放蕩息子 ~KIKURIHIME~
イザナキとイザナミの数比べの真相についてのエピソード
ソミン拠点に足を踏入れると、キテイたちが総出でお出迎えしてくれる。一人の欠落もなく引っ越しを短時間で達成したのだから、これくらいの歓待はあってもいい。
ふと、気になったことを尋ねる。
「組合長。遊撃小隊四神の他のメンバーは?」
キテイの表情が曇る。聞いてはいけない話題だったか。ここで女将さん、
「家出中さ。後の二人はあたしらの倅たちだ。朱雀の金角と青龍の銀角。そう言えばコタンは封印しちまったねえ。あの子ら、どうするつもりだろうねえ」
チラリとする。子孫繁栄を約束した手前、
「そのキンとギンの特徴は?」
放っておくわけにはいかない。クロが尋ねると、
「放っておけ。あんな放蕩者ども」
キテイはケッと吐き捨てる。父親あるあるだ。うん。面倒臭い。
「これが姿絵。キテイ。面倒臭いぇよ? そーゆーの」
ここでチンゲンが助け船。キテイはプイッとそっぽを向く。うん。子供だ。
「わかった。気にかけておく。それから、ソミン拠点は、コタンと違って入場規制をしてもらいたい」
そう言ってクロは茅の輪を渡す。もちろん神器だ。
「これが腰にある者だけしか入れない。悪意ある者への篩掛けだ。今回の教訓から生まれた対策だ。ウチのヤカミが知恵絞ったんだぜ…」
そっぽを向くキテイに視線の誘導。キテイがチラリとヤカミに向くと、泣きそうな顔を浮かべている。キテイは髪を掻き毟り、
「ずるい野郎だぜ長官代理さまはよ…」
嘆息に承諾。クロは苦笑し、
「お褒めにあずかり恐縮です」
意趣返し。
「キンとギンを見かけたら渡しておくよ」
クロは忙しい。みんなは、
「「「えっ? 休もうよッ?」」
ほぼ徹夜にゲンナリ。
「ヤカミたちに言えよ。作戦会議やりたい言ったのヤカミたちだぜ?」
クロは転嫁し、
「「「課長ッ?」」」
さりげにヤチホコとイワノもヤカミに転嫁。クロとウカノは苦笑しいしい、かしわ手ふた叩き、
「みなさんは人ですか?」
「違うでしょう? 神さまでしょう?」
獰猛に嗤うと、
「「ちょっと寝たでしょ? それで十分です!」」
ウカノに至っては、ぐっすり休息をとっている。子供の特権だ。これには大人たちも、なにも言えない。ただゲンナリと、
「「「うぇ~い…」」」
うだった声音に従うまでである。
天鳥船は飛ぶ。イズモの工事現場まで。新生ソミン拠点の住人たちは、頼もしい守り神たちを見送った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そこはコタン拠点のあった竹林だ。ふたりの少年少女が、同じ道を堂々巡りしている。
そう。コタン拠点の若き頭角、キンとギンのふたりだ。
「おかしいぜ? 刻んだ印が消えるなんて」
「刻み間違えだろ? まったくテキトーなんだからさあ」
少年キンの誤りを少女ギンが詰る。男女の双子である彼らは、少しも似ていない。ギンに父譲りの猫耳があり、キンには母譲りの翡翠色な髪があり、どちらかと言えば、父母の双子だ。性格はギンが母、キンが父を継いでいる。
「せっかくロークンのとこから北斗七星剣をくすねてきたのにさ」
「北斗の剣にするって決めてたろ?」
「真ん中取ってセブンにしたらバレるだろう? 北斗七星剣カッコよくね?」
自身の名命に絶対の自信で推すキンに、
「全然。北斗の剣にセブン含まれないし北斗じゃ、七星に繋がるじゃんか?」
ギンはジト目を貼りつける。こうなると、どれだけ諭しても無駄である。この兄に理屈は通じない。動かすなら夢想で誘導するしかないが、そんなものは、都合よく落ちていない。
「北斗七星剣燃焼波!」
キンが忽然と、北斗七星剣を竹林に向けて抜き放つと、封印に僅かに切れ目が入り、
「子供…」
冷めたジト目を貼りつけ、ギンが竹林を進むと、
「あれ? 入れた…」
封印されたコタン拠点の入り口に辿り着く。もちろん、
「ど、どうよ?」
「偶然だろ? 母さん怒ってるかな…」
