解決の始まり ~OHGETSUHIME?~
末尾に?がつく神さまって…
「なんでだろう…フラれて嬉しいって…」
泣きながら笑うヤカミに、
「ドMだからでしょ」
エベっさんは辛辣。土瓶蒸しのキノコをパクり、古酒を一飲み。
「そ、そうだけど…」
「今が大事ってことさ。壊させないよ――知ってるかヤカミ? 俺は仮初めだけど、王さまなんだぜ。王さまは、みんなの大事なものを護るのが仕事だ。だから、感謝なんて要らねえ。しっかり働いてくれりゃそれでいい」
クロが纏めようとすると、ヤカミはうつむき、
「あたしの大事…」
且つ台無し。すかさずに、
「いっ痛~ッ!」
クロは、ヤカミの頭に強めの手刀を叩き込む。
「そっちじゃねぇわッ!」
吐き捨てながらクロは嘆息。ヤカミの通常運転に安堵する。
ここで、コロクが目配せ。
「もう休め。片付けはやっておくから」
「クロさま、マジ、超旦那さま…浮気しようかしらヤカミ…」
不穏な発言を、
「俺にも選ぶ権利あるからな?」
一蹴に封殺。厨房に入り、片付けをすることで退室を促した。
片付けを終え、
「艦橋がいいかな。結界もだ」
コロクとシキンに視線を向けると、ふたりは指をひと鳴らし、四人の姿は、結界を張られた艦橋に移された。
◆ ★ ◆ ★ ◆
風呂から上がったばかりの、ミイとウカノと出会す。少しバツが悪い。泣いてばかりだ。子供の頃に泣き足りなかったのだろうか? そうかも知れない。泣いてるみんなを、笑わせる係だったから。
ミイは、着替えを押しつけ、転瞬に疾駆。ピョンと跳ぶや、母に抱きつき、
「お酒くさい」
苦言。ミイの胸から自分の胸に伝わる心音に、乱れていた心音が凪ぐのを感じ、
「大人の特権だよぉ。ママ、超頑張ったのッ!」
天井を仰ぎ見て、瞳に涙を飲み込ませ、おどけた声音に開き直り、ギュッとミイを抱きしめ、
「ウカノ姉ちゃん。あたしも泊めて」
甘える。吐息をひとつ、
「5タットになります」
ウカノは、ミイごとギュッと抱きしめ請求する。
――泣いたら5タット
義姉妹の取り決めだ。こっそり泣いていたヤカミに課した、義姉からの罰則だ。
「ほら、歯ぁ磨いてきな」
包容を解き、ウカノはピシャリとお姉さん。目を腕でゴシゴシ拭いて、ヤカミの姿は浴場に備え付けられた洗面所へと消えた。
壁に背もたれ、
「ミイ。わかっているでしょうけど」
釘。ウカノの釘にコクリと首肯し、首肯するミイの頭をウカノは撫でた。
★ ☆ ★ ☆ ★
結界の張られた艦橋で、
「隣国の住人が、高天原を経由して、葦原中津国に移住したことは?」
過去事例の洗いだしに取りかかる。
「ありませんな。それにヤクサの娘にしては――」
「老化が早い…」
クロの言葉にシキンが頷く。ウカノの本来の姿は、十代中盤だ。テラスの娘であるウカノよりも、ヤカミの老化が早いのは、明らかに異常のだ。七代に比肩する神の子だ。つまりはクロやテラスと同格なはずだ。ウカノより老化が早いのは異常。
「ヤクサの切り札だったんだろうさ。ゲン坊だったら、かみさんが、老いさらばえるのをヨシとしねえだろう?」
「あぁ。ゲンちゃんは、そのタイプだろうね…葦原中津国から、黄泉比良坂に移住しちゃうだろうね…」
