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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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玉ヒュン遊覧飛行

翌日、俺は鐘の音と共に起床する。


あれから少し施設内を見て回って、訓練内容を確認した後、諸々の手続きを終えて休む事にしたのだった。今日からは本格的に忙しくなるだろう、この規則に縛られた生活に慣れないとな……幸いなのはちゃんと寝る時間の確保ができる所だ。


昨日カズヤと別れる時に「明日も業務説明のガイドとして君に付くようにラプラスに言われたから」と同行を予告された。まぁ奴らに取り入って情報を抜く為にも、そういう共同仕事は大歓迎だ。手札の晒し過ぎには俺も注意しなきゃならないが。




* * *




ストレッチの後トラック10周のランニングを終えて、朝飯の時間だ。サンドイッチを頬張る俺の前に、もはや見慣れてきた赤髪のマッチョが座ってきた。


「よう、昨日はよく眠れたか?」

「お陰様でな。首都(ここ)は暖かくて過ごしやすい」

「北部は寒いもんなぁ……オレ様も何回か行った事あるんだけどよ、寒い中食う屋台のコンソメスープがすげぇ美味かったの覚えてるぜ」


ペレーは懐かしそうに言うと、ズズズとコーンスープを啜った。


「てかそのサンドイッチ、一番安いレーションサンドイッチじゃねぇか。それ味が淡白だの、結構不評なのによくそんな食べれるな」

「……そうなのか?」


食った限りでは何の変哲もないサンドイッチだ。若干の塩味は感じるが。


「ああ、別にお前さんの味覚を否定してるわけじゃない。単に珍しいと思っただけだぜ。気を悪くしたらすまんが」

「そんな、わざわざ謝らなくてもいい。俺はなんていうか……舌バカってヤツだからな。これを選んだのも、ただ安かったからってだけだ」

「折角中央に来たんだ、もっと高い食い物もあるんだぜ? 俺達の仕事柄、最悪いつ死んでも良いように美味い物はたっぷり食わねぇと損ってもんよ……よっしゃ、ここはオレ様がデザートを奢ってやるぜ」

「いやいや、そこまでしなくても……」


ペレーは制止する俺に向かってニッと笑った。


「いいから新入りは座って待ってな。これはオレ様からの歓迎の印だぜ」


程なくして、ペレーはガラス容器に入ったプリンを二つ持ってきた。


「ほら、たんと食いな」

「……悪いな」

「いいって、気にするんじゃねぇ」


俺はスプーンで艶々とした卵菓子を掬って、口に入れた。独特な食感で口の中でほどけ、広がる。ペレーは俺の反応を楽しそうに待っている。俺は控えめな笑顔を作って、口を開いた。


「……ああ、美味いよ」

「良かったぜ」


流石の俺も、ちょっと心が痛んだ。ここまでしてもらって嘘を吐かないといけないとは。

なんせ俺の舌は、もはや殆ど味を感じられない。分かるのはせいぜい食感と苦味だけ。この無味のプリンも、俺からしたら他の安物の菓子と何も変わらない……ただの糖分の塊なのだった。




* * *




一通りの訓練メニューを終えて、休憩時間になった。詰所で一人ぼーっと景色を眺めている。同じ部屋では、少し離れた場所でカズヤと金髪女が話している所だった。


確かあの金髪女……ライラとか言ったか。あれとも多少仲良くならないとな。見た感じ社交性の塊っぽい雰囲気をしてるし、こちらがヘマをしない限りは何とかなりそうだ。まぁ問題は、既に俺が「上官を殴って左遷されている」というヘマをこいて、マイナスイメージから始まっているという事だが……


突然、ポケットの携帯端末が鳴り響いた。


「出動要請か」

「ニコル君、今回は僕と二人で行くよ!」


カズヤは立ち上がると、部屋のドアの前まで行って俺を見た。約束通り、今日もガイドとして付き添ってくれるらしい。


「銀行強盗の立てこもり……だって。二人も要るかは分からないけど、とりあえず行ってみよう」

「いってらー頑張ってねー」


見送るライラを背に、俺達二人は犯罪鎮圧に出動した。




* * *




騎士団とは何か……簡単に言えばこの国の防衛機関、軍隊みたいなものだ。ただ、大きく他の国の軍隊と違う点がある。それがこの犯罪鎮圧任務、「凶悪犯罪の対応」だ。


この国は人口が多い故に能力者が多く、能力を利用した凶悪犯罪も数多く発生する。能力者の制圧を無能力者だけで行うのは難しい場合がある。構成員の多くが無能力者の警察組織では、対応しきれない事も……そこで、出動要件を満たした一部の犯罪現場では、俺達のような能力者の軍人が助っ人として出動する事になっているのだ。


さて、目的地は隣町の銀行だ。送られてきた情報によれば犯人は人質を取っており、狂乱状態でいつ暴れ出してもおかしくないとの事。わざわざ俺達「第五星軍」に名指しで要請を出しているあたり、ちょっとクサいな……


「わざわざ俺達みたいな秘密兵器軍団を呼ぶって、どんな銀行強盗だ?」

「分かんないけど……ちょっと急いだ方がいいかもね」

「馬を出した方が早いか?」

「いや……」


厩舎の方を向いていた俺をカズヤは引き止める。


「飛んでいこう」

「は?」


いや、二人で行くって言ってるのに……俺はどうすんだ?

いくら修行すれども所詮は一般霊長類、舞空術なんぞ会得しちゃいないんだが……


カズヤはそんな事を考えている俺の腰に、何やらロープを巻き始めた。今度はそれを彼自身の身体にも巻き付けている……


「まさか俺ごと空輸するって……コト?」

「うん。しっかり掴まってね……」

「え、あー、実は心の準備がまだ……」

「【竜巻(トルネード)】ッ!」


嫌な予感がして目を閉じた。間もなく、全身を攪拌するような激しい回転が起こり、重力に逆らう浮遊を得る。その感覚が暫くすると弱まり……気付けば俺は高度50m付近に居た。


「っ……」


ここからだと、兵営から遠く離れた城壁まで見える。別に俺は高所恐怖症って訳でもないが、流石の光景に息が詰まる。


「暴れないでね、目的地まで飛ばすよ……」


押し出すような気流が起こり、渦の中を飛行し始める。生殺与奪の権を完全に奪われた、ドキドキワクワク遊覧飛行の始まりである。

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