「大金星だから平気じゃん? これでソミン拠点の奴らを黙らせることができるしさ」
ギンは、どこまでも現実家。キンは対照的に夢想家だ。
コタンにふたりが足を踏入れると、明らかに空気が違う。空気の色が禍々しく濁る。
不安を覚えたふたりは、足早に組合に向かった。しかし、そこに在るべきふたりの姿がない。
大人たちは生気のない虚ろな眼差しで虚空を見つめ、よくよく見てみると馴染みのない顔ぶればかりだ。組合に深く穿たれた穴を、キンは見つけ、ふと気になり手を入れてみる。底になにかがあるようだ。手では届かないため、北斗七星剣を入れてみる。すると、
『きゃあッ!』
誰かが悲鳴をあげる。聞いたことのある大人の声だ。
「ロークン?」
そう北斗七星剣の持ち主の声。北斗七星剣を穴から抜き出すと鞘の先に同人誌がついている。キンは少し好奇心。開こうとすると、本はひとりの女性の姿に変わる。いかに仙人とは言え、これにはふたりも驚愕だ。
「だ、誰だよ? あんた?」
女は返事をしない。しばらくほどもして、キンに視点をさだめ、
「お兄ちゃんたちは誰ですか?」
その出立ちには、あまりにもチグハグな言葉遣いにキンは困惑する。好戦的な革鎧に、背中には大剣を背負い。腰には短剣を三本差している。明らかに冒険者だ。二十代前半の好戦的な容姿の女はすべてにおいてチグハグだ。ここで、
「ロークン。見てるんでしょ? ちょっと助けてよ…」
ギンは白旗。解決を大人に委ねることとした。
「どうやら幼児退行しているようだ。よほど、恐ろしい目に遭ったのだろう」
北斗七星剣から、ひとりの老爺が現れる。ロークンと呼ばれる存在で、この姿は仮初めだ。ふたりは、ロークンの正体を知っている。突き止めた。だから、出し抜いて剣をくすねてきた。故郷のために。
「それで、ふたりとも。私になにか言うことは?」
腕組みをして質すロークンに、
「「北斗七星剣を貸してください」」
ふたりは悪びれることなく異口同音。ロークンは呆れて嘆息し、
「「……」」
ふたりの頭上に拳骨を落とし、
「ごめんなさい。でしょう? 人の物を勝手に…」
言いかけるロークンに被せ、
「あんた神さまじゃん」
「ならば良しッ!」
ふたりは減らず口。
「いいわけありますか! それより、ここはもうじき滅びます。急いで出ますよ?」
パチンと指をひと鳴らし。四人の姿は竹林の外に消え、
「コタン…滅びるの? ロークン?」
「親父やチンゲンたちは? 母ちゃんは?」
ふたりは涙目で質す。ロークンはまた嘆息し、
「ソミン拠点が、君たちの故郷になりました。だから、北斗七星剣は、もう必要ないでしょ?」
封印の切れ目を修復しながら問いに答えるが、
「「あっ、イザナミさまだッ!」」
ふたりは、ロークンの動きを封じる魔法の言葉を呟き忽ち脱兎。なぜだか女もついてくる。
☆ ◆ ☆ ◇ ☆ ◆ ☆
天鳥船の中で講義をし、八十神隊士の品質は、わずか二日で大幅に向上。機敏な肥満体たちは、
「測量? 縦断面? 平面図?」
「設計図ッ! 速くイズモの設計図筆写しろやッ!」
建築土木を強制研鑽。尚且つ、予算や簿記を並走で研鑽。
禹歩を修したイワノとハラシコは、
「う、ウソ…」
「ウカノさんから一本取れた」
ウカノに先んじ、
「どうしましたチヨ殿」
ウカノの姿が変じたことにチヨは困惑。
「いえ。その…」
「穴埋めのかわりに、取り持ちましょうか…」
察したクロが提案すると、
「助かります義伯父御」
チヨは安堵の吐息。
ウカノの本来の姿を知るチヨの夫ヤマツミが、ウカノに対して寛容だったのは、ウカノが子供だと知るからだ。それを知らず、それに嫉妬し対立するまでに至るとは、なんともオトナゲ無さすぎ嫌になる。
「ウカノ。次はチヨ殿と組み手です。胸を借りるつもりで臨みなさい」
神州九州残留組は、ヤチホコ、カワノ、ヤカミとミイたち暴走族にタツキたちだ。
ペコリと一礼、ウカノは転瞬に仕掛ける。クロから学んだ掌打を打ち込み、イワノたちから盗んだ禹歩を踏み次々に仕掛ける。チヨは楽しくなる。ウカノの成長速度が驚異的であることに忽ち哄笑。
