二人目の「第五」
「居た居た、なんで僕が来なきゃならないんだよ……全くもう……」
鳥かと思っていた影はどんどん近くなり、やがて人一人分の大きさになった。旋風と共に降り立った人影は、やれやれといった風に頭をかきながら歩いてきた。
「やいペレー、勝手に突っ走った挙句こんな所で道草食ってるって、どうなってんのさ」
「ん、草じゃなくてクレープだぜ。美味いぞ、食うか?」
「いや、実際に食ってるモノの話じゃなくって!」
若葉色の髪の男はペレーを軽く咎めた後、俺達の方を向いた。
「すみませんね、うちのおバカが迷惑をかけて……事情は大体把握してます。現在急いで馬車を手配してるので、ここでお待ちいただければ無事に目的地まで着けると思います……」
「ああ、わざわざご丁寧にどうも……」
「ん-、んーんんー」
緑の男はペコペコと何度も頭を下げた。俺達はあまりの平謝りに少し押されながら返事をする……メリッサはクレープを口に含みっぱなしで、まともに言葉になっていなかったが……
「ひょっとして、ペレーと同じ『第五星軍』の……」
「ああ、すいません名乗るのが遅れて……僕はフィスタリア王国騎士団『第五』所属、カズヤ・ストームアイズと申します」
ストームアイズ……「嵐の目」って苗字にしては安直過ぎて珍しいまであるな。ってかどこかで聞いたことがあるような無いような……
緑の男、もといカズヤは俺達と比べて少し小柄なくらいの青年で、多分俺達と年も離れていなさそうな見た目だった。物腰柔らかで真面目っぽい雰囲気を出している。
彼はとても嘘をつくタイプに見えない……という事は、騎士団に「第五」のクラスが存在するのは事実なのだろう。先程まで「ペレーが言った出まかせ」の可能性を考えていたが、その疑いは晴れたわけだ。
カズヤはペレーの方を再度向くと、さっきの説教の続きを始めた。
「大体なんで僕に連絡するのさ、通信端末持ってんだから馬車でも呼べばいいのに」
「いやだってよぉ、ここがどこか分からないから……」
「道に迷ったら街灯の札を見て、って前にも言ったはずだけどぉ!?」
「ああ、そういやそんなのもあったな」
ペレーからは兄貴肌っぽい波動を感じていたのだが、ああやって一回り小さい奴に怒られてる様子を見るとなんだかよく分からなくなってきた。ちょっと年上って感じがしてたけど、実はそこまで偉くないとか……?
しばらくして、カズヤが呼んだという馬車らしき影が遠くに見えた。
「ニッ君、あれかな?」
「なんか……ちょっとデカくないか」
「騎士団の公務用ですからね、乗合で使われてるものよりも立派ですよ」
乗合馬車がペンキで塗られた粗末な塗装だったりするのに対して、公務用のは明らかに表面がつやつやと黒光りしている。車体も横に広く、車輪も頑丈そうだ。見慣れない高価な乗り物に、メリッサは興奮半分心配半分といった様子だった。
「これって、私達が乗っても良いやつなんですか……?」
「当たり前ですよ。ペレーのせいでお二人には無駄足を踏ませましたし、騎士団としてお詫びしなければならない立場なので。まぁ第一、そちらのニコルさんも騎士団のメンバーならお上に言い訳もできると思います」
じゃあ遠慮なく、という風に俺達は馬車に乗り込んだ。御者に目的地を伝えると、馬車はゆっくりと進み始める。二人の騎士に、窓から別れの挨拶をする事にした。
「わざわざありがとうございました!」
「ありがとう、助かった」
ペレーとカズヤは軽く手を振りながら俺達を見送っている。
「どうか、二人共お気をつけて!」
「兄弟、また会おうぜ!」
* * *
「到着です、お代は結構ですよ」
「どうも、ありがとうございました」
「ありがとう」
目的地……首都ティアーズヒル外縁部、とある路地の前までやってきた。黒い馬車はすっかり暗くなった夜闇の中を走って去っていく。
「はぁ……やっと着いたね」
「長かったな。想定より数時間遅い到着だ……」
メリッサは疲れ切ったようにして、肩から荷物を下ろした。荷物からはまたミケがはい出てきて、メリッサの頭の上に収まった。
「さぁ、進むのニャ……吾輩もさっさと暖かい所で寝たいのニャ」
「やっと出てきたかクソ猫、自分だけ鞄の中でぬくぬくしやがって」
「仕方ニャいでしょうが、他のニンゲンが多い所じゃ『喋る猫』だって騒がれて碌な事にならニャいし……」
なんだ。この珍獣、自身の異常性と希少性を理解していたらしい。人が多い所だとやたら大人しいのはそれを考えての事だったのか……何も考えてないって感じじゃないんだな。
「ミケちゃんは賢いからねぇ~」
「ちょ、ご主人、ベタベタ触るんじゃニャい!」
「……なんかお前、変に几帳面なあたり猫っぽく無いよな。もっと猫ってテキトーなイメージだから」
「あ? どういう意味で言ってるのニャ、ニンゲン」
再び両者の睨み合いが始まり、メリッサは苦笑いを浮かべた。
さて、路地裏に入っていった俺達……旅のゴールは、目の前の居酒屋だ。今後首都で生活をする上で、ここが拠点にもなる予定である。
「『風邪ひいた雪男』……」
「変な名前の店ニャ」
「期待しとけ、店主はもっと変なおじさんだから」
ドアノブに手をかけ開く。カランカラン、とドアベルが小気味の良い音を立てた。




