第43話「古代帝国の魔術師」
「シュテュンプケ……」
ラインツファルトには、かける言葉が見つからなかった。目の前の人物が、一万年前の古代帝国の魔術師であり、すべての元凶であるアリオストに、破滅の力を与えた張本人。あまりにも、現実味がない。
マルティウスは、シュテュンプケを断罪するかのように冷徹なまなざしを向ける。ラインツファルトも、マルティウスも、シュテュンプケの答えを待っていた。
彼は、ラインツファルトの困惑した視線にも、マルティウスの視線にも気づいていた。彼はゆっくりと、ラインツファルトに向き直る。その顔に、先ほどまでの所在無げな様子はない。
「そうだ。マルティウスの言うとおりだ。私がアリオストに火をつけたんだ」
「な、じゃあ、あなたは……」
ラインツファルトが、どうするつもりかと問いただす前に、シュテュンプケがにやりと笑った。それは罪を背負った顔ではなく、厄介な仕事を前にした顔だった。
「わかってるさ。一万年も寝てたわけじゃない。80年前にあいつに教えたのは、ありていに言えば正解ではなかった。これ以上師匠として、弟子に好き勝手させるわけにはいかねえだろ?」
「あ、ああ……」
「マルティウス。お前さんの記憶の洞窟とやらは、ご立派なもんだ。おかげでこいつにも説明が省けた。だが、私は過去の感傷に浸りにきたんじゃない。未来を変えに来たんだ」
「どういう意味です?」
「アリオストは、私が教えた古代魔術を使っている。ならば、その魔術の弱点も抜け道も、全部私が知っている。そういうことだ」
シュテュンプケは、まだ気おされているラインツファルトの背中を力強く叩く。
「いつまで惚けてる! 私という元凶が目の前にいるんだぞ? これほど確実な切り札はないだろうが。さっさと作戦会議を始めるぞ!」
◆◆◆◆◆
「……というわけだ!」
シュテュンプケは、自信に満ち溢れた様子でお粗末な作戦を展開する。
ラインツファルトとマルティウスはため息をついた。
「無理ですね」
「俺が作戦を立てよう」
「せっかく考えたのに……」
シュテュンプケは、肩を落としてとぼとぼと丸テーブルに戻る。
三人は『古き王冠亭』の屋根裏部屋で、黒板を囲って作戦会議をしていた。部屋は薄暗いランプに照らされてオレンジ色に光っている。
「いろいろ前提条件はあると思うが、まずは特務部隊の、隊長を除く三人と合流できる可能性を考えよう」
「シュテュンプケ女史、出番ですよ」