「ハッカイ・チヨ参るッ!」
得意とする得物を取り出し、転瞬に仕掛ける。釘鈀と言う銘の戦馬鍬だ。ふたりは未知の研鑽に哄笑し、次々に技を競い合う。一本取れたことに喜んでいたイワノとハラシコは、あっさり先をゆくウカノにトホホと嘆息、いま最も実力の近い相手に向くや、互いに技を競い合う。
「うん。減価償却って知っているかな? みんな…」
本気で組み合う四人の姿にクロはオヨヨと泣き、時折、草薙剣を盾に変えて、天鳥船を保護。
わだかまりの解消に、言葉は不要なものである。脳筋だが、真理である。
★ ◇ ★ ◇ ★ ◇ ★
イナバに着くや、
「ゲンちゃーんッ!」
大声で呼ばれる。知っている小母さんだ。三十代くらいの見た目の女性。
「お久しぶりです。ハクサン小母さま」
菊理媛神。ハクサンも有名看板だ。なにせ、
「よかったねえゲンちゃん。あの時はたいへんだったねえゲンちゃん」
あの時――クロの中で過去が邂逅する――
★ ★ ★ ★ ★ ★
それは、一組の夫婦の危機だった。
『普通、女の部屋に待った無しで踏み込むか?』
そう。イザナキとイザナミの離婚危機を取り持ったのがハクサンだった。画面越しに捲し立てるナミを、
「ナミぃ。カグっちがいたんだからしょうがなくない? カグっちも驚異だったよね? ママがあんなんじゃねえ?」
ハクサンは宥め、
「ハクサン小母さまは黙ってて」
混ぜっ返す。それをクロが黙らせる。
『あたしが怒ってるのはそこよっ!』
「どこだよ? 面倒臭いぇなぁ」
クロがウンザリ吐き捨てると、
『お母さんにだって、秘密があっても良いでしょう? お母さんだって女子なんですからね?』
ナミは涙目で噛みつき、
「事実婚も黙ってて」
クロが黙らせると、
「ウツシ。事実だけど、母さんに事実婚は酷いと思う」
ナキは、火に油を注ぎ、
『当事者が言うな? なっ?』
ナミは当事者に噛みついた。
「カグっち。お兄ちゃん、面白い術知ってんだ。お耳の出っ張り連打してみ? そう両方の耳珠十六連打。な? 音が途切れるだろ? シキンのオッサン。カグっちと遊んでてくれる? 聞かせたくない。アホ共の痴話喧嘩なんざ…」
心底に疲れたようにクロは八意に依頼。カグっちは耳珠を連打し無邪気に笑う。
「八意の…」
「八意の小父さま。お願いします」
ウンザリと訂正し、八意も嘆息してカグっちを隔離する。
「そんで落としどころは?」
「日に五百人は同人誌を布教するって脅すんだ母さんが…」
『いいじゃないッ! 腐女子の千人や万人くらいッ! 性の多様性よッ!』
開き直るナミに、
「さりげに数増やすなや。滅亡するわッ! そんな文明ッ!」
クロは一喝。
「ほら、ウツシもこう言ってる。代案として、チョコのタケノコを千個差し入れするから、千の刈り取り、五百の産屋で――」
斯くして、離婚危機は、ハクサンとクロの執り成しで手打ちとなり、クロとカグっちの黒歴史として刻まれる。余談だが、耳珠十六連打は、カグっちからテラスに継承されている。
クロにとってハクサンは恩人であり、黒歴史を共に闘った盟友だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
いまさらに、
「ハクサン小母さま。混ぜッ返してただけですけどね」
刺。話が纏まりかけると、ハクサンが混ぜッ返して堂々巡りしていた。
「だってぇ、おもしろかったんだもの」
ハクサンは、天然さんである。ゆえに、
「地脈を喚ぼうと思うんだ。もちろん、父さんに筋は通してからさ…」
クロは話が脱線しないように簡潔に話を通す。天然なハクサンは、
「ゲンちゃん。大人になったんだねぇ」
鼻声にグスリ。
「温泉造ったら、小母さんも招待するからおいでよ」
黒歴史に遠い目を向けてクロが呟くと、
「うん。また新しい黒歴史を期待してるよゲンちゃん」
ハクサンはクロの背中をバンバン叩いて締め括り、
「長官代理。この辺りでいいッスか?」
測量を始めるアナムチたちの元へと駆け寄った。
多様性って要る?




