木の根、子の神 ~TAMAMONOMAE~
少し短め。ちょっと神話っぽい。
暴走族は、ソミン拠点の子供たち――実際には子供を象った仮生の大人のようだが――を簀巻きにして宙空に引き回していた。悲鳴を聞くに堪えぬため、仮生の大人たちには猿轡を噛ませている。クロの指示通りに傷ひとつつけていない。
タマモは、業腹の鬱憤を晴らすように錐揉み飛行、
「なんでだよぉッ! なんで殺っちゃダメなんだよぉッ!」
泣きながらミイに問う。仮生の大人たちが、仲間を殺した事実は変わらない。
「へい義姉妹。汚れるからに決まってんでしょ?」
ミイはタマモの腰にギュっとしがみつき、激情に逸るタマモに付き合ってやる。義姉妹だから仕方がない。
「汚れるってなにがだよぉッ! 意味わかんねぇよッ!」
吼えるタマモの耳朶を後ろから、
「うひゃあッ! なにすんだよミイちゃん?」
カプリとひと嚙み、
「卑猥いことをした。義姉妹が、仮生の大人どもで汚れると言うのなら、ミイはもっと卑猥いことをします」
囁くようにミイは牽制。
「罪には罰を。タマモの言うことはわかる。でも、それは子供たちの役目じゃない」
タマモのアフロがシュンと縮む。ミイは苦笑し、
「知ってたタマモ? ミイはこう見えて神さまです。だから、悪いようにはしない…だから…笑ってタマモ…」
後ろからギュっとタマモを抱きしめミイは泣く。代わりに泣くくらいしか、今のミイにはできないから。そこへ、
「ミイ? 泣いていますか? 錐揉み飛行が怖かったんですか?」
ウカノが勘違い。低い声音で、
「ウカノの姪御と知っての狼藉か?」
オイジョーズを錐揉み飛行させて、ニゲジョーズに迫りながら質す。興奮気味なタマモは、
「誰だよテメェッ?」
噛みつくように尋ね、
「ウカノ伯母さま。こいつに泣けって脅されたんですぅ」
ミイはシレっと嘘泣きにオヨヨとし、
「あぁ、ミイちゃんのオバさんだ。って、ちょぉ? ミイちゃんッ?」
「赦しません」
ウカノはオイジョーズの副砲に充填。忽ち発砲。タマモはアワワとしながらニゲジョーズを旋回させて回避。副砲の砲撃で、簀巻きを結んでいた縄は切れ、慣性に従い忽ち落下する。仮生の大人どもは失禁に気を失い、
「まったく沸点の低い」
ウカノの姪御殿は、特攻服をバタつかせながら、後部座席から滑空。切れた縄を右手に捉えて自由落下。うん。肝が据わりすぎだ。
「「ミイちゃんッ!」」
オイジョーズとニゲジョーズは、疾駆な急降下にそれを追い、
「錐揉み飛行するから落ちちゃいました。テヘ?」
捕捉されたミイはテヘペロに流そうとして、
「「テヘじゃないッ! 危ないだろうがッ!」」
失敗する。だが、成功だ。ギュっと両頬をふたりにつねられるミイの変顔に、ふたりは吹き出し、やるせない理不尽が霧散したからだ。
「ちょっと。お顔が伸びます!」
ミイはふたりの手を振り払い、飛翔鰐に縄を結び付け頬をさすった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ヤカミ遊撃小隊が粛清に殲滅した都市の跡地に聳える大樹。その根元にソミン拠点の仮生の大人を括りつけ、
「ウカノ。今から教える祝詞を――」
クロはウカノに教示する。
「天へと伸びる大樹よ。今、あなたに祈りを捧げます。その生命力を我々に与えたまえ。地に宿り、実りを司る神霊よ。貴神霊に深く感謝の意を表す。万物の生長を司る神霊として、我々を導き、この国に豊かな恵みを賜りますよう、畏み畏み、お願い申し上げます」
ウカノが神の爪の異能を言葉に乗せ祝詞を唱えると、大樹が揺れ、温かな光が仮生の者たちに入り、仮生の者たちからは禍々しい黒い物が滲み出る。クロが草薙剣の一閃に、滲み出た黒い靄を祓うと、子供の姿は子に変わる。
「アナムチ。おまえと相性がいい。名をつけてやれ。木の兄、子の神に授けし名は」
厳かな声音でクロが紡ぐと、
「名はゲントク」
アナムチも厳かな声音に名を授け、
「神徳は?」
「セイメイ」
紡いだ言葉の響きに宿るあらゆる神徳がゲントクに宿る。生命に清明などである。
「今からアナムチの神仕えだ」
それから十干分(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸 )の子の神が、呼ばれ、それらは個に習合する。習合した姿は、
「笛吹小僧」
笛を吹く道化者だ。
「ウツシクニタマが命ずる。笛吹小僧よ。超過文明違反は容赦なく取り締まれ」
クロが言霊に命ずると、道化者はネズミへと姿を変えて四方に散り、アナムチの肩にはゲントクだけが残った。
「アフロ、ミイ、これでいいか?」
そう尋ねるのは総隊長だ。タマモとミイは、ウサギのヌイグルミである総隊長殿に、オメメが興味津々。
「タツキ。死露兎たちをお願いしたい。鬼の子が多い。母神になってくれますか?」
クロの提案に否やはない。元が子守り用の疑似生命体なのだから、
「なんですか、このアフロは――」
エベっさんに飛びつこうとするタマモとミイの襟首を掴んでピシャリ。
「な、なんだよあんた?」
恐る恐る噛みつくタマモの頬をつねって、
「母神でしょ?」
「タマモです。タツキさん。ちなみにミイのママは、そこの黒歴史です」
ミイは情報提供、さりげに刺。
「ち、違うのよ? そ、それは…」
ヤカミはアワワ。
「お祖母さまは、少年対応課です。初代死露兎たちは、予言していたそうですね。お父さまとお母さまが結婚するって…」
ミイは、さらに刺。黒歴史を暴露一歩手前に恫喝準備。
「「み、ミイちゃん? よ、よい子のミイちゃんはどこに行っちゃったの?」」
ヤカミ、アナムチは悲鳴。
「飛翔鰐の免許ミイも取りたいなー。ミイも飛翔鰐が欲しいなー」
ミイは、棒読みに恫喝。
うん。混沌だ。珍しく神話っぽい展開だったけど混沌だ。神代だから仕方がないか。タツキに素行と服装を叱られる死露兎たち、両親を恫喝するミイ、混沌を可笑しそうに眺めるウカノ。ここで、
『長官代理。コタン住人のソミン拠点収容完了しました』
カワノから連絡。同時に、
『コタン拠点に標的は無し。繰り返すコタン拠点にゴズは無し。封印の開始を要請する』
小肥り男児から、作戦開始の通達があがる。
クロとウカノは顔を見合せ苦笑するとパンパンとかしわ手ふた叩き。
「ミイ。集団暴走の準備をお願いします。ウカノ。付き添いをお願いできますか?」
最後の総仕上げに取りかかる。暴走族死露兎の爆音が宙空に轟き、小肥り男児の待避後に、コタン拠点は封印され、死露兎の集団暴走に、超過文明の動力源からの供給が遮断された。
前回の補足。




