2、聖女見習い
「カタリナ先輩、聖堂の清掃お願いします」
「はーい!」
教会には礼拝する場所は礼拝堂と聖堂の2カ所存在する。
前者は一般人も利用でき、後者は聖女、聖女見習い専用の礼拝施設である。
そもそも教会には大司教からなる聖職者と、聖女達が居る施設は別区域にある。
組織的にも別物であるし、聖女達の施設は男子禁制である。
カタリナは14歳の見習い聖女である。
10歳で見習い聖女となり、4年。つまり5年目となる。
前述の通り、3年以上の見習い聖女は殆ど居ない。近年はカタリナ以外皆無だ。
言い方はおかしいが、見習い聖女としてベテランである。
見習い聖女というは、聖女の補佐ではない。聖女にはメイドや侍女がつき、補佐をする。見習い聖女にはメイドや侍女は居ない。
しかし、見習い聖女だからといって、”格”というか、立場が低いわけではない。
確かに聖女に比べれば下位になるが、立場。つまり格は大司教より上、もっと言えば聖教国の教皇より上なのである。
なぜなら、聖女、聖女見習いは女神に最も近い存在で、加護を授かった者。人間が作った序列など無意味だからである。
聖女見習いの修行は、聖堂での祈り、聖書朗読、聖力制御の練習、そして聖堂の清掃である。あと、聖女が行う怪我人の治療を手伝う事もある。
最も重要なのは聖堂での祈り、であるが、聖堂の清掃も重要な修行である。
聖堂の清掃は聖女か聖女見習いしか出来ない。というよりしてはいけないからだ。
聖力は聖堂での祈りによってしか女神より与えられない。
そして、その祈りの修行を怠ると聖力は減り、行使出来る聖魔法が弱くなり、期間は人それぞれだが、やがて聖力は無くなり、2度と復活する事は無い。
(女神の祝福を授かり、聖力を得ると、10歳くらいまでは修行(聖堂での祈り)せずとも聖力が無くなることはない。なので、10歳で聖力の有無を調べるのだ。10歳を超えて修行しなければ聖力は次第に無くなり、復活する事は無い)
聖堂は、聖女、聖女見習いしか入室出来ない。そのため、聖女につくメイドや侍女も入室することは出来ない。
この事はいくら腐敗した教会であっても例外を作ることはしない。女神と繋がる場所である。下手をすれば神罰により大陸が滅ぶことになるかもしれない。そんな危険は犯せられないからだ。
聖女達の施設が男子禁制なのは、聖女や聖女見習いは婚約も結婚もしてはいけないからである。
だからといって純潔である必要はないのだが、前述の通り女神に近い存在であり、人とは別格だからである。宗教的な意味合いが大きい。
聖女見習いを3年以上する者は殆ど居ない、というのも平民なら家業の手伝いなど、貴族なら婚姻などのため、聖女にならないならそちらを優先するからである。
しかし、ベツレヘム支部は別の理由もあるが。
カタリナは孤児院出身なので、聖女見習いを続けている。15歳の成人になるまでは孤児院に帰らなければならなくなり、孤児院は入所出来る人数も限られているので、そのためである。
ここ、女神教ベツレヘム支部の聖女は現在4人。聖女見習いはカタリナを入れて3人しか居ない。
他の支部では考えられないほど少ない。
他の支部は聖女は10人以上。聖女見習いはその2倍以上居る。
なぜなら近年ベツレヘム王国では、聖力がある者。つまり女神の加護を授かったものが極端に少なくなっているからである。
流石に聖力がないものを聖女や聖女見習いにするわけにはいかない。
当然この事は、本部には伝えていない。ペトロ大司教が虚偽の報告をしているのだ。発覚すれば間違いなく監査員が飛んでくるだろう。
カタリナ以外の聖女見習いは、カトリーヌが11歳で2年目。キャサリンは10歳で聖女見習いになったばかりである。
聖堂の清掃は簡単ではない。女神像はもとより、聖杯などの御神器があり、2年目のカトリーヌでさえ難しいのだ。
しかしカタリナは流石ベテラン。カトリーヌの半分以下の時間で済ませてしまう。
今日はカトリーヌの当番だが、とある事情によりカタリナがする事になったのだ。
