就任、製氷大臣
ライラとかいう金髪女は、見た目からして奇抜な印象を抱かせた。彼女が着てるのも制服のはずなのに、勝手に改造しているのかへそ出しコスチュームと化している。
ライラは横に座っている紫髪の女をつついた。
「……なに?」
「ほら、あんたも自己紹介しなよ。みんな仲良くが一番なんだから!」
「はぁ、しょうがないな……」
紫髪女は心底ダルそうな顔をしながら、口を開いた。
「ウチはローラ……せいぜい頑張ってね」
自己紹介というにはあまりにも淡白なその名乗りに、ライラは口をひん曲げた。
「ちょっとローラ、そんなので済ませるつもり!?」
「ライラだって名前しか言ってないでしょ」
「ううっ、そ、そうだっけぇ?」
「ほんとさ……」
紫髪のローラとかいう女は半目でため息を吐き、またこちらを向いた。
「一応言っとくけど、ウチ個人としては貴方と慣れ合うつもりはないから。貴方がどれだけ救いようのない阿呆だったとしても、ウチには関係ないし、勝手にして。そこんとこよろしく」
それだけ言うと、ローラは黙って本に視線を戻した。
コイツもあの眼鏡男と同じく歓迎ムードじゃないみたいだ……まぁ1年かけて出来上がったコミュニティにいきなり新入りってなると当然かもしれないが。
また険悪ムードが戻った部屋の静寂を、赤髪のマッチョが破った。
「よっ、列車の時ぶりだな。改めて名乗っとくと、オレ様はペレーだ。好きな事は筋トレと訓練。これから長い付き合いになるだろうし、力合わせて頑張ろうぜ!」
ペレーは部屋の空気を意にも介さず、太陽みたいな笑顔で話しかけてきた。もしかして空気を読めていないのか、はたまた空気を呼んだうえでの行動か……それはこれから先知っていくべき事だ。
ペレーの名乗りに便乗するように、緑髪の男が口を開く。
「次は僕で良い……? 僕はカズヤ・ストームアイズ……って二回目だからいいかな?」
カズヤは周りを見回してから続ける。
「個人的には君が来た事に驚いたんだよね。なんせ僕らは『お偉いさんを殴ったヤバい奴が来る』って聞かされたもんだから、もっと怖い人が来るのかと……って感じ。ローラの態度が悪かったりするのは僕が代わりに謝るよ、ごめんなさい。彼女なりの警戒心だと思って許してほしいな」
「ちょっとカズヤ、勝手にウチの気持ちを代表した風にしないでよ」
「えぇ? 折角人がフォローしてあげてるのに……つくづく無愛想女だなぁ」
「……殴るよ?」
立ち上がろうとするローラをライラが必死に宥めている。ライラは焦ったようにしながら、眼鏡男に話を振った。
「次はプリンくんの番じゃない?」
「……私にはちゃんとした名前があるというのに、全く」
眼鏡男は直刀みたいな鋭い眼をこちらに向けてきた。オールバックの黒髪に眼鏡って……正直俺よりも断然ヤカラ味があるというか、子供が泣きそうなインテリヤクザルックスである。
「私はラプラス。この金髪が言う『プリン』何某は私の名前と一切関係ないので勘違いしない様に……そもそも私はプリンが嫌いだ」
「へぇ、初めて知った。プリンが嫌いって珍しくない?」
「カズヤ、私の話を遮るんじゃない! ここからが一番重要な事……そう、この私こそが『第五星軍』のリーダーであると!」
ラプラスはわざわざ立ち上がって、見下ろすような角度で俺の目を見ながら言ってきた。しかし周囲はその発言に納得していないようで……
「おい、ラプの字! リーダーはオレ様、ペレー・ダグラスしか居ないだろ!」
「そもそもリーダーとか決めた事無くない?」
「プリンくん、捏造はダメでしょ……ここは民主主義に従って投票を……」
「僕的にはラプラスもペレーもリーダーとしてはどっちもどっちな気がするんだけど……」
非難轟轟であった。俺は懐疑の目でラプラスを睨み返す。ラプラスは瞑目すると若干顔を赤くしてから、口を開いた。
「ええい、黙れい。リーダーが誰とか、そういう話は後で良い……とりあえず私の指示には従えって話をしたいだけだ……!」
「でもラプラスの指示って大抵みんな聞いてない気が……特にペレーとか」
「それは話を聞かないお前らが悪いんだろうが……!」
ラプラスは憤慨しつつも着席した。もはや言っても無駄……という境地に居るのかもしれない。
「なんかアンタ、大変なんだな」
「『新入り』……私に同情は要らない……っ」
ラプラスは俺の慰めの言葉を拒絶した。女騎士が「くっ、殺せ」と言ってるようないかがわしい漫画を、よくハリーの馬鹿が持ってきたものだが……アレのノリを少し思い出した。現代のノンフィクションでも騎士ってそういう生き物なのだろうか。
ライラはそれじゃ、と手を叩いて後ろから何かを持ってきた。
「折角今日みんな非番にしてきたんだから、新入り歓迎パーティーといこうよ!」
「んな部活みたいな……一応ウチら軍隊だよ?」
「いいじゃんか、あたしらなんて困った時の秘密兵器の扱いなんだし!」
ライラは鉄製のコップとジュース入りのボトルを取り出した。手早く注ぐとそれぞれに渡して、乾杯の準備を……という所で、ペレーが口を挟んだ。
「これって常温か?」
「だって氷なんて持ってこれないでしょ……この部屋にも魔導製氷機とかあればなぁ」
「ああ、それなら俺が……」
手早く【氷細工】でそれぞれのグラスに氷を生成してやった。
一同沈黙し、それから……
「おおっ、すげぇ!」
「ニコル君すごっ、そんな事できるんだ!」
「良かったねライラ、買わなくても製氷機が向こうから来てくれたみたい」
「ちゃんと同量の氷が二つ……結構精密な魔力操作じゃないとできないよ、これ」
「ほう……これが貴様の『能力』……」
いつか使うかもと思って鍛えておいた宴会芸が初めて役に立った……レオに感謝だな。
こうして事前評価のせいで拒絶され気味だった俺は、辛うじて『第五星軍』の歩く製氷機としての身分を確保したのだった……まぁ、喜ぶべきなのだろうか……?




