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女子会 ~KISAKIHIME~

竹輪麸って無敵だと思う。

 ヤカミは吊し上げられていた。クマノと、

「お祭り。要るよね。ねえ。キー坊?」

 ヒジキと言う旧い神と、同じく旧い神の、

「キー坊もお母さんかぁ~。母は子を守るときのみ無敵なのよぉ?」

 オトヒメに。どちらも七代の女神だ。ヒジキは恰幅(かっぷく)のよい割烹着姿の優しいおばさん。オトヒメは年齢不詳なミステリアススレンダー美女だ。

未熟者(みじゅくもん)でした-ッ! すんませんでした-ッ! ちょおぉぉ? な、泣きますよ? それ以上されたら泣きますからね?」

 ヤカミは亀甲に縛られて卑猥な(エロい)ことをされている。主に鼻の穴をティッシュで作った紙縒(こよ)りで(くすぐ)られている。もちろん着衣のままだ。

 一方で、

「どうぞクマノさま」

 スセリはしたたか。瞬時に親友(とも)を切り捨てクマノたち(強者)服従(奉らう)。どこから取り出したのか、鼻フックを献上する。イワノや他の女子たちは海老反りに吊られるヤカミと七代(セブン)女子たちにドン引きだ。

 事の起こりはブリーフィング解散後へと(さかのぼ)る。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


「ヤカミ。イズモの案内を頼みたい。お願いできますか?」

 クロが声をかけてきたので反射的に答えようとするが、合う。

「で、月の特命課長(デリケートゾーン)(うず)くので…」

 目が。クロを獰猛に補足(ロックオン)している単身者女子たちと、

「……」

 ウカノと会話しながら、こちらに視線を向けてくるクマノと。前者の視線は、

――譲れッ! リア充ッ!

 との圧が眦に滲み出て、後者の視線には、

――ちょっと話そうか?

 無言の圧が籠っている。吐息をひとつ、

「スセリ。手は空いているな。クロさまをご案内してさしあげろ。クロさま。アメノムラクモには神威タット決済機能がございます。それでお食事やお買い物ができますよ。柄頭(ツカガシラ)を――」

 特命課長しか知り得ぬことをレクチャーし、

「ご指名してやったんだ。終わったらいつものところに来い。拒否権は認めない。ウカノ姉ちゃんと話している小母ちゃんもくる」

 スセリの首をガッチリとロックし小声で要請(ヨーセー)。メンドーごとの気配を感じ、

「OKヨミホトで落ち合い――」

 空返事を発行するスセリを、

「クマノさまぁ~! ご無沙汰しております。このあとお時間はございますか? ヤソ女子たちと女子会するんですけど、クマノさまもご一緒に女子会しません?」

 牽制(ケンセー)。尚且つ、

「おまえたちも来い。な?」

 肉食系女子たちも巻き込む。

「い、いや行きたいんだけどさ、今月――」

 イワノはクロを追い詰めていたクマノがただ者でないことを見抜いている。財布のピンチを理由に逃走を試みるが、

「案ずるな逃がさねえ(奢ってやる)

