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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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爺ストレートフラッシュ、俺を添えて

「まずは北方での公務、ご苦労であった。支部兵営長からは『おおむね問題なく過ごしていた』との報告を受けておる」

「本当か? ワシは信じんぞ、こやつに限って……」


王が威厳たっぷりに、かつ優しい声色で話している。彼の名はリキエル・フィスタリア、確か今は60歳くらいだったはずだ。俺は偉いから、今日に関してはしっかりと元老会議のメンツを調べてきているのだ。まぁ一部はうろ覚えだけど……


そして、王とは空席を一つ挟んだ位置、俺から見て左側に座っている爺はまたも不機嫌そうな顔でふんぞり返っている。この小太りで奇怪な髪型の爺は、フロランタン・パラディール……確か現在は騎士団の参謀総長だったはずだ。そして、俺が1年前に殴ったクソジジイでもある。


「フロランタン、いい加減に個人の悪感情で話を遮るのはやめなさい。彼はこうして報いを受けて帰ってきたのだから、許してやるのが大人というもの……」

「知った風な口を利くな、文官風情が! 第一、こやつを呼び戻したのは『東方情勢の悪化』が理由であって、断じてこやつの蛮行を許した訳ではないのだぞ!」

「文官風情……とは心外ですな。まぁそれはともかく、確かに主な理由はそれで合っている。だが、ここでワタシが言いたいのは『許すべき』という心構えの話であって……」


怒るフロランタン爺をたしなめる様に一人の爺が口を開いた、が負けじと反論するフロランタン爺。会議の主題をさておいて、場外でレスバトルの様相である。


穏やかな目つきをしつつ冷静に弁論を繰り広げんとする彼の名は、ピッツァ・チョビアン……両親は何を思ってその名を付けたんだ、と思わなくもないが今は関係ない話だ。彼は我が国の防衛省の長官だったはずだ。防衛省ってどんな仕事してるのか、いまいち俺も知らないが。


「お二人さん。お楽しみもいいが、できれば会議(これ)が終わってからだと嬉しいかな」

「……分かった、陛下。ここはワシも剣を鞘に納めよう」


場外乱闘が起きそうなのを見て、すかさずリキエル王が止めに入った。フロランタン爺は未だ不服そうな顔だったが、一応はまともな神経をしていたのか怒りをおさめた。


「……」

「う……」


それはさておき、さっきから俺の右に凄まじい「覇気」のようなものを感じるんだが。「覇気」の出所はこの場に居る俺含めた5名の中で、唯一喋っていない人間……仙人みたいな白髭の爺である。なぜ一切喋らないのに、こんな存在感を放っているんだ……!?

いるだけで圧が凄いこの爺は、事前情報通りならルーダン・エトワル……のはずだ。ここまで寡黙なタイプとは思わなかったが。あまりの「覇気」に、俺の殺気センサーが誤作動し続けている。正直心臓に悪い。


「陛下、そういえばイルモはまだ来ないのです……?」

「そうだ、そもそも人が足りないんじゃ会議が成立せんだろうに! 何処で何やっとるんだあの赤毛猿は……!」

「私も知らないのだが……お、噂をすれば来たようだぞ」


部屋の外で何やら騒々しく走る音が聞こえてくる。何事かと思って俺が扉を振り返ると、ビターンとでも鳴りそうなくらい勢いよく扉を開けて、一人の爺さんが入室してくる所だった。


「いっけなーい遅刻遅刻っと……おお皆さん、お早いお揃いで」

「貴様が遅いだけだ赤毛猿! 任務への遅刻は厳罰だと、貴様の現役時代の指導教官は教えなかったのか!」

「まぁまぁそんなカッカしなさんなって、そんなに怒るとハゲちゃうぞ……って元からか!」

「貴様……」


赤毛のやかましい爺さんは、フロランタン爺の神経を逆撫でするような事を大胆にも吐き続けている。また喧嘩が勃発しそうなのを見て、王は呆れたような眼をしていた。

赤毛の猿顔の爺さん、彼の名はイルモ・アホライネンで、確か前代の騎士団長だったはずだ。こんなおちゃらけたジジイが……と思ったが、身内にも似たようなおじさん(バッハさん)が居るのを思い出して「強さと素行って関係ないよなぁ」などと考える。


てか思ったより不仲だな元老院……!?


「これでようやく全員揃ったわけだ。やっと話ができるな……」


リキエル王はため息を吐きながら話を再開した。


「オーガスト第三星軍騎兵、君は今日から首都での仕事に戻ってもらう。本来ならば君の行為は依然許し難いほど重大なのだが、先程フロランタンが言ったように何故(なにゆえ)事情が事情でな……我々としても、できるだけ戦力が欲しいのだ」

「要するにニコル君、君の卓越した能力に免じて左遷令を取り下げたって事だね。ワタシも君の入団試験での雄姿を覚えているよ。なにせハンデ有りとはいえ、現騎士団長と引き分けに持ち込んだのは君が初めてだったからね」

「奴に引き分けたのは凄かったよなぁ、あの時『またとんでもねぇのが現れた!』ってオレ叫んじゃったもん」

「そりゃどうも、お褒めにあずかり光栄……です」


もう1年前だったか、騎士団の入団試験があったのは。騎士学校出身でもない俺は一般枠の受験で、凄く厳しいテストをさせられたのを覚えている。

特に最後に戦った騎士団長とかいう人は、物凄く強かったのを覚えている。向こうはあの時徒手空拳だったが、本業は槍使いらしい。全く、我ながら『龍腕』なしでよくやり合えたものだ。


リキエル王の話は続く。


「でだ、君の実力を見込んで呼び戻したはいいが、また暴れられては困るのも実情。そこで我々はとある方法を考えた。君の力を有効に使いながら、君を監視できるような方法をね……」


そう言うと、王様は小さな黒い箱を取り出した。机上を滑らせて俺に渡すと、箱を開けるように手振りで伝えてきた。


「これは……バッジ?」

「君は本日をもって『第三星軍』から『第五星軍』へと転属となる。それが君の新しい徽章だよ」

『元老院』


少数の重鎮から構成される、王の諮問機関。

立憲君主制に移行してからというもの、実質的な権限を殆ど失った「過去の遺物」として残存する。

現在は立法議会の「第三の派閥」である『王党』の補佐機関、あるいは騎士団の運営の役割を果たす。

遺物、それは残骸なれども……混沌に満ちた俗世を濯ぐ光源にもなろう。

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