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流天のデザイア  作者: 蛮装甲
氷点下のエリミネーター
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死神

10月30日、コール湾……大型郵便船シーホーク号の倉庫にて。


「おいブラザー、今何時だぁ?」

「あぁ? 時計くらい自分で持って来てねぇのかよ……」

「バッテリーが逝っちまったんだよクソが……ほら、さっさと教えろ!」

「深夜の0時44分だ、誤差は知らねぇ」

「チッ、見張りの交代までまだ2時間以上もあんじゃねーか……やってらんねーぜ!」


男は一升瓶をあおって酒をグビグビと飲み始めた。悪態をつく酔っ払いを横目に、もう片方の男は不快そうにしている。


「酒臭ぇ息をこっちに吐くんじゃねーよ」

「へっ、青ざめた顔しやがって。船酔いでもしたか能無し野郎(デッドヘッド)。だからてめぇにはこのミッションは向かねぇと警告したんだろうが」

「こちとらブツの輸送任務だとは聞いてたが、ほとんど海路だとは知らなかったんだよ! 絶賛()()中だぜこの野郎……」

「駄洒落を言う余裕があるんなら大丈夫そうだがなぁ?」


ケラケラ笑う酔っ払いに、ぐったりしている船酔い男。

すると酔っ払いの方が尿意を催したのか、危なっかしい足取りでトイレに向かった。


「うぷっ……なんで俺がこんな目に……それなりの報酬がねぇと割に合わん………って、あ?」


船酔い男は2階の足場から積み荷を眺めていたが、奇妙なものを見たように目を丸くした。

丁度そこに酔っ払いが戻ってきた。


「ふぃー出た出たー」

「おい小便垂れ、今さっきあそこに人が居たんだが」

「よう、酔いすぎて幻覚でも見たか?」

「飲んだくれと一緒にすんじゃねーよ、信じられないなら自分で見やがれってんだ」

「ったく、どれどれ……あら本当だ、なんか居るな」

「だろ?」


突如舞い降りた仕事にやれやれと肩をすくめた二名は、階段を下りて不審者の元へ向かった。


不審者は自分達と同じ、強奪(レンタル)してきた作業員のつなぎを身に着けていた。


「よう兄ちゃん、今は作業時間外だぜ?」

「積み荷の点検なんて俺らは聞いてないんだが、何かあったのか?」


不審者はこっちを向いたまま微動だにしない。その間に距離はどんどん縮まっていき、顔までよく見える近さになった。

目深に帽子を被っていて、表情はよく見えなかった。

酔っ払い男は、不審者を「死人みたいな男だ」と思った。肌の色は蒼白で、今にも消え失せそうなくらい気配が薄い。


「命令が……」

「あ? なんつった?」

「上から命令が、出ている」


やっと口を開いたと思うと、色白の作業員は何やら封筒を手渡してきた。


「命令書かぁ、これは?」


船酔い男は封筒を開封すると、中身の紙切れを取り出した。しかし、そこに書かれていたのは点検の命令書でも計画変更の通達文でもなく、何の関係もない……随分と詩的なラブレターだった。


「おいスカタン! 馬鹿にしてんのかテメェは!?」

「ってあれ、居なく……なりやがった!?」


怪文書から視線を戻した二人は、例の不審者が忽然と消えてしまった事に唖然とした。

すると程なくして背後からコツッと靴音がした。

咄嗟に振り返ると、帽子を外した色白の男がそこにいた。


肩を怒らせながら、船酔い男はずんずんと色白の男に近付いていく。


「テメェ、何のつもりで……」


次の瞬間、船酔い男の首が刎ね飛んだ。


「へ?」


酔っ払い男は噴出した鮮血をもろに浴びながら、突然の凶行に立ち尽くしていた。吹っ飛んだ生首は酔っ払い男の右足元に落下し、バスケットボールみたいにころころ転がった。


「は?」


パニックを通り越して思考が完全停止した酔っ払いは、「能無し野郎(デッドヘッド)ならぬ脳無し野郎(ノーヘッド)……ってか」とか頭によぎらせながら、色白の男にぶっ刺されて、死んだ。



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