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1、教会、貴族の腐敗


 ──── そして時は流れた ────


 大陸の南東の辺境にあるここベツレヘム王国は、「奈落の地」からも遠く離れており、温暖な気候で恵まれた土地である。

 しかし、瘴気の影響はあり、空は瘴気の(もや)で曇っている。


 そのため、恵まれた土地ではあるが、豊かな土地とはいえない。

 とはいえ、「奈落の地」に近い内陸部の国よりは豊かといえる。あくまで比較だが。


 当然太陽の光が直接大地に届くことはないため、作物を育てるのも大変である。もちろん内陸部よりマシではあるが。

 夜も星は見えない。そもそもこの大陸の人は満天の星なんて見たことがない。


 しかし、夜の空には光る星というものが存在している、という文献や、絵画などがたくさん残されており、子供に聞かせる絵本も存在しているので、「星」の存在は知られている。


 スタンピードの影響も殆ど無い。

「奈落の地」に近い内陸部の国の聖女や騎士団によって殆ど解決されているのだから。


 スタンピード自体も、以前は毎回大規模なものであったが、ここ100年くらいは小規模、たまに中規模程度のものが発生している程度で、内陸部の国で解決出来るのだ。

 これも聖女が出現したからだから、だろうか。


 しかし、これらの事によりに、ここベツレヘム王国の女神教の教会は腐敗した。 

 女神教ベツレヘム支部のトップは大司教である。

 特に、現在のペトロ大司教が就任してから、その腐敗は加速した。


 貴族と癒着し、私腹を肥やしているのである。

 国王も王家も事なかれ主義でそれを見て見ぬ振りをしている。


 本部である聖教国からも遠く、監査に来るのも4〜5年に一度程度であり、更にペトロ大司教はその悪事の隠蔽をする事に長けていた。

 教会の大司教の権力は強大で、司教や司祭などはその事に苦々しく思っていてもどうする事もできなかった。


 ペトロ大司教は人心掌握術にも長けていた。

 始めは反発していた勢力もいつの間にか自分(ペトロ)側に引き寄せてしまうのだ。


 教会支部は、大司教をトップに上から司教、司祭、助祭、従者、侍女。

 聖女は上から、大聖女、侍女長、聖女、聖女見習い、メイド(侍女)となり、侍女長が監督者的立場、司教が担当者となる。


 つまり聖女は大司教からの系列とは別となり、そこに上下関係はない。しかし残念ながら監督者である侍女長もあっち(ペトロ)側である。(司教はあくまで担当者というだけの立場)

 現在、この大陸には大聖女は居ない。


 女性は10歳になると、教会にて聖力の有無を調べ、聖力があれば聖女見習いとなる。(聖力の有無は7〜8歳くらいで周りの人によって直ぐ分かるのでそれほど困難なものではない)


 聖女は聖女見習いから初まり、年に一度行われる「聖女昇格の儀」で、大司教によって任命される。 

 おおよそ2年。早いものは1年間見習いとして修行すれば聖女に昇格する。


 聖力を持つ女性は少ない。聖力を与えられる者は性格など、元々資格を有している。

 聖力がある、という事は、女神の加護を授かったという事でもあるからだ。


 しかし、聖女に昇格するものは少ない。いくら聖力があっても聖女になる事はとても難しい。厳しい基準があるからだ。

 普通、3年で聖女になれなければ諦めて故郷に帰る者が殆どである。(地元で治療院などに勤めることは可能。しかし聖力は失う)


 聖女の任命は通常、厳正な審査(聖力、修行の状況、知識、品性や性格など)によって行われるが、ペトロ大司教は貴族との癒着により、聖力のある貴族令嬢優先で任命している。


 これは明らかな越権であり、本来なら重罪である。(国家反逆罪より重罪)

 しかし、聖女という地位は高く、それに伴って貴族の家格も高くなる(爵位が高くなるという意味ではない)ため、各貴族家は多額の寄付(賄賂)をする。


 このように、教会も貴族も腐敗しきっているのだ。

 まだマシと言えるのは、王国騎士団くらいであろうか。


 スタンピードの脅威は殆ど無いとはいえ、魔物の脅威はそれなりにある。

 数ある国といっても国同士が隣接しているわけではなく、点在している。


 魔物の進行ルートは決まっているとはいえ、国と国の間をすり抜けてくるものも居るからだ。

 街も同じく点在しているため、防衛ラインを形成するためには膨大な人員が必要となる。


 当然街も領軍が防衛しているが、王都ほどの人口がいないため、魔物の進行も殆ど無く、(魔物は)王都に集中するのだ。

 このため、王国騎士団は有事に備え、日々真面目に訓練して鍛えている。


 王国騎士団も王家を含む貴族や教会の腐敗については当然気づいていて憤ってはいるが、殆どが平民の王国騎士団に出来る事は無い。

 (貴族家出身者は居るが、次男や三男など家を継がない者達)


 王国騎士団で貴族は、騎士団長や各部隊長など、騎士爵(1代のみの爵位)くらいである。

 騎士爵は(まつりごと)の発言権は無い。


 教会や王家を含む貴族がこのような事をしても問題が起きないのは、やはりスタンピードの脅威が殆ど無いからである。

 尤も、スタンピードが起きれば、このように腐敗した教会や聖女達では、国は滅ぶであろう。


 しかし、スタンピードの脅威が殆ど無いとはいえ、絶対に忘れてはいけないのは「奈落の地」が無くなったわけではない、という事だ。

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何事も起きなければそれに越した事はありませんが、安寧が長く続いて緊張感が緩んでくると、私腹を肥やそうとする者が現れて腐敗が生じてくるのですか。 これはなかなか厄介な問題ですね。 そうして安寧に胡坐をか…
ここまで読ませていただきました。瘴気による魔物たちが引き起こすスタンピードと、それを何とかしようとする人々。スタンピードが何故か人の住む領域にやってくるのは、厄介ですね。 そこに奇跡のように下った女…
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