転落、そして。
どれだけか時間がたって、私は目を覚ました。その時、ある事実に気づいた。
あれだけ高いところから落ちたというのに、頭どころか体一つ痛くないのだ。体を動かしてみても何ともない。ああ、これが俗にいう奇跡というやつなのか。上を見ると、山の高さは案の定とんでもない高さだ。本当によく生き残ったとしか言えない。
さて、生きてるのはいいものの、この後どうしようか。スマホは持っているけれどバッキバキに割れて電源すら入らない。これでは助けを呼ぶこともできない。…まあ、呼べたとしても呼びたくないけど。
どうやって戻ろうか、とぼんやり考えていた時だった。遠くからすごい勢いでガサガサっと音が聞こえた。まさか、熊とかにねらわれているのか。
急いで立ち上がろうとした時だ。ふと月明かりが遮られたのを見て、はっと顔を上げた。目の前の月に重なって、大きな岩の上に何やらライオンのようなものが影になっている。大きい。思わず固まっていると、グァオという唸り声と共に目の前にその猛獣がとんできた。自分の2倍もある背丈を前にして、何も出来ずそのまま座り込んでしまった。―食べられる。生暖かい鼻息に恐怖を感じた。
すると、その猛獣の背中の影からひょいと人影が見えた。一瞬にして、私は恐怖より先に驚愕してしまった。え、人...?
「ねぇ、そこの人大丈夫〜?」
急に声をかけられ、私はポカンとしてしまった。すると、猛獣の後ろから一人降りてくる。ようやく月明かりで顔が見えた。赤い2つ結びの髪の女の子だった。白いコートを羽織って、胸には同じく赤いペンダントを揺らしている。長いブーツを履いていて、なんというか、可愛らしい子だった。
「こんなところでどうしたの。見ない顔だけど、遭難者?」
そう言って、彼女は私の顔を覗き込んだ。思った以上に普通の人で拍子抜けしてしまった。あんな猛獣に乗っているんだもの、無理はないか。
「あ、えっと私あの崖から落ちちゃって...」
「え?あんな上で何してたの。こんな夜だし危ないよ?」
驚いた顔をされたのも無理はない。普通あんなとこから人が落ちて来るわけないもんな。
「あの上のコテージに泊まってたんだけど、星眺めてて足滑らせちゃったの。あはは...」
しかし、返って来たのは予想外の反応だった。
「コテージって何?しかもあの上断崖絶壁でとんがった山の上だし、何も無いと思うけど。」
「え?」
私は思わず聞き返してしまった。この山のコテージは結構有名なはずだ。しかも、山もとんがってるどころか綺麗な平原だった。
よくよく考えてみれば、目の前の光景は何かしらおかしなことばかりだ。スマホはバッキバキなのに怪我はないし、日本の山の中にライオンいるし、ライオン手懐けてる人いるし、なんか話ズレるし…
「あの、大丈夫?顔色悪いけど。」
「あ、うん」
とりあえず、なんかやばいってことはわかったけど、あとはなんにも分からない。この人がおかしいのか、はたまた自分なのか。
「とりあえず、すぐ隠れた方がいいよ。もう夜だし、いつモンスターがきてもおかしくない。」
「え?モンスター?」
こんな山の中のモンスター…熊とかだろうか。でもわざわざモンスターなんて呼び方しなさそうだし。いろいろとわけも分からず、私ははてな状態だった。
「私はハイト。ここにいると危ないよ。とりあえず、話はあとで聞くから私の家来て。」
そういって、私の手を引いて立ち上がらせた。彼女―ハイトは猛獣の上にひらりとまたがった。私も恐る恐る猛獣へ近づいていく。いまにも噛みつきそうな顔つきをしているが、ハイトにまたがれてもおとなしく体を低くして待っていた。
どうやって乗ろうかとおろおろしていると、ハイトが手を差し出してくれた。その手をつかんで、私は猛獣の背中に上った。
「しっかりつかまってて。ロイ、頼んだよ!」
ロイと呼ばれた猛獣は勢いよく立ち上がると、すごい勢いで山を下りだした。岩から岩、時には川を飛び越え、木を潜り抜けていく。右に左に飛んで移動するロイに捕まるので必死だった。
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