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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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はた迷惑な無頼人

「後どれくらいか教えてくれ……!」

「今で半分くらいかも! ごめんだけど我慢して!」

「うえぇ、吐きそうだぁッ……あばばばば!」


ロープ一本で飛行物に宙吊りになるとどうなるか……そう、少しのブレで回転運動を始めてしまうのだ。俺は今、市街の上空を飛びながら、発射途中のベーゴマみたいにクルクル回っている。時計回りが終われば、今度は反時計回りの時間だ。最低限の景色を楽しむ余裕すらない。


カズヤは申し訳なさそうに若干スピードを上げた。ブレがさらに酷くなるが、この地獄がさっさと終わるならその方がいい……俺は諦めの境地に達していた。


回転しながら、頭上の曇った冬空を眺める。ストンバーグに比べて生ぬるい空気が、今は逆に気持ち悪かった。俺は乗り物酔いするタイプじゃないが、どんな人間にも限界はある……という事だろうな。




* * *




ようやく高度が下がり始めた。

そういえばどうやって着地すればいいんだ……と思っていたら、緩やかに下降する最中でロープが切れ、俺の身体はいきなり自由落下を始めた。一瞬焦ったがそんな高くなかったので無事に着地できた。


ロープの切断面を見ると、鋭利なもので斬られたような跡がある。状況からしてカズヤがやったのだろうか……無事だったから良かったが、できれば事前に伝えてくれた方が助かったんだが……

まぁ、運んでもらった立場上文句は言えないんだがな。


「第五星軍カズヤ・ストームアイズ、ニコル・オーガスト、現着しました!」

「なんだ、二人も来たのか」


カズヤは、現場の責任者らしい髭面の警官のおっさんに話しかけた。おっさんはホッと胸を撫で下ろし、銀行の入り口を見た。入り口では数人の警官が回転式単発銃(リボルバー)を構えて突入のタイミングを待っている。

おっさんは険しい顔つきで口を開いた。


「犯人は中年の男一人、拳銃を持ってる。おそらく無能力者だ」

「無能力者……?」

「なら俺達みたいなのを連れてくる必要は無いんじゃないか?」

「聞け、面倒なのはここからだ……その犯人が職員を人質に取ってな、条件を出しやがったんだ。『一番強い騎士と話させろ』ってな……」

「なっ……」


それは確かに不可解だ。銀行強盗の犯人が要求する事なんて「逃走用の馬を用意しろ」だとか相場が決まっている。そこで逆に自身の脅威になるような騎士を呼ぶとは……何かの狙いがあっての事だとしても、想像が付かない。


カズヤは数秒の後、おっさんに言葉を返した。


「だから僕ら騎士を呼んだ……のは分かるんですけど、それでどうして『第五星軍(僕たち)』を?」

「……上からの命令だ。そりゃ銀行強盗如きに天下の『第四星軍』を動かす訳にはいかんしな、お前達みたいな『お飾り最高位』ならこういう雑用にはピッタリだ。なーに、そんな顔すんな。条件だけ聞いとけば、後は俺達だけで制圧できる」

