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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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閃光、火花、この指止まれ

聖書に伝わる古語に「窮鼠猫を噛む」という警句が存在する。

聖女が伝えた天界の言葉だったかなんだか、ルーツの正確な話は知らないんだが……いずれにせよ俺達の生活に根付いたことわざの一つだ。

俺達には決して危害を加えようという気は無かった。しかし、この戦闘技能を仕込まれた訓練犬からすれば俺達は「自らを追い詰めんとする外敵」……そう認識されたようだ。


「【氷細工(アイスワークス)形状(シェイプ)旋棍(トンファー)】ッ!」


迫る猛犬の(あぎと)を、生成した氷のトンファーで受け止める。牙は棒部分に干渉したが、この体勢で噛み切る事はできない。俺の受け流し動作と共に、犬は跳躍して後退した。奴はさらに氷壁に追い詰められた形だ。


唸る犬ににじり寄り、距離を詰めていく。すぐ後ろのカズヤは何かを逡巡しているようだった。


非人間と戦った経験は幾らかある、例えば大熊とか。昔修行とか言って、無人島に数週間打ち捨てられた事があるんだよな……あの時は本当に死ぬかと思った。

熊は間合いの取り方が比較的人間に近かったが、狼とかだと人間とは完全に別物だ。奴らは取っ組み合いには向かない身体の構造をしており、基本的にはヒット&アウェイの戦法を取る。足の速い四足獣特有の戦い方だ。


そして今俺の目の前にいる猛獣も、手を伸ばしても届かない距離を一定に保ちつつ、後退して機を待っている。狼特有の獲物を周回する動きも、袋小路であるが故にできない。よって右往左往しながらこちらを睨んでいる。


「ニコル君、数秒くれたら確実に捕まえられる。だから少しだけ時間を稼いでくれないかな」

「……ああ、任せな」

「相手は特別に訓練された戦闘用の犬……念のため噛まれない様にだけ、気を付けて」


トンファーについた歯形を一瞥する。なるほど、あの一瞬でこの威力となると相当な咬合力らしい。腕に食らったら結構痛いかもな。野犬じゃないから狂犬病とかは大丈夫か?


カズヤには何か考えがあるらしい。おそらく事前チャージが必要、あるいは極度の集中を必要とする技の使用を考えているのだろう。まだ手札を見せてくれるなんてラッキーだ……なんて、今大事なのはこの犬っころを捕まえる事だったな。ここは俺が時間稼ぎをしてやるか。


「来いよ、犬っころ!」

「ガルル……ヴァウッ!」

「【氷細工(アイスワークス)形状(シェイプ)……」


猛犬は、今度は壁を蹴って変則軌道で跳びかかってきた。だが十分目で追える速度だ。欲しいんだろ、噛みつきやすそうな「腕」を……せいぜい噛んでみやがれ!


籠手(ガントレット)】ッ!」


猛犬の鋼のような牙が俺の腕に襲い掛かるが、直前でそれを覆うように展開された氷の障壁に阻まれる。牙が氷に食い込み、内側の肉の腕を食いちぎろうと圧迫するも、『凍結』で増え続ける氷により拮抗している。

結局牙は俺の身体に届く事無く、逆に氷で固定されてしまった。猛犬は氷に嚙みついたままジタバタ蹴ってくるが、俺が能力を発動しているうちは抜ける事が無いはずだ……


さて、もう十分捕まえる事はできたようなものだが、どうやって無力化するか……というかカズヤは何をしようとして……


「あ、ニコル君。目をつぶっ」

「え」


閃光。そして轟音。


目の前が真っ白になって、視界が白黒に瞬く。雷鳴のような轟音が響き、耳をつんざいた。思わず俺は目を閉じたが間に合わず、閉じた視界にも閃光の余波が焼き付いている。

俺の腕に噛みついている犬ももろに光を食らったらしく、先程までジタバタしていた足もこの瞬間は大人しくなってしまった。


「ご、ごめんねニコル君……警告が間に合わなくて……」

「い、今のもお前の能力か……」

「【聖者ノ灯(コルポサント)】……アーク放電現象で閃光を発生させる技だよ。チャージしたら止められないから、僕が発動前に言っておけば良かったね……」


まだ頭が痛い……俺は目を開けてみた。かろうじて目は見えるようだ。失明するかと思ったぞ……

カズヤの指先からはまだスパークのようなものが出ているようだ。今のが「水、空気、電気を操る」の「電気」部分か……てっきり「振れた相手を感電させるぞ!」とかそんなシンプルな物を想像していたんだが、いきなり応用の極致を見せられたような気分だ。


「まぁ仮定はともかく、犬は大人しくなったな……さっさと犬を逃がした馬鹿野郎に返しに行こう」

「うん、そうだね……ニコル君、大丈夫?」

「少なくとも大丈夫じゃあないが……歩けはする。でも前がまだ見えにくいから、道を教えてくれ……」

「ほんと、ごめん……」


俺は要介護者の老人みたいなふらついた足取りで、ここまで走ってきた道を戻っていくのだった。




* * *




「本当に、ご迷惑をおかけしました!」


ったく、とんだ迷惑だっつーの。犬追いかけて目をヤりました……とか、ロべ爺に言ったら何言われるか分かったもんじゃないぞ。まぁ失明未遂に関しては、犬が直接の原因じゃなくて人災の類だけど……


「次からは気を付けてくださいね」

「はい、肝に銘じます!」


どうやら柵の故障とかその他細々とした理由で、訓練中にパニックを起こした犬が脱走したのが発端らしい。偶々俺達が通りかからなかったらどうなってたんだろうか。施設内ロックダウンでもして追い詰める、とか……犬一匹如きに?

まぁひとまず一件落着だな。今になってどっと疲れが出てきた。





聖者ノ灯(コルポサント)


チャージ式電動スタングレネード。指先から放電するエネルギーで、出来る限り大きな閃光を発する事を目的とした技。

放電の直当てでもなければ殺傷力は皆無であり、非殺傷で対象を捕獲したい時などに使用する。

当然、自分も目を閉じないと失明の危険性がある。

チャージ時間を要する事、目を閉じれば効果が減退する事など様々な弱点があり、対人だと初見でしか通用しないタイプの宴会芸。

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