透明な泉、金色の泉、虹色の泉
『冬童話2025』、参加作品です。
冒険に出ないことも、一つの大事な選択肢なのかもしれません。
皆、冒険の旅へ出たいと空へ昇って行った。
私はここが好きなのに。
どうして皆はここからはなれるの?
大海原、高い山々、深い谷、にぎやかな街の水辺。
皆そういったところへ行けるかもしれないと言っていた。
ちょろちょろ雪解け水が流れ込むそんな水たまりみたいな泉を守る精、それが私。
すぐひとりぼっちになって。
どんなに清く透明でも、誰も飲んでくれないし、誰のことも慰められない。
皆みたいに空へ行くべきだった?
涙が出てくる。
皆、戻ってきてよ、雨が降ったあとみたいに。
でも私は自分が好き、自分が誇り。
ぐっと悲しみや寂しさにたえた。
ある春の夜、私の泉に星が落ちた。
小さな小さな金色の欠片。
泉が金色に輝いて、さざ波が立った。
光あふれる水の中、「なんてすてきなの!」とうっとりした。
でも、ここは宙じゃない。
「お宙に帰りたい?」と尋ねると
「今の自分が宙へ帰っても、地上を照らすことは叶わない。でもあなたが喜んでくれたから、ここが 好きになった。ここにいます」
と言ってくれた。
そしてお宙のことをたくさん話してくれた。
私はお宙に色がたくさんあること、とても遠くまでお宙が広がっていることを初めて知った。
金色の星の欠片は、朝も夜も一日中輝き、あたりを照らす。
泉から金色の光が零れ出す。
太陽がそんな泉にきづき、自分の光を分け与え、さらに泉は金色にかがよった。
最初に気づいたのは渡り鳥たち。
きらきら光る泉は鳥たちの水飲み場になり、しばらくするとキツネやウサギ、クマたちも飲みに来るようになった。
泉は動物たちが泉の水を飲んだり、鳥たちが水浴びをしたりするようになっても、清らかさを保った。
私の力で、金色の泉に茶が混じってもすぐに下に沈んだ。
星の欠片は、泉の中にある雪解け水の湧き上がる場所にいて、その揺らぎを楽しみ、動物たちと様々な話をした。
団栗がころんと落ちる音。
花が咲くとき、見えないけれど特別な何かが零れ落ちること。
森の木々の間を通る風は緑色をしていること。
たくさんたくさん話し、もちろん私も聞いていた。
「もうすぐ雨の季節ね」
「そうか。そんな時期か」
星の欠片は、雨の季節は地上が雲に覆われてしまうため、その様子をあまり知らなかった。
「いくつもいくつも小さな水たまりができるのよ」
「それはすてきだね」
「たまに晴れると、たくさんの水たまりが虹を映すのよ」
そこへ生まれて間もない山鳥が口を挟んだ。
「そうなのだね。その水たまりたちもあなたみたいに虹色になるの?」
「え?」
私は羽をはためかせ泉の姿を改めて上から見てみると、確かに煌めきは虹色をしているではないか。
いつこんな風に?と驚いた。
山鳥と星の欠片は交互に
「ほんとうに綺麗な泉だと思うよ。ぼくは広い世界を見て、あなたみたいな泉を他でも探したいな」
「山鳥さん、それはとてもすてきなことだね。この泉は、ぼくやたくさんの動物たちの楽しい話をきいて、たくさんの綺麗なものに触れたから、虹色になったのではないかと思うよ」
とそれぞれに言った。
「そうかもしれない。でも知っている?楽しいことばかりでなく、悲しみや寂しさも綺麗なのよ」
「あなたは悲しみや寂しさを持っているの?」
「ぼくは生まれたばかりで、悲しみや寂しさはどんなものか分からないや」
「私は持っていたし、今も持っているわ。あなたたちがいなくなったら、また出てくるもの」
「大事に想っている者がもしいなくなったら……か。本当だ。悲しみも寂しさも綺麗なものだと今気づいたよ」
「たしかにぼくもこの泉がなくなったら……。そういう気持ちかぁ。大事な気持ちだね」
「だから山鳥さんもここから飛び立っても、近くに来たら寄って話をきかせてちょうだい」
「うん。そうする」
雨の季節になって、虹を映す水たまりはいくつもできても、虹色そのものの泉は一つだけだった。
だから水たまりたちは太陽に頼んで、冒険に出た。
理想の自分を目指して。
もしかしたら虹をつくる子だって現れるかもしれない。
でも……でも私は……。
「ここにいてよかった」という私に
星の欠片や動物たちは
「ここにいてくれてありがとう」
と心から伝えてくれた。
おわり
お読みくださり、ありがとうございました!
もし何か心に残られましたら、評価、ご感想などいただけると、とても嬉しいです。
イラストは辻堂安古市様が描いてくださいました。
辻堂様、ありがとうございます!