「……了解しました」


俺達を軽視するような物言いに内心腹が立ったが、カズヤが不服そうな目をしつつも黙ったのを見て、俺も怒りを収める。


「こういう現場じゃ警察の指揮権の方が強いからね……ごめんねニコル君。首都へ来てから折角の初現場なのに、こんなつまんない仕事で」

「なに、お前が謝る事じゃないだろ。第一つまんない仕事でいいよ……無駄に怪我するようなのは御免だ。仕事は楽である事に越した事は無い」


これは俺の本音だ。殺しのターゲットも極悪軍人より極悪企業重役の方が楽で助かるしな。別に俺は仕事にやりがいを求めないタイプだし。


おっさんの指示通り、俺とカズヤは手を挙げながら建物中へ入っていく。

荒らされまくったカウンターの前で、犯人と人質の若い女性が俺達を待っていた。犯人の中年男性の焦点の合わない眼を見た瞬間、「覚醒剤だな」と俺は確信した。

犯人は血走った眼をこちらへ向けて、何やら喚き散らし始めた。


「やっと呼んできたかぁーっ! こんのドブカス警察がぁぁっ!」

「約束通り騎士団の最高位、『第五』を呼んだぞ。これで条件通りだ」

「あ゛ー? 『第五』なんざ聞いた事ねぇぇなぁ……嘘ぉ吐いてんじゃねぇぞぉゴラァ!」


興奮状態の犯人がさらに強く人質の髪を掴み上げる。突き付けられた銃口に恐怖した女性が甲高い叫び声を上げた。

しかし警察のおっさんは一切退く事無く、毅然とした態度で言葉を続ける。


「事実だ。信じられないのなら今ここで、実際に戦ってみるか?」

「オイおっさん勝手に……!」

「このガキ共とかぁ……? へへっ、いいぜぇぇ……それでオレが勝ったらよぉ、オレは無罪放免でぇぇ、こっから逃げても構わねぇよなぁぁっ!」


俺達に無断で決闘をセッティングしたおっさんと、それを了承した犯人。これには流石のカズヤも焦ったようにおっさんを小声で責める。


「ちょっと、どういう事ですか……!」

「仕方ないだろうが。あっちはいつでも女の頭を吹っ飛ばせる状態なんだ。下手に条件を拒否すりゃ何が起こるか分かったもんじゃない……しかも武力に関しちゃ、騎士様の得意分野だろ?」

「でも……」

「……ここは従うしかない。決闘なら俺に任せとけ」


俺はカズヤの前に割って出る。中年男はまだ何か喚きながらふらふらとしていた。


「公平にタイマンでの勝負だ。約束通り、人質を返しなさい」

「いいぜぇ……ただし、約束は守ってもらうからなぁぁ……とりあえずガキ一人で我慢してやるよっと!」


乱暴に投げ飛ばされた女性を警官のおっさんが受け止めた。人質は解放されて、後はコイツを取り押さえるだけだ。

此方から距離にして5メートルと少し。あと少し行けば完全に俺の能力の射程内だ。まず銃を構えてる片方の手から制圧して、下半身から全身を……


「おっと、能力を使う気だぁなぁぁ! そうしたらこのカワイイピストルちゃんが誰を撃つか分からないぜぇ……!」

「っ、お前……!」

「へぇ、汚い真似するな……ヤク中野郎」


中年男の銃口は、正確に部屋の隅っこに向けられている。その先にはよく見ると、萎縮した女の子がちょこんと座っていた。おそらくさっき解放した若い女の、娘だろう。奴は人質を返した風で、その時点で二人目の取引材料を見つけていたのだ。


「オレはさぁ、ただお喋りをしたいだけなんだ……なぁ、分かるかぁ?」


中年男は引き金に手をかけたまま喋り始める。


「こんなみすぼらしい死にかけの爺がこのピストルちゃん、どうやって手に入れたか……でっぷり太った警官を殴り殺して奪ったんだぁ……あの豚、死にざまも醜かったよなぁぁ……っ!」


中年男は陶酔したような表情で笑った。自分の世界に入っているのか……だが下手に動くのは愚策だ。気付かれない様に徐々に距離を詰めていけ。

次の瞬間、いきなりぎょろりと俺に目を向けてきた。なんなら向こうから顔を近づけてくる。


「んなぁガキ、オレはお前らみたいな社会の蛆虫共が気に食わねぇんだよぉ……お前達は知らねぇだろうがぁ、お前達勝者の下にはな、オレらみたいなゴミ共の死体が無数に積みあがってんだ。お前らはその上で生きてんだよなぁ!」


俺は目を閉じた。殺気は感じない。至近距離で鼻息がかかるのは感じる。


「なぁ教えろよぉ、一体……オレとお前の何が違って……オレがこんな思いをしなきゃならねぇってんだよぉぉっ!」


中年男は再度興奮状態になって3発発砲した。が、撃ったのは天井の照明で、微細なガラスが頭上に降りかかるのみ……部屋の隅の少女は無事だった。

発砲後の隙を狙おうと踏み込む足音が、後ろから聞こえる。だが俺はそれを制するように、中年男の発砲直後の拳銃を強く掴み、真っ直ぐその眼を睨んだ。


「チィッ……!」


殺気。


中年男は反対の手で、後ろに隠していたもう一丁の拳銃を抜き放ち、近距離で発砲した。

ああっ、と後ろから声がするも、間に合わず、弾丸が二発、俺の胴体に命中する……


だが、俺は倒れない。むしろ前へ進み、もう片方の手で中年男の後ろの手を制する。痛みに耐えかねた中年男が、銃を取り落とす。

そして俺は、至近距離で凄みを効かせて言い放った。


「言いたい事はそれだけか?」


一気に覇気を失ってへたり込んだ中年男は、俺の胴体の弾痕を見た。そこには出血は無く、代わりに小さな氷の防弾膜が張られているのみだった。

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