの人間が居る。それは「向こうから執拗にグイグイくるタイプ」の人間……それこそ、この女みたいに。
そういえばこのギャル、俺達が出発する時に兵営に居たような。なんでこんな馬車で遭遇したんだろうか……「サボり」って言ってた辺り、兵営を勝手に抜け出してきた、とかか?
一方、当のライラはぺちゃくちゃと、俺が頼んでもないのに独り言だか喋りかけてきてるのか分からない言葉を連ねている。話をフルスルーしていると好感度にも響きかねないので、適度に耳を傾けておく必要があるが……クソッ、脳内容量が無駄に割かれている感覚ッ、不快この上ない!
「ニコル君だったよね、コーヒー好きなの?」
ヤバい、急にパスが来た。ここは当たり障りのない返答を……
「ああ……そうだ」
「へぇ……」
当たり障り無さ過ぎて会話が広がらないタイプのつまんねぇ返答をしてしまった!
会話好きなギャル相手に、これはあまりにも悪手だ。別に会話を自分から広げに行きたい訳でもないが、沈黙で気まずくされるのは逆に困る。
手に持ったアイスコーヒーが冷たいからだろうか、何か嫌な冷たさが脳の後ろを這いずっている。どうにかして次の言葉を……
「君はブラックコーヒー派なんだね、苦いの好きなの?」
「ええと、それはだな……」
流石天下無双のギャル、話を広げるのも上手いらしい。ただ、今その話は少し困るというか、なんというか……
そもそも俺がブラックコーヒーしか飲まないのは、単に苦いのが好きというよりも「苦味という味覚しか殆ど残ってないから」なんだが……今その話をしても場の雰囲気が悪くなるだけに決まっている……!
ただそれはそれとして、先程のように「そうだ」と肯定するマシーンに徹してしまうのも良くない。何かここは気の利いた返答を……
「甘いのは苦手でな、コーヒーも砂糖は入れない方が好きなんだ」
「そうなんだ、そこはプリンくんと似てるね。あの人も甘ったるいお菓子が苦手みたいな事言ってたなぁ。皇族だから苦労しそうだけどねっ」
プリンくん、もといラプラス……「甘いのが苦手」ってのはどうでもいいとして、アイツ皇族なんだ……初めて聞いた話だ。まぁあのナチュラルに見下したような眼からしても、その片鱗はあるような気がする。
「プリンくん、ってのは『第五』のリーダーの眼鏡男、ラプラスの事で良いんだよな?」
「そう、『プリンくん』って呼び名はあたしが考えたんだよー」
それは……言われなくても分かるんだが……
するとライラは何かを閃いた様子で言葉を続けた。
「そうだ、君にも何か渾名みたいなの考えたげるよっ!」
嫌な予感がする。
「そんな、わざわざ申し訳な……」
「いいっていいって~」
ヤバい、止められない。誰か、カズヤ、メリッサでもいいッ、俺を助けてくれ……ッ!
兵営到着まで、後15分。




