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巨旦将来END也 後編 ~KISHIBOJIN~

無駄にハードボイルドな展開ですね。

 作戦会議室(ブリーフィングルーム)の椅子を、休憩傾斜(リクライニング)形態(モード)にして、クロは仮眠をとる。疲れが夢に心を(いざな)い――


 気配を感じ目を開く。いつもなら、ペチペチと頬を叩かれるが、今夜に限ってそれはない。天鳥船(バードシップ)にいるはずだが、夢の景色は六畳間の自室のようだ。

「なにをなさっていますか。ヤクサ小母(オバ)さま?」

 クロは土下座をしているヤクサに嘆息しながら尋ねた。ヤクサの横のナミは、無言で土下座を続けるヤクサに、

「ヤクサ」

 冷たな声音に説明を要請(ヨーセー)。冷たいながらも、声には呆れが(にじ)んでいる。

「えっとですね…そのですね…」

 歯切れの悪い、土下座のヤクサにクロは嘆息、

(オモテ)上げい(あげぇ~い)

 少し尊大。時機(タイミング)的に検討(アタリ)はついている。

「ジョーカってのと関連が?」

 ジト付く声音にアタリをつつけば、

「このバカ、認証鍵(セキュリティ)かけ忘れたらしいわよ」

 ジト付く声音にナミが続き、ガバリと勢いよく(オモテ)を上げたヤクサは、

「だ、誰にだってウッカリはあると思うの?」

 訴えかけるが、

「「()け。()()()ちゃんの()()」」

 ふたりはバッサリ棄却する。棄却(退け)られたヤクサは小さな悲鳴(ピィ!)

疑似生命体(ホムンクルス)で、ヤカミちゃんのこと、見守ってたんですって――」

 埒があかないために、ナミが状況を簡潔に説明する。ヤクサは、高天原(タカマノハラ)からヤカミを葦原中津国(アシワラノナカツクニ)に送り出した後、時おり疑似生命体(ホムンクルス)擬態(憑依)してヤカミを見守っていたらしい。似た事例には心当たりがある。そう、エベっさんだ。そこまでは良い。問題は、

疑似生命体(ホムンクルス)の回収に、自立式の疑似生命体(ホムンクルス)を投入したと」

 そこである。自立式疑似生命体(ホムンクルス)であるジョーカは、愚直にヤカミたちと接触する。そして愚直に、

「長くは生きられない。その証拠に名前がないでしょう?」

 疑似生命体(ホムンクルス)たちの状況を説明。()()を守るために、ヤカミたち初代死露(SHIRO)(USAGI)たちは交戦するが、ジョーカは言わば人形を片付けにきたお母さんの召使いである。うん。お母さん遷移(ムーヴ)だ。難なく子供たちを往なして勾玉(ギョク)だけ回収。

 眩暈(クラクラ)する。後はヤカミたちにとっては、悲劇的な物語(ストーリー)が展開されたのだろう。仲間だと思っていた人形が、勾玉(ギョク)の消失と共に、食事を拒絶し呼吸を拒絶する。うん。人形だからね。子供たちは抗ったろう。口移しで食事を与え、口移しで呼吸をさせただろう。()()に。

「え、えっとね、ジョーカに説明させようと――」

 これも悪手だ。どうやらヤクサは、ジョーカを再びヤカミたち死露(SHIRO)(USAGI)に接触させたらしい。ヤカミは抗う。しかし、往なされるばかりだ。ここに、

「ウカノが来ちゃったのよねぇ~。そらぁ~正義マン(ヒーロー)憧れるわ~。歪むわ~。異能(ちから)こそが必要だと(かたく)なに信じるわ~」

 ウカノが登場し、ジョーカを退けたらしい。うん。得心(なるほど)。ナミは掴んだ真実に遠い目を虚空に向ける。うん、少し怖い。

 最大の悪手は、

認証鍵(セキュリティ)をかけ忘れたジョーカが、主人をソミンの人間に代えて、勾玉(ギョク)の材料となる子供たちを――」

 クロがヒクツク声音に引き受けて状況を解説すると、ナミはパチンと指をひと鳴らし。

「見なさいよッ! 泣いてるじゃないッ!」

 子供たちを無表情に連れ去るジョーカの姿を投影し、悲鳴(ピイッ)と鳴くヤクサに吼えたてた。疑似生命体(ホムンクルス)であるジョーカの瞳は悲しみに震えている。これは感情(こころ)が芽生えた証左である。

