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第21話「偽りの再会」

「それは、ありえねえな。村には外敵を拒む加護が張られてるし、森にも複数の結界と細工が施してある。……そのせいで、グスタフは小さくなっちまったんだろうけど。その点についてはすまねえと思ってる」


 シュテュンプケにしてはしょんぼりと反省した様子に見えた。


「いいんです。先生はそれをわかって森に入ったんです。……先生は、この星の魔術を守るために、どうしてもやらなきゃいけないことがあった。それだけのことなんですよ」


 彼は懐から、小さな首飾りを取り出した。


 それは白く、淡い光を帯びてきらめいていた。かつて、グスタフから直接手渡された、大切な記憶の証。


「これは最後に先生と会ったときに頂いたものです。正直、これがどんな力を持っているのか、私にもわかりません。でも――もしかすると、これのおかげで、私は生き延びられたのかもしれない」


 その瞬間、シュテュンプケの目の色が変わった。


 一目見るなり、その瞳が見開かれる。まるで時を超えた幻にでも出くわしたように。


「これを、八十年前に受けとった……?」


 ラインツファルトは静かに頷いた。


「ええ、そうです。これに対応するもう一方を持っている相手と、縁を結んでくれるとかなんとかって話ですが……」


 半信半疑な彼の言葉とは裏腹に、シュテュンプケの手は震えていた。


 サラサラの黒髪が揺れるほど激しく、まるで消えてしまいそうな繊細な宝石を扱うかのように、そっと指先で首飾りをつまみ上げる。


「……これだ。間違いねえ。私が宮廷魔術師に指示して造らせた、秘伝の首飾りだ……!」


 呟く声に熱がこもる。


「よくぞ残っていた……! 私がこの森にこもってから一万年以上が経ったけど、この首飾りと再会するのは、初めてだ……!」



 その日は空が重たく曇り、しとしとと静かな雨が森を濡らしていた。だが、それよりも耳に残ったのは――異様なうめき声や、断末魔のような叫びだった。


 不穏な胸騒ぎを抱えたまま外へ出ると、同じように様子を見に来ていたハルトマンと鉢合わせた。


「……何が起きているんですか?」


「私にもわからない。見てのとおりシュテュンプケの失敗作とやらが騒いでいるとしか……」


「もしかしたら彼に何かあったのかもしれません。とりあえず宮殿を見に行ってみましょう。そこにいるかもしれない」


 そう言って駆け出した彼だったが――すぐに足を止めた。


 目の前に、ありえない存在がいた。


 淡いドレスを身に纏い、雨に濡れた金髪を静かに揺らす女。


「……っ」


 あり、えない。


 だがその姿は、間違いなかった。


 レナトゥス王国、最後の王、ラインツファルトの目の前で自害したはずの、レティシア・ノイシュタットだった。


 胸の奥が締めつけられる。思考が追いつかない。目に映る現実を、脳が受け入れを拒んでいた。


 死んだはずの人間が、目の前に立っている。


 守れなかった存在が、もう一度、ここにいる。


 ――これはマヤカシだ。受け入れてはいけない。


 そうわかっているのに、どこかで信じてしまいそうになる。


 ほんの一縷でも、あのとき失った現実を、取り戻せるのではないかと。


「ラインツファルト、これは罠だ。真に受けるな」


 ハルトマンがいつになく慌てて間に入る。


 ほんのわずかな間、彼らの間にしじまが落ちる。


 その沈黙は、外からの叫び声によって破られた。


「おい、まずいことになった! 私が殺された! 何者かが侵入して、……」


 ラインツファルトたちに緊急事態を知らせに来たシュテュンプケも、ただならぬ雰囲気を感じ取って動きを止めた。


「おい、どうしたんだ?」

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