Side Wings:消失
11月5日、フィスタリア王国ストンバーグ州、BWA北部アジト。
「……どうするか」
「今すぐに連絡を取り次ぎましょうか……まだ間に合うかもしれないですし」
ローベン・ラニングという銀髪の老人は、バミューダウィングスエージェンシーの中間管理職的な立場である。彼は今、部下の持ってきた重大な情報に頭を悩ませていた。
「いや、今あの二人を呼び戻すのは尚早だ。彼らにも重要な使命があるのだからな」
ローベンの居る部屋に、来客が一人。けたたましくドアを開け放つと、来客はその巨大なボディをなんとか通り抜けさせて入室してきた。
「オジキ、あんたが俺を呼ぶなんてどういう風の吹き回しだ?」
「来たかバッハ。今の此処にはお前くらいしか話の通じる人間が居ないんだ。我らがボスも、最近は酷くボケてきているからな……」
「何があったんだよ、さっさと言ってくれ」
来客、バッハ・ライスフィールドという太っちょの男は、いつもの余裕そうな表情とは違う、心配そうな目をしていた。彼は自他共に認めるお調子者キャラであり、ローベンが真面目な話で彼を呼ぶことなど滅多に無かったからだ。余程の事が起きたのだろう……と、バッハは心のどこかで感知していた。
「若が連れてきた娘を覚えているか」
「ああ、おチビさんの幼馴染っていう、あのオレンジの娘だろ?」
「そうだな。あの娘、家出してきたとも言っていたんだが……彼女の両親は未だ行方不明届を提出していないんだ」
「確かおチビさんが言ってたな……出発前に『コイツの両親の動向はよく見ておいてくれ』とも念を押してきたし」
「だからかの娘の家に、度々使いを出して様子を見させていたんだ……しかし……」
ローベンは瞑目した後、言葉を続けた。
「両親が、蒸発したそうだ」
「なっ……!」
驚きに目を見開いたバッハに対し、ローベンは説明を続ける。
「3日に出掛けて以降、両親は家に帰ってきていない。家の中に侵入してカレンダーを確認したが、特に旅行のための準備をした形跡はなく、それどころか作り置きのカレーすら残されていた……状況証拠からしてつまり、本来なら問題なく帰ってくるつもりだったと推測できる」
「それが蒸発したって……まさか両親も何者かに狙われてたってオチじゃねぇだろうな……?」
「何者かの介入があった事は確実視してもいいだろう……我々も、動くのが少々遅過ぎたのだ」
バッハはあまりの事態に口をつぐんだが、身体は落ち着きなく動いていた。数秒の静寂の後、バッハが思い付いたように口を開いた。
「な、ならよ……それこそ本人に伝えるべきじゃないか。やっぱりアイツ等は首都に行ってる場合じゃないと思うが」
「バッハよ、そう早まってはいけない。今も昔も変わらない君の悪い所だ。騎士団の調査も、我々組織にとって重要な任務である事は理解しているだろう?」
「し、しかしな……」
「もっと詳細に調べてからでも遅くないはずだ。どちらにせよ今彼らが帰ってきた所で出来る事は無いし、かえって不要なパニックを引き起こすだけだ」
「……分かったぜ、オジキ。だが、これだけは忘れないでくれ」
バッハは頷いた後、真剣な面持ちでローベンの目を見た。
「あの娘には、自分の大切な親がどうなっているか知る権利がある。遅かれ早かれ、俺達はその義務を果たさなければならない……オジキ、約束してくれ」
「ああ。分かっている。組織の事も、巻き込まれたカタギの娘の事も、どうすればいいかは……」
ローベンはバッハに背を向け、考え事を始めた。バッハは軽い挨拶の後、部屋から出ていった。