カタリナは実の両親の事は知らない。
ある日、産まれて間もない頃に孤児院の入口に捨てられていた。『カタリナです。ごめんなさい』と書かれた紙と一緒に。
カタリナは少し変わった子供だった。
孤児院は女神教が運営しているので、礼拝堂のような場所がある。
カタリナが5歳になった頃から、その礼拝堂でぶつぶつと独り言を言いながら過ごす事が多くなった。
そして、8歳になった時、登った木から落ちて大怪我をした子供を一瞬で治したのだ。
聖力がある子供が怪我を治す、ということはよくある事で、それで女神の加護を授かったと直ぐに分かるのだが、その怪我は擦り傷程度のもので、大怪我を一瞬で治すなんてことは聖女くらいにしか出来ない。
これには孤児院の院長も驚いた。この子は女神に愛されている、と。
そういう経緯で聖女見習いとなったのである。
「よいしょ」
カトリーヌとキャサリンが治療所の準備をしている。ちなみに二人共平民である。
聖堂の掃除をカタリナに代わってもらったのは、こういう事情があったからだ。
「寒いですね」
治療所は室内とはいえ、今は冬。
外からも入れるようになっているため、建物の中央部よりは冷える。
「暖炉に火を入れるわ」
カトリーヌはストーブの役目をする暖炉の薪に火を付けた。
「今日は多いですか?」
キャサリンがカトリーヌに聞いた。
「多いと思うよ。第4と第5合同だから」
騎士団は第1軍から第5軍まであり、魔物の討伐は第3軍〜第5軍で行う。(騎士団は各国で異なる)
第1軍と第2軍は王都防衛を担当している。
他の支部は魔物討伐にも聖女が同行するが、この支部の聖女は滅多に同行する事はない。(カタリナは経験がある)
第3軍は聖女が同行している、というパフォーマンス的な軍で、騎士でもない貴族令息の集まりであり、実質騎士団ではない。
第1軍ではなく第3軍としているのは、監査時の偽装のため。(いくら偽装とはいえ正規の騎士と貴族令息とでは体つきや動作がまるで違うため、ほとんど(偽装する)意味はない。見る人が見れば直ぐバレる)
なので実際の騎士団は全4軍である。
今回、第4軍と第5軍が合同で出撃した、という事は、魔物の討伐軍の全力を投じた、という事である。
偵察部隊が見つけた魔物が多い、という事だ。
「大丈夫かなぁ」
「そっか、キャサリンは2回目かぁ」
普通、討伐は1軍のみ出撃する事が多く、重症者は滅多に居ない。
カトリーヌは重症者は無理でも中程度の怪我や骨折くらいは治せる。複雑骨折などは無理だが。
キャサリンも、オドオドしながらも、割と深い傷でも治せる。
これも、カタリナと一緒に真面目に聖堂で祈りの修行をしているからだ。
聖堂の床や壁は聖晶石という大理石のような石で造られていて、夏は暑く冬は寒い。(この地方にも四季はある)
特に冬はかなり冷たくなるので、中々に厳しい修行となる。ちなみに聖女達は冬はほとんど修行しない。
残念ながら、現在は冬。
「カタリナ先輩が居るから大丈夫よ」
カトリーヌが太鼓判を押す。
「そんなに凄いんですか?」
「見たことないの?」
「教えてもらった事はありますけど」
「見たら分かるわよ」
前回はほとんど軽症者だったので、カトリーヌ1人で治療し、キャサリンはカタリナから準備や治療の手伝いを教わっていた。
なので実際の治療は見たことがなかった。
本来は聖女の仕事(修行)である。
ここ、ベツレヘム支部では聖女見習いが行う。もちろん本部には言えない秘密だ。
他の支部は週に1度、修行である奉仕活動で一般の民の治療を行う。(聖女見習いは手伝いとして)
ここでは、騎士団が討伐任務で負傷した時のみ行う。これも当然公には出来ない。
聖魔法(聖力)は怪我は治せるが、病気は治せない。
本来は(他の支部も)怪我も含めて医師の仕事である。聖女(ここでは聖女見習い)はあくまで奉仕活動(修行)として行っているのだ。
この支部の聖女見習いは長続きしない、というのもこれも原因の1つであろう。