「ウッカリで済まないですからねッ!」

 声を荒げて、またピシャリ。親友だからこそ、本気で間違い(過ち)を叱りつけている。

「いいよ葦原中津国(ウチ)で引き取る。母さんもそれで良いでしょう?」

 クロは静かな声音で母をなだめた。対ナミ用の最強の言霊単語(ワード)の使用もやむ得ない。

「ヤクサ、ウツシに感謝なさい。イズモ用の疑似生命体(ホムンクルス)は、あんたが持ちなさいよ?」

 ナミの声は忽ちに軽やかだ。ヤクサの前で子の名前(ウツシ)とさえ呼んでいる。弛み切っているか、ヤクサを信頼しているのかのどちらかだ。うん。前者だ。

「わ、わかったわよぉ。()()くんも、()()()をお願いね」

 後者も含まれるようだ。これでヤクサもクロにとっては、近所の面倒臭(めんどくさ)くて、憎めない小母(オバ)ちゃんの仲間入りだ。思えば、良い子になれたのは、近所の小父(オジ)さん、小母(オバ)さんがいる時だけだ。少しだけ胸がチクりとするが、

「いずれにしてもジョーカは、停止させないとダメだ。お祖母(バア)ちゃんの失敗(シクジリ)は、お孫さんと、その両親が受け持つさ」

 過去(昨日)失敗(シクジリ)は心に留めて、後悔に(うつむ)いて下を向かずに明日()を向く。

「ところでウツシ、母さんイズ――」

 ここで目が醒める。オヤクソクである。

 交代の時間だ。これには長官(カシラ)も、みんなも関係ない。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 艦橋(ブリッジ)に入り、

「スセリ。この時間にアナムチは?」

 目にしたスセリに投げかける。

「大丈夫でしょうか?」

「スセリが案ずる事態にはさせません」

 不安げな眼差しのスセリに苦笑し、目で促し、

「お兄ちゃん。クロが呼んでます」

 スセリの呼び捨てに、アナムチは滑り込み(スライディング)土下座。クロは苦笑し、

「そうゆうの要らねえから。おまえらも好きに呼べよ。俺は長官(カシラ)代行(カワリ)だ。別に偉くはねえよ。決定権と指揮権があるだけだ」

 クロの自己評価は、どこまでも低い。これにスセリとアナムチは、顔を見合せ嘆息し、

長官代理(ダイコー)が、そう仰るなら()()呼ばわりは封印(フーイン)しますねー」

「そうだぞスセリ。スサさまの兄君(アニギミ)だ。言わば御先祖さまだからな」

 ふたりは、心の距離を置く。僅かな時間での急成長なふたりにクロは苦笑し、

「わかったわかった。別に自分を卑下したわけじゃない。訂正するよ。わりと偉いらしい。だが、滑り込み(スライディング)土下座は要らねえ。これでいいか?」

 ふたりの要望を聞き入れ訂正した。

「ムナゲ。此度(こたび)討伐作戦(オペレーション)鍵要員(キーパーソン)はおまえだ。それから、ミイちゃんとアフロたちも作戦に加える。拒否は認めねえ長官代理(だいこう)命令だ」

 クロが鋭い眦に告げても、アナムチとスセリの瞳に不安は滲まない。子供たちに危険はない。そう判断した上での要請なのだと理解する。この短い間で、気がつけば信頼関係が醸成されている。さすがは神々か。

「じゃあ別動隊の任務(ミッション)を説明する。スセリ、ハラシコも呼んでくれ」

 死露(SHIRO)(USAGI)たちは、まだ呼ばない。子供たちは第三陣の仕上げである。

「クロ。呼んできました」

 艦橋(ブリッジ)に別動隊要員が集うと、

「標的ジョーカは俺たち本隊が引き受ける。別動隊(おまえら)は、ジョーカの所有者(オーナー)を任せる。相手は恐らく人間だ。(アダナエ)は、臆病で狡猾だ。ギリギリまで姿を現さないだろう。だから、妖しきは――」

