はぐれ者達の虎穴
告げられた事項があまりにも唐突だったため、俺は反射的に聞き返してしまった。
「『第五星軍』って……一体……?」
「知らないのも無理はない。なんせ公式には存在を明らかにしていない、特別な部隊だからね」
確か首都に来る時に世話になった、ペレーとカズヤとかいう2人の騎士が『第五』を名乗ってたはずだ。王様の口ぶりからして、秘匿の特殊部隊的なヤツなのだろうか……?
フィスタリア王国騎士団は、つい数年前に大きな編成改革を行った。それが「星式叙軍制度」……要するに兵士個人のランクシステムみたいなものである。基本的には『第一星軍』から始まり、熟練するごとに階位が上がっていって、一番上が『第四星軍』となる制度だ。先程話に出た騎士団長も『第四』に所属している。
なぜこんな改革を行ったかについては、俺もあまり詳しくは無いのだが……確か「本格的な戦闘のない平和な期間においても、不断の鍛錬を兵士に動機付ける為」とか、難しい理由だったはずだ。
まぁ昨今の戦争は『能力者』ありきな所もあるしな。個人の戦闘力が重視される方針になったのも納得できる話だ。
で、ここからが問題なのだが……俺の知る限り『第五星軍』は存在しない区分なのである。
「『第五』ってのは『第四』より後の数字だから、今現在ある最高位よりも上の部隊……って事なのか?」
「そこは難しい話だな、何と言ったらいいか……」
「んなの簡単な話だろ王さんよ。『第五』は要するに……」
赤毛の老猿は真意の取れない笑みを浮かべ、一呼吸おいてから続けた。
「『手に負えねぇ問題児』を集めたお飾り部隊ってヤツよ」
「イルモさん、流石にそれは語弊がある言い方じゃないですか」
「なんだよピッツァ、オレが思った通りの事を言ったまでだし。事実そうじゃない?」
『第五星軍』の立ち位置については元老同士でも認識に差異があるようで、俺の前ではちょっとした議論が起こっていた。
聞いた限りの設立経緯では、「あまりにも『能力上』優れた人材が同年代で複数人入団したはいいが、その若さと経験の浅さから実戦の場に出すのは危険だ」として個別区分を用意した……との事らしい。昨今、『能力者』が増加傾向にある情勢においては「あるある」な問題だな。うちのハリーだって例に漏れず、若く経験が足りない割に強力な『能力』を持つタイプの人材だ。
古くから拳と剣で泥臭くやってきた老兵からするとその現状をあまり快く思っていないようで、「どうせ実戦に出せない秘密兵器と化しているのなら、お飾り部隊のようなものだ」という意見らしい。対してピッツァさんなどの「『能力』が戦場を支配し始めた頃」の世代は、「だからこそ個別の特殊部隊で少しずつ経験を積ませよう」と考えているらしい。
なるほど、身内でもこれだけ意見が分かれるのだから、リキエル王が「難しい話だ」と評している訳だ。
王は渋い顔をしながらイルモとピッツァの議論を制止した。
「今はその話をするべき時じゃない、話が進まないからな……」
王は咳払いをした後、こちらを向いて続けた。
「オーガスト君。まぁ今ので大体分かったように、君はこれから立場上微妙なポジションの部隊に入ってもらう事になる……だが安心して欲しい。あそこには君と同世代の者たちが多く居て意気投合できるだろうし、君が誠実に振舞うならば我々もその信頼に応えると約束しよう。これから頑張ってくれ給え」
* * *
それから暫く業務上の注意事項や俺に関する質問等が行われ、1時間ほど経ってから解放された。結局あのルーダン・エトワルとかいう仙人みたいな爺さん、一回も喋らなかったな……もしかして寝てたんだろうか?
俺は胸元の新しい徽章を見た。小さな五芒星が五つ、円形に並んでいるデザインだ。無駄に強キャラ感が出るな……
まぁ実際、お飾り部隊とか言われてはいたが権限上は『第三』上位くらいはあるらしいので、実質昇格したようなものである。左遷食らって昇格した人間とか、この世で俺ぐらいなんじゃないか?
さて、今日はこの後すぐ兵営に向かわなければならない。今日はともかく、明日からは本格的に訓練と派遣任務に追われるだろうからな……挨拶回りとか最低限の仕事は今日中に済ませておく必要がある。
城を出てまた馬車を手配する。兵営は「COLD YETI」から比較的近い場所だったから、暫くは来た道を戻る事になるだろうな。
「『第五星軍』……問題児、か……」
騎士団に潜入する中で「要警戒対象」としてマークされてしまったのは大分痛手だが、「組織中枢まで潜り込むチャンスを得た」と捉えればそう悪い状況じゃない。ピンチをチャンスに、虎穴に入って虎子を得なければ。そのためにはまず、組織に馴染む事が先決だ。
そいつらを最終的に破滅させるという前提で、信頼関係を築く……別に特別な事は無い、何回かやってきた工作の類だ。それを今更どうしたというのか……
「……」
何故か、俺は悶々とした気分だった。つい最近、久方ぶりに純粋な「友情」という物に振れたからだろうか。どこか「これから自分が行う事」の罪悪を感じていた。
落ち着け、騎士団は偽善者集団だ。奴らは本当に救いを欲する者を、助けたりはしない。そうやって切り捨てられてきた俺達が一番知っているはずだ。迷いを振り払え、俺はいつだってそんな悪人を迷わず殺してきただろう。裏切りなんて俺にとっては日常だ。
奴らは所詮、俺の復讐の道に立ち塞がる、有象無象の障害物に過ぎないのだ。
そんな事を考えているうちに、胸がスッと軽くなった。




