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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
第一章:妄心讐奴のスクリプチャー
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問題児さん、仕事の時間です

11月7日、早朝の寒風が窓からやってくる。


「今日はちゃんと晴れてくれたな……」

「昨日の雨凄かったね。予報にもなかったんだもん、びっくりしたよ」


朝のコーヒーをすすりながら、雨上がりの湿った空気を吸う。昨日は街へメリッサを連れていくつもりだったのだが、突然の嵐で夜まで雨が降り続き、外に出れず仕舞いだったのだ。

生憎今日から騎士としての仕事に専念しなければならないため、メリッサにはまだ暫くここでじっとしていてもらうしかない……


「すまないな、コレじゃ家出前と同じようなもんだろう……次の休日は絶対街に出かけよう」

「気にしないでニッ君、私はこうやってお泊りみたいな事ができるだけで十分楽しいんだから! そんな事より、お仕事頑張って!」

「ああ……ありがとう」


『王国騎士団潜入調査任務』……この作戦が開始された時期は、今から5年ほど前まで遡る。


俺達B(バミューダ)W(ウィングス)A(エージェンシー)は傭兵組織、といっても非合法依頼も請け負う違法組織だ。どんな正義を掲げていても、治安維持勢力からすれば他の犯罪者と同様に要注意団体であるのは変わらない。今までも度々、俺達は警察と騎士団の妨害を受けてきた。

北部では騎士団の規模が小さいのと内通者の送り込みに成功した事もあるからマシなのだが、この首都においてはそこかしこで警察と騎士団の目が光っている。


血鴉(ブラッディレイヴン)を追う中で障害になるのは、奴らの戦力そのものよりも警察と騎士団が敷く捜査網の方が大きい。もう少し大っぴらに動く事さえできれば……そんな問題を解決するため立案されたのが、この『潜入調査』の任務である。


この任務の目的は大きく二つ、「騎士団の内部情報を利用して、血鴉の動向を追う事」と「内部工作を行い、騎士団と警察組織の勢力を減退させる事」。つまり情報を抜いた後、騎士団を内側からぐちゃぐちゃにしろ……という事だ。


「よし、準備はオーケーだな」


私物や貴重品を詰めた鞄を準備し、荷物の最終確認をする。ベルトを固く締め、星の意匠が3つ施されたバッジを身に着ける。出発の準備は整った。

そんな様子を見たレオは、何やらメモ用紙のようなものを持って話しかけてきた。


「行く前にいくつか確認するぜぇ……昨日届いた電報で釘刺されたもんでな」

「ロべ爺か……ったく、俺ってつくづく信用無いんだなぁ」

「第一、お前は『ゼロ』じゃない。何があっても『龍腕』だけは使うな!」

「んなこたぁ、言われなくても分かってるよ」

「第二、お前は『殺し屋』じゃない。いつものノリで不用意に人を殺すな!」

「はいはい、気を付けますよっと」

「第三、これが最後だな。お前は本当の意味では『騎士』じゃない。連中に気を許すな。常に『騎士団をどう崩壊させるか』だけを考えろ!」

「……今更だな、俺は壊す事が仕事なのに」


予想通りしょうもない念押し文書だった。ちょっと気を張った俺が馬鹿らしいや。

ただ、対面するレオはまた別の心理からため息を吐いたようだった。


「全く、前から思ってはいたがまるで『犯罪の片棒担ぐような』任務だな。ニコル、お前はちゃんとやり遂げられるか?」

「愚問だろ。そもそも俺達は『正義のヒーロー』だった事なんて無いんだ。ま、勝手に正義面してるだけの偽善者集団の騎士(ゴミ)共をぶっ飛ばせんのは、個人的には気分良いけどな」

「はは、ただの杞憂だったか。そりゃお前はアイツの弟子だもんな……」


レオは笑ったが、その声には悲しみの響きが籠っていた。


「また師匠(ジグ・グラジオラス)の事考えてるのか?」

「……アイツの事が頭から離れた事は無いからな。それはお前だってそうだろ?」


レオは師匠が死んだあの日の事を考えているらしい。この人は2年前からずっとこんな調子だ。戦えなくなった者として、見送る側としての寂しさがどんなものなのか、ずっと前線に居る俺には分からない。ただ、相当な空虚感に苛まれていることは想像に難くない。


「レオ、そんな目すんなって」

「……」

「俺はそう簡単に死んだりしねぇ。心配いらないから」

「……ああ、そうだったな」


彼の顔に、ちょっとだけ安堵の感情が戻った。


「行ってくる、メリッサを任せたぞ」


ドアに手をかけ、肌を刺すような冬の寒気に踏み出す。軽やかなドアベルが俺を見送った。




* * *




馬車で二十数分、ティアーズヒル中央区の円形城壁を抜けて、城下町に入った。程なくして馬車は巨大な城門の前で停止する。俺は御者に代金を支払って、馬車を降りた。


城門の前の衛兵に挨拶し、中に入ろうとした。


「騎士団の者だ、今日は面談があるとの事で来たんだが」

「なるほど……徽章を提示してもらっても?」

「ああ、これだ」

「第三星軍……オーガスト様ですね。話は伺っております。どうぞお進みください」


衛兵は通信機で壁の内側に連絡した。するとすぐに滑車が作動し、ギギ……と重い音を立てながら城門は明け放たれた。

俺は衛兵に会釈した後、敷地内を進んでいく。石段を上り、上階の広場を通り抜け……徒歩で15分ほど歩いてようやく辿り着いた。この城で生活するの、結構大変そうだな……とか思う。


王の居所、天守の前まで来た俺は、また衛兵に先程と同じような事を言った。すると、衛兵は使用人を呼びつけて俺を案内するように命令した。

使用人と俺は階段を上り、謁見の間がある三階まで移動した。


目の前に立派な扉がある。流石にちょっと俺も緊張してきた。


「失礼します、オーガスト第三星軍騎兵をお連れしました」

「どうぞ、入り給え」


部屋の中から入室を促す声が聞こえた。使用人は静かに扉を開くと、俺に中へ入るようジェスチャーで伝えた。


「ど、どうも……」

「やっと来おったぞ、問題児が」


謁見の間はそこそこ広い部屋で、巨大な円卓が中心にあった。正面には王様らしき人、その左右には老人が3人座っている。老人のうち1人は俺の顔を見るなり、悪感情の籠った野次を飛ばしてきた。


騎士団として首都での最初の仕事……左遷から戻った俺の処分会議、まずはこれを切り抜ける事だ。

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