龍穴と龍脈 ~YACHIHOKO~
アナムチたちに測量を任せ、ニタマとモノモチが引いた図面に目を通す。
「風情って知ってる?」
エベっさんはジト目に辛辣。神殿な浴場は、風光明媚な景色にそぐわない。
「「だって、行ったことねぇもん」」
ふたりは、ふくれッ面で不平不満。うん。無理もない。ここで、
「行ってみる?」
ハクサンが助け船。すかさずに、
「小母さま。マグマは風呂って言わないから…」
クロは止めにはいる。ここで、
「むうぅ? 知ってるわよぉ。蒸し風呂で…」
「熱波もサウナじゃねえから。こう言うのだよ…」
クロがサラサラと絵にすると、
「抽象画は…ちょっと…」
後ろから覗き込んだスセリがポツリ。クロは嘆息、
「エベっさん。イメージ転写してー」
エベっさんに依頼。エベっさんが没図面に手を添えると、
「「スセリじゃん?」」
「ちょ、エベっさん?」
少し際どい肌露出画なスセリが、露天風呂に浸かろうとしている絵が転写される。もちろん、タオルで隠すところは隠してある。
「うん。そんな感じだ。眷属の方々もご利用になるから、露天風呂で良いと思うよ」
肌露出画をスルーし、肥満体ズに説明し、神殿浴場の図面は差し戻し。
「アナムチ、ここに大穴を穿てるか?」
アナムチはコクリと頷き、異能を使うが、
「そこが龍穴ね。意図的に封じているみたいね」
異能は途中で掻き消されてしまう。ハクサンの言葉に、
「龍脈が育つのを待っている…」
クロは推測、ハクサンはコクリ。
「コロク小父さんたちが待ったかけてくれてよかったよ」
ホッと安堵の吐息をし、
「じゃあ、ここを中心にして、周辺の整備を始めよう」
クロは陣頭に立って指揮を採る。
◇ ◆ ◇ ★ ◇ ◆ ◇
ソミン拠点を、ミイとタマモが歩いている。後ろからは、お目付け役にタツキがついてくる。
「タ、タマモの独自性が…」
ミイはしょんぼり肩を落とし、
「い、いやあれアフロじゃねえから…天然パーマだから…」
タマモは、困惑気味にミイをなだめる。タツキの手にかかれば、天パも忽ち風流髪音な中長髪だ。確かに独自性はない。ミイと被る。違っているのは髪の色だ。タマモの髪は金髪だ。ミイは黒。
金髪の中長髪が、暴走族なツナギを纏って、煌めく上着を着た田舎岩なミニを履いているミイを連れて歩く姿は、どこか微笑ましい。ただ、その後ろを、メイド服の狐耳美女が付いているのだから、少し異様にも映ることだろう。なお、タマモは狐耳ではない。
「ここにしましょう。ミイはこう見えてお嬢さまです。義姉なタマモにも、それ相応の服装をしてもらいますよ…」
ミイが足を止めた服飾店の方向性は、
「え、えぇ~黒神秘童女かよぉ」
黒神秘童女服飾だ。
「膝丈靴下は黒と桃の縞柄の一択ですね」
タツキの選択に、
「さすがタツキさんわかってる!」
ミイは共鳴。店の前のワゴンから、黒のブラウスをタマモにあてがい、徐々に後退るタマモをタツキが、
「さぁ、可愛くなりましょうね?」
獰猛な笑みを湛えて捕獲。引くつく笑顔を浮かべるタマモのことを強制着替人形へと引きずり込んだ。
引きずり込まれるタマモのことを、生温かいジト目で見送り、
「二日でこれだぜ?」
「そうね。まだ二日よね」
ヤチホコとカワノは、深々と嘆息する。違法な神々を取り締まり、影響範囲を拡大し、尚且つ、八十神隊の品質を向上させた。停滞していたイズモヤヱガキに嵐を起こし、解決の糸口を見出だしたのは、幼いミイとタマモたちだ。対して自分たちはなにもして来なかった。数十年も。
「「情けねえ…」」
落ち込むふたりに、
「「いっ痛ぁ~!」」
強めのチョップ。
「辛気臭い顔すんじゃないッ!」
鼻息を荒げてヤカミはピシャリ。