 ヤカミはそれを赦さない。

「課長だから福利厚生費で落とせる。せいぜい敬いたまえよ諸君」

「「「巻き込むなッ! 独り(さっすが)で死んでこいッ!(課長!)」」」

 ここで、

「楽しそうだね」

 ポツリとクロ。

「なんだゲン坊、酒なら付き合うぜ?」

 コロクが誘うが、

「酒は造る方が楽しいからいいや」

 クロは振る。ちぇーっと口をすぼめてコロクはクマノをチラリ。

「女子会です」

 クマノはコロクにノーを突き付ける。


★ ★ ★ ★ ★ ★ 


 祭りは要らない発言の制裁を受け終え、

「ちょっと鼻フックってひどくない?」

 ヤカミはスセリにジト目を貼り付ける。

「いや。外していいよ」

 スセリは言うが、鼻フックをそのままに、

「鼻フックを外すのって、勇気いるよね…」

 ヤカミは哲学的な遠い目をして棚を見る。

「「「いや、いらねえし」」」

 肉食女子たちの総ツッコミを、

「ふぅ。やれやれだぜぇ」

 さらりとヤカミは受け流す。

「ヒジキさん。ハツにネギマ。どっちも塩で七味振って」

 ここはヤソ隊女子の溜まり場、神楽酒場、黄泉のほとり(ヨミホト)。旧い神であるヒジキが営むヤキトリが推しの居酒屋だ。神楽の名の通り、

『さあ、来なさいヤマタノオロチ!』

『がおぉぉぉ!』

 三百年前の故事が神楽で観劇できる居酒屋だ。演じているのは子供たち。親はない。イズモの神もタカマノハラからの密航者も、基本的には奔放だ。特定の伴侶を持たずに夜な夜なツマドイするのが常である。そうして奔放の先に子が生まれ、その多くはヤヱガキの外れに捨てられる。ヤカミのように伴侶を持っている方が珍しい。(ただ)れた神々の子供たちの救済に用意されたのが神楽と名のつく商業施設だ。子供たちはそこで学び働き大人になる。飽きっぽい子供たちに劇をさせたり歌わせたり踊らせたりしてガス抜きをはかっていた。

「於スサが考えたんですってね。このお芝居の筋立て」

 冷や酒をチビりと舐めてクマノ。

「ヒーロー扱いされるの大嫌いなくせにさ…罰なんだってさ。こうなることが想定できなかった自分への。スサちゃんのせいじゃないのにさ…」

 ヒジキは憤然と吐き捨て、グラスの酒を一息に煽る。串焼きは手塩にかけた弟子たちが手抜かることなく焼いているが、

「焼きが甘いッ!」

 時折、手厳しくダメ出しする。

「ウィマム!」

 威勢よく答えて、串を返し、

「青い瓶のジンでジントニック。ほら、おまえたちも好きなのを頼みなさい」

 ヤカミに促される肉食系女子たちは、

「「「まずそれを外せ!」」」

 声を揃えて総ツッコミ。吐息をひとつ、やれやれをしながら鼻フックを鼻から解除、

「い、いや要らねえし」

 突き返された鼻フックをスセリは拒絶。

失礼(シツレー)ね。鼻水なんかついてないわよ」

「それでも結構。お義姉(ねえ)さまにさしあげますわ」

 再度スセリは拒絶し、鼻フックをヤカミの顔まで押し戻す。

「お義姉(ねえ)さまに鼻フックをプレゼントってどうよ?」

 憮然としながら、鼻フックをハンドバッグにしまおうとして、

「拭きなさい」

 スセリはウエットティッシュを押し付けそれを阻み、

「ミイがあんたみたくなったら、怒るからね? あたしも母さんも」

 姑を持ち出された瞬間、

「さーせんッ!」

 ヤカミは全面降伏。吐息をひとつ、

「ヒジキさん。あたしレバータレで、あとあたしにもジントニック」

 肉食系女子代表のスセリはオーダー開始。

「あたしレバータレとヒジキご飯と、ネギマタレと塩ハツとチュー生」

 勢いよくオーダーを通すイワノに、

「「「ダイエットは、どうした欠食児童」」」

 女子たちはツッコミ。

「クロさまが、しっかり食べなさいって言ったも~ん。あと、『綺麗(キレー)だよ君は…』って、ウチ、男にキレー言われたの初めてだ~」

 イワノは先刻(さっき)を思い出して恍惚(コーコツ)に身悶え乙女。スセリの背中をバシバシと叩き、

「あらゲン坊ってばやるじゃない」

 ここでブラッディマリーのグラスを片手にオトヒメ、

「お嬢ちゃん。ゲン坊はこうも言ってなかった。食べすぎはダメって…」

 チュー生を別のグラスに半分あけ、そこにトマトジュースとレモン果汁とタバスコを投入。

「さあ飲んでみて、栄養はバランスよく。でしょ?」

 年齢不詳なスレンダー美女はクロが言ったであろう言葉を反芻し、

「うっま。で、でも誰だ――」

 一口クピリとレッドアイをすすってイワノは感嘆、

――誰だよ。あんた?