コロクと道祖神の意見は概ね同意だ。そうする自信がクロにはある。
考える。クロは考える。思い浮かぶのは、
「アダシ・トコシヨと黄泉比良坂を結ぶ」
そこに行き着き、
「因果を書き換える」
その結論に到達する。静かな声音に結論を告げると、
「いけませんウツシ!」「ダメだゲンちゃん!」
八意と道祖神からは、待ったがかかり、
「大六天」
「任せておきなゲン坊」
冒険的な決断を好むコロクは、矍鑠に請け負う。
「おいおい、怖ぇ~顔すんなよ? 言っとくがな、ウケイの結果は、今んところ儂の全勝ちだぜ? 三日でここまで片付くとは思ってねえだろう? 儂はゲン坊なら、一週間もあれば、諸問題を解決するって信じてたぜ? なんせ、儂らの最高傑作だぜ?」
コロクは、ジジババの秘密を、シレッと暴露。コロクを鋭い眦に射貫いていた八意と道祖神は、ジト目を貼り付けるクロとエベっさんから目を反らし、
「「そんなこったろうと思ったよ」」
ジト目を貼り付けるふたりは、乾いた声音に異口同音。
「一週間は無理だよ。父さんに話通すのに、少し時間が掛かるし、祭りの時期は、来月の予定だ。因果を書き換えるには――」
クロが言い掛けると、結界を破ってひとりの巨漢。ウザすぎるフリルをふんだんにあしらった着物に身を包んだオーゲツだ。
「呼んだお義兄さま?」
「呼んでねえッス」
クロは、すげなくスルーする。
「宛ならあるッス。いいッス。ハクサンの小母さまに頼むッス」
ひたすらにスルー。しかし、オーゲツ、
「あら、いいのぉ? あいつ、あたしの姉よ?」
情報開示。言われてみれば、享楽目的で混ぜッ返すところがソックリだ。
「まったく次代の結びの皇子さまどもはぁ~ッ!」
クロはウガァと髪を掻き毟る。
★ ★ ★ ★
クロにとっては最近の過去が脳裏を過る。
「カグチ。クロはおまえの兄だ。確かにそうだろう。じゃあ、そこの重装能天気やスサはなんだよ?」
弟のカグチが、オーゲツに殴り飛ばされている。老けたなぁと思う反面、スサの中で溜飲が下がった。
「てめぇは兄貴じゃねぇのかよ? こいつらの親じゃねぇのかよ? あぁッ?」
同じことを、つい最近に父に言ったばかりだ。
「と、突然どうしたんだオーゲツッ!」
ギャン泣きをやめたテラスが慌てて止める。が、
「てめぇが今は、旦那で居ろっつったんだろうがッ! どいてろ能天気豆乳メンタルッ!」
オーゲツは止まらない。立ちはだかるテラスを払いのけ、
「高天原で土地神が死ねば死んだ土地神は中津国に帰るッ! 中津国の次は根の国だッ! 刹那の自由ってのは、そう言う意味さッ! あたしが怒ってんのは――」
カグチの胸ぐらを掴んで、もう一度殴りつけようとする。
――やり過ぎだ。スサ止めてくれ!
スサの中でクロは懇願した。
『あなたは、誰です?』
スサは冷たな声音に問い返す。
――誰でもいい。頼む。取っておきの術を
餌で釣ろうとして、
『禁厭のやり方も聞いてません。あなたとのウケイは、ぼくの勝ちでしたが、その辺りは?』
スサの声は、どこまでも冷たい。
――悪かった。謝る。ごめんなさい。だから!