「遅れたなら、巻き返せばいい。それだけだろ?」
ピシャリとふたりを叱りつけ、
「ただでさえ出遅れてんだ。これ以上モタついてられっか。カワノは、キテイ殿たちと新生ソミン拠点住人たちへの指導。ヤチホコはあたしと龍脈調査だ」
下知するが、
「え、課長とヤチホコでしょ? 二大脳筋じゃん」
カワノは率直、
「甘いなカワノ。あたしには強い味方が居る! ミイちゃ~ん、ママのお仕事見てみない?」
ヤカミは無計画。着せ替え人形に夢中なミイは、
「ん~。後で~」
スルー。娘にあっさり振られたヤカミは、ヤチホコにジト目を向けて、
「…ッだよッ脳筋かよ…」
チッと舌打ち吐き捨てる。
「いや、決めたの課長だからね?」
ヤチホコがジト目を貼り返すと、
「お困りかい? 課長さん」
女将が助け船。
「遊撃小隊四神に依頼したい。龍脈の調査に御助力願います」
ここで組合長、
「へい。組合長こっち! 組合通して!」
お約束に喚くキテイを、
「うちらでよければ喜んで」
「助かります女将さん」
華麗にスルー。しょんぼりと肩を落とすキテイに、
「「ど、ドンマイ」」
カワノとヤチホコのふたりが激励。
「てかッ! お嬢が黒神秘童女キメねえからッ!」
黒神秘童女服装をキメたタマモが涙目で店から飛び出してくる。黒のレースがふんだんにあしらわれている黒のブラウスは、タマモの独自性とは真逆である。彼女の白い肌は、まるで月夜に浮かび上がる雪のよう。大きなリボンがついたカチューシャが、タマモの顔を引き立てていた。彼女は深紅のルージュを塗った唇を尖らせ、涙目に瞳を潤ませている。独自性を全否定されたのだから当然だ。
「へいッ! 義姉! 似合っていますよ! 手伝わねえぞ? ママ?」
逃げ出してきたタマモをギュと捕獲して、
「諦めろタマモ?」
バキリと恫喝。タマモは苦悶の表情を浮かべ、
「ギブギブ。わか、わかった…わかったから…」
ヤカミの背中をタップする。
間近で女子の恫喝合戦を観戦していたヤチホコとキテイは、
「「あぁ~、癒される~」」
女子の恫喝合戦に参戦しないカワノにほっこりした。
★ ☆ ★ ☆ ★
龍脈とは、大地を流れるエネルギーの流れのこと。龍が這っているような形にたとえられて、そう呼ばれる。このエネルギーの流れは、山脈や川、地形などに沿って流れると考えられている。龍脈は、大地に生命力を与え、その土地の気運を左右すると考えられている。
龍脈が地上に現れ、エネルギーが凝縮されている場所が龍穴だ。龍穴は、エネルギーが噴出する場所で、この場所には力強い気が満ちている、特別な場所だ。
龍脈は川のようなもので、龍穴はその川が流れ込み、水が溜まっているような場所だ。龍脈が大地を巡り、龍穴でエネルギーが放出されることで、その土地は活力を得ることができる。
日が暮れる頃には、あらかた施設が整いはじめていた。本気を出したヤソ6とヤソ7の仕事は早い。伊達に神さまじゃないのだ。
「ちょ、エベっさん!」
脱衣所の壁に貼り出された貼り紙にスセリは憤慨。ウサギ娘の衣装に身を包んだスセリが、ビールを給仕する貼り紙だ。
「諦めろ。売上のためだ」
エベっさんはにべもない。
「いいんじゃない? ビール飲みたくなる」
クロは支持。さすがに、
「クロ?」
無理筋だ。ジト目を貼り付けるスセリから視線を反らして、
「エベっさん」
「甘いなぁ~クロは…これは落第点の罰則だよ?」
要請するが、エベっさんは頑なだ。
「ダメだって」
クロは、あっさり翻意する。
スセリのジト目から逃れるように、
「おっ、いい匂いだね? なに作ってんのニタマ?」
匂いに釣られて、その場を離脱。
「総隊長」
「却下だ。総隊長をクロと一緒にするな。失礼な」