 無鉄砲なイワノが無礼を働く前に、

「いっ痛ぁ~! な、なにすんだよ課長(カチョー)?」

 ヤカミは強めのチョップを叩き込み、

「ん~? チョップ…感謝して~?」

 ジントニックをチビりとひと舐め、すっとぼけ、

「な、なににだよ? ウチは課長(カチョー)と違ってMじゃないぞ?」

「オトヒメさま。あたしにもレッドアイちょーだい」

 イワノの抗議(こ~ぎ)を措いて、ニシシとねだる。

「もうスッカリ課長(おねえ)さんなんだねキー坊も…」

 オトヒメは感慨深げに微笑(わら)うと、グラスにトマトジュースを注いでウスターソースをひと(たら)し、

「失礼します。キー坊ってヤカミのことですよね? どんな由来が?」

 スセリはごもっともを尋ね、ヤカミとオトヒメは顔を見合わせ、

義妹(いもうと)のスセリです。旦那の妹。お兄ちゃん子(ブラコン)です」

 ヤカミはスセリを紹介、

「木の股に捨てられてたのよ。あたしも…」

 ポツリと置いてレッドアイを一口クピリ。

「あの子たちとおんなじ。ウカノ姉ちゃんに会うまではキサキって名乗ってた」

 ヤカミは淡々と荒んだ過去を語ってやる。気がつけばストリートチルドレンのリーダー格になっていたこと。食べるために、食べさせるために罪を重ねていたことを包み隠さず。このことを知らないのは、ヤソでは少ない。イワノもヤチホコももとはヤカミのグループにいたストリートチルドレンだ。

「こ、このタイミングで言う?」

 スセリは困惑気味に混乱、

「幻滅した?」

「いや、あんたのどこに憧れをいだける? ちょっと黙って…」

 情報を咀嚼し、ヤカミのグラスをひったくりレッドアイを一息に煽り、

「ミイに言うなよ」

 スセリは釘。

「ごめん。ミイも知ってる。なんなら捨てられてた木の股も見せたし」

 ヤカミはシレッ。スセリは吐息をひとつ、

「ミイはなんて?」

 尋ねて、ジントニックをチビりとする。

「ママはママでしょ?――ってさ」

 ここで、ふたりはジントニックを一息に煽り、

「「うちのミイちゃんマジ天使!」」

 息ピッタリに異口同音。

「じゃあいいや」

「そりゃどうも」

 キープボトルのバーボンをふたつのグラスに傾け、チンとグラスを鳴らせてふたりはハードボイルド。そんなふたりにオトヒメは微笑(わら)い、

「それでスセリちゃんは、ゲン坊をどう思った~?」

 率直に問う。

「チョロいですね。あのままじゃ、変な女にチョロく引っ掛かります。早急なシェリーの保護を具申します」

 スセリは真顔で提案。しかし、それが地雷だとは当のスセリも思わない。

「その話。小母ちゃまに詳しく~」

 肩にクマノの手がポンとおかれ、スセリはビクリと身を竦ませる。心なしか、のせられた手の圧が強い。

「あたしも聞きたいねえスセリ」

 ヒジキは亀甲縛りな神器を発動。忽ちスセリは海老反りな亀甲縛りで吊るされる。

「えっ、あたしヤカミじゃ、な、ないんですけど…その()、ない、ないからぁ~」

 スセリは泣く。救いを求めて、

「た、助けてお義姉(ねえ)ちゃんッ!」

 懇願するが、

「ごめん無理。七代(セブン)だよ? 無理無理、りーむー」

 ヤカミは拒否して情報開示(爆弾投下)

「こんな時だけ、お義姉(ねえ)ちゃん呼ばれてもねぇ~。敬いが足りてなくってよ」

 オホホと笑って、席を立ち、

「お義姉(ねえ)ちゃんッ! ヤソ最強なんでしょ? ま、待って行かないで~?」

 ヤカミとイワノは店を出て、眦を鋭く、奔放なアンポンタンたちへと対峙する。

「あたしだけでいいよ。課長(カチョー)

 と、イワノ。店から聞こえてくる卑猥な悲鳴(エロい声)に若干の同情。

「いいの。あいつは調子乗り過ぎ~。いいクスリよ」

 ヤカミは獰猛に冷笑(わら)うと、

「諸君らには黙秘する権利があるが、その権利の行使はオススメしない」

 ハードボイルドなヤソ隊きってのふたりの猛者は、アマツカミな奔放な密航者へと距離を縮めるや捕縛する。ふたり、いや無責任な男どもの成果物(子供たち)は、得てして同じ手合いの男どもが嫌いである。

「お義姉(ねえ)ちゃんは最低限をこなしたから帰ります。あ、勘定してねえや。イワノ払っといて」

 懐から取り出した財布から勘定には、じゅうぶんなウケイ札を握らせヤカミは家路につき、

「おやすみなさい。キサキ姉ちゃん…」

 イワノはポツリと呟き、店に戻った。

竹輪麸出てこないけど。

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