スサは吐息をひとつ、
「ナキとナミを盲信して、思考を放棄し、守るべき者のことを差し出したもおなじ――だからでしょ?」
クロの願いを聞き入れ、クロの神の爪を使いオーゲツを止めた。
☆ ☆ ☆ ☆
「ゴリネエ。因果の書き換えに力を貸して欲しい。対価になにを望む?」
「肉弾戦」
即答するオーゲツに、クロは転瞬に消えるや、注文通りに臍下を掌打に撃ち抜いた。
「い、いきなりは、狡くない?」
撃ち抜かれた臍下を抱えて、腰をくの字に曲げ、涙目に訴えるオーゲツに、
「高天原に神の爪置いたままで挑んで来るから、ナメてんだと思って」
柳眉を逆立てニコリとクロ。クロも神の爪を封じている。術も使っていない。つまりは勝負ありだ。
「は、ハンデくらいあってもいいと思う」
「ついてるよ? コネバアが過重したままだもの。でも、これって俺の研鑽にならないんだよねぇ。変な癖がつくし、過重解いたらやっぱり型が崩れるしさ」
シレッと宣うクロに、オーゲツはぐぬぬとし、
「この反則野郎がぁ」
負け惜しみ。
「お褒めにあずかり光栄です。それでゴリネエ。手ぇ貸せよ」
「もの頼む態度って、知っていて?」
「え、ほら俺って社会経験の浅い未熟者だからさぁ」
キーっと悔しがるオーゲツと、クロのやり取りは、親友同士のそれそのものだ。このふたりは、相性がいい。思考傾向も、仲間や家族に対する姿勢も通じ合う。なにより妹の旦那である。うん。親戚付き合い?は、良好だ。
差し伸べられた手を、
「任す」
互いに、
「OK。任された」
パチンとひと打ち。ふたりは、不敵に微笑いあい、七代の先達は、そんなふたりの姿に解決の始まりを予感した。
◆ ★ ◆ ★ ◆
気づけば朝だ。夢を見る暇もない。艦橋で仮眠し、浴場でサッと汗を流し、隊服を着こんで濃紺の外套を身に纏って、格納庫へ向かう。
「どこ行くの?」
肩のエベっさんの問いかけに、
「龍穴さ」
ポツリと答えて、飛翔鰐に跨がり、馴れた手付きで発進。とは言え、一人で乗るのはこれが初めてだ。
暴れる飛翔鰐を、宙空に御し、
「強行偵察型長官代理行きまぁ~すぅッ!」
様式美に宣して加速する。
もちろん、目的は偵察などではない。因果の書き換えだ。朝飯前に済ませるつもりだ。
朝飯の後だと、きっと反対されるから。
「クロ…いろいろあったね…」
ポツリとエベっさん。
「…うん。そうだね…」
クロもポツリと答える。
「楽しかったね…」
「やめてよ…エベっさん…」
クロは目尻に滲む涙を拭うように、飛翔鰐を、更に加速させる。
「エベっさんはエベっさんでしょ? 俺の因果を書き換えたって、エベっさんは消えたりしないからッ! させないからッ! そんなことッ!」
吠えるように不安を掻き消すクロに、
「頼りにしてるぜ相棒」
エベっさんは、いつもの軽口にハードボイルド。
「OK背中は任されたぜ」
軽口に請け負うクロは、龍穴に降り立つ。そこに、
「君たちには黙秘する権利があるが、その権利の行使はオススメしない」
ヤカミ。細い鞭をペシペシと手を叩いて弄び獰猛な眦に威嚇。ヤカミだけじゃない、
「長官代理、免許取ってないッスよね?」
アナムチ、
「「「最後まで足掻けって言ったの長官代理でしょ?」」」
八十神たちに、
「エベっさん。まだビール奢ってもらってませんからね?」
スセリに、
「「説明してくれるよね?」」
コメカミをピキらせ、テラスにウカノ。テラスの手には、ぐったりとしたオーゲツの襟首が握られている。
つまりは、みんながそこにいた。
「ご、ごめん。見つかっちった」
オーゲツは、テヘペロに詫び、
「そう言うところ親父似だよな兄貴? 痛いから、そうゆうの」
と、辛辣にツクヨ。
「頼りになるね相棒」
腕で、クロの目尻を拭ってエベっさん。
「そうだね」
掠れた声音にクロは答え、大音声に、
「因果を書き換え終わりにするッ! みんなの知恵と力を、俺と中津国に貸してくれッ!」
救援要請。龍穴に集った神々は、
「「「「応ッ!」」」」
大音声な鬨に応えた。
歯医者が怖いなら、歯を磨けばいいじゃない。
歯医者に行ってきます。歯も磨いてます。定期検診は拷問だと思う…