エベっさんも大概失礼。ニタマが作る煮卵に釣られて、その場を離脱。残されたスセリは、
「ニタマ! あたしにも味玉拉麺ッ!」
やけくそ気味に注文を通し、周りのみんなを笑わせた。
澄んだ醤油スープに、つるつるの細麺が映える。トッピングは、とろけるような半熟の味玉と、刻みネギだけ。余計なものが何もない、シンプルな一杯。一口すすると、麺の喉越しとスープの香りが口いっぱいに広がる。
簡易的に設けた休憩所で、ニタマがこさえた味玉拉麺をみんなで啜っていると、
「俺にもくれよ」
届いた声に、八十神隊隊士たちは一斉に居住いを正し、
「戦々恐々せんなよ」
声の主、ツクヨにクロは苦言。苦言に苦笑し、
「呼んだの自分じゃねぇか?」
供された味玉拉麺を啜った。
「ハクサンの小母さま――」
紹介に言葉を選ぶクロに、
「弟のツクヨです。ハクサンさま。その節は、父と母がお世話になりました」
とツクヨ。
「ツッくんは、ナキっちとナミのいいとこ取りだねぇ」
間近で観察しハクサンは、ほぉと感心する。クロとスサは、母親似だ。
クロは苦笑し、
「拗らせてただけだけどな。それで、会談なんだが、ご同席をお願いしたいんだが、夜之食国長官殿」
長官代理として要請する。
「いいけど、俺、安くね? 拉麺一杯ってどうよ?」
「クニタマ。自慢の味玉をサービスして差し上げてー」
「どうぞツクヨさま」
正式名称での要請に、ニタマは迅速に対応。
「おう。ありがとよ――って、そうじゃなくって」
ごねるツクヨに、
「ママに密告ぞ。叔父貴」
姪御殿。
「せ、せめて叔父貴にして。よ、呼び捨てはよして…」
オヨヨと嘆くツクヨに、
「伯父御さま。こいつ、めんどくさい…」
「ほんと、それな…」
クロとウカノは追撃する。
「父さんには、一筆したためるよ。ツクヨ、調整をお願いできますか?」
ナキを父と呼んだクロに、ツクヨは安堵の吐息をし、
「なあ、なんて呼ばれたい? 兄貴か、兄ちゃんか、兄さまか…」
唐突に尋ねるツクヨに、
「好きに呼べよ。テラスは兄さまって呼ぶし、カグチは兄ちゃんて呼んでるよ…」
クロは、長兄であることを受け入れた。
「選択肢、一個しかねえじゃんか? まぁいい。承ったよ兄貴」
そう言って、クロを長兄と受け入れたツクヨは、味玉をパクリとひとくち、ズズと麺を吸い上げた。
◆ ◆ ★ ★ ◆ ◆
四神の玄武に、案内されたソミン拠点近くの鉱床には、龍穴特有の空気が満ちていた。遊撃小隊は、ヤカミ、ミイ、ヤチホコに玄武だ。カワノと死露兎にタマモにタツキは、ソミン拠点の防衛並びに指導と取り締まり強化だ。
夕刻近く、薄暗い鉱床の入り口に立ち、
「かつては海だったのでしょうね…」
岩肌の窪みに溜まった水をひと舐め、玄武に向き、
「そうかもねえ、だから、ここいらの岩は脆い。景観はいいし、人の子が道も通しやすいけどね」
「形の変わりやすい地形が、後天的な龍脈の役割を果たしていますね。ふむ。土地神が生まれやすい土壌です」
小難しい話をするふたりに、二大脳筋は、口を開かずにフムフムと首肯し、わかったフリ。
「そこの脳筋。ここを穿ちなさい」
ミイは首肯するふたりに指示。
「「ミイちゃん?」」
思わずに聞き流していたふたりが聞き返すと、
「どうしたんですママ、ヤチホコ小父さま」
「「え、今、脳筋言ったよね?」」
ミイはすっとぼける。
「言ってませんよ。ほら、早く。全力で」
そして指示。釈然としないまま、ふたりが岩肌に全力で打ち込むと、
「ここは、情報共有が必要ですね。退きますよ。脳筋」
「そうだねぇ。深追いしない方がいい」
全力で繰り出した技は龍穴に飲み込まれた。遊撃小隊頭目は、シレっとヤカミからミイに変わっていた。