 言葉を切り、

「討て」

 (みじか)で冷酷な下知を出す。少しだけ気色ばむ別動隊(メンバー)に、

「責任は俺やスサにある。かまわねえから暴れてこい。知っているか? 俺たち兄弟は、わりと偉いらしいぜ?」

 ただただ、獰猛(どうもう)に笑って罪を負う。責任者とは斯く在りたい。

「知っていますかクロ。あたしたちも――」

「「神さまなんスよ。だから、わりと偉いんです」」

 非道な下知を別動隊(メンバー)たちは、獰猛(どうもう)に笑って、

「「「だから()()()()でケッコーです!」」」

 異口同音に罪を負う。

「そっか…ありがとよ…」

 苦笑に流すが、少しだけ気持ちは軽くなる。少しではなく、とても大きく温かななにかが胸に灯る。が、これは罪の共有だ。故に苦笑に留めている。大鉈での粛清に慣れれば、感覚が麻痺して、感情(こころ)はいつしか死んでしまう。そうならない為に、クロたちは到着までの短い時間を足掻き続ける。思考航海(ブレスト)をして、標的の摺合せを極限までに突き詰める。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 別動隊に、

「エベっさん。子守り(そっち)は任せたぜ?」

 エベっさんをつける。スセリとアナムチが遊撃小隊(パーティー)を組んでも憂いはないと判断する。エベっさん、

「えぇ~? ぼくが引率ぅ~?」

 やや、ご不満。

総隊長殿(エベっさん)、どゆ意味?」

 アナムチも、ややご不満。エベっさん不敵に微笑(わら)って、

「ふ、オムツが取れたら教えてやるよ…」

 無駄にダンディー(ハードボイルド)。アナムチ、獰猛(どうもう)に笑って、

「言うじゃねえか総隊長殿(エベっさん)。オムツも替えたことないくせに」

 ピキリと挑発。

「今、替えた…これでいいか? 小僧(コゾー)…」

 エベっさんは、異能(ちから)を使って、アナムチの下着(パンツ)を紙オムツに変えてやる。股間のごわつく感触に、

「あ、あの、すいません。総隊長殿、これから戦闘(バトル)なんで…最高潮(クライマックス)ですんで…」

 アナムチは、わりと本気のベソで懇願、ミイはジト目を父に貼りつけ、ジト目に気づいたアナムチは、

「見るなぁ~! こんななダディを見るな~!」

 半狂乱に娘に懇願。特攻隊(マトイ)に袖を通してミイはスルー。華麗にスルー。バッと右手を突き上げ、

「行くぞ」

 短な下知に告げるや場を去った。暴走族(百鬼夜行)死露(SHIRO)(USAGI)は、ミイに続く。うん、渋い(シっヴィ~)

「そーゆーの傷つくからぁ~! 反抗期にはまだ早いですからぁ!」

 ギャン泣きを始める父親(ダディ)なアナムチに、エベっさん舌打ち、

小僧(コゾー)。うるさいよ。これから戦闘(シリアス)なんだから、やめてよね。そーゆーの」

 異能(ちから)を解くやジト目を貼りつけピシャリとした。


★ ☆ ★ ☆ ★


 コタン拠点(ベース)近くの湿原。クロとキテイが交戦した場所だ。夜更け、そこにチヨたち残留組の四人とキテイ組合(ギルド)の構成員たちが移住の準備に追われている。

 ミモロがオイジョーズで、宙空に哨戒し、チヨは遊撃隊だ。ニタマ、モノモチのふたりは、竹林に封印を巧妙に仕掛けている。うん。無駄に器用だ。侮れない小肥り男児たち(ガイズ)だ。

 そこに爆音。煌めく照明を明滅(チカチカ)させて、暴走族(百鬼夜行)死露(SHIRO)(USAGI)が、集団暴走(パフォーマンス)宙空(そら)を疾走。

『達する。(これ)より討伐及び避難(オペレーション)作戦(・コタン)を開始する。ミイちゃんたち死露(SHIRO)(USAGI)の先に、敵影(アダナエ)を確認している。暴走族(百鬼夜行)が撹乱している間に、天鳥船(バードシップ)に住人を詰め込めるだけ詰め込め。脚弱からだ』

 カワノの声が各位のインカムに響く。湿原には既に天鳥船(バードシップ)がハッチを開いて、ヤソ(シックス)、ヤソ(セブン)が住人の誘導にあたっていた。

 一方で、先行上陸したクロたち本隊は、新型の飛翔鰐(ホバーバイク)である鮫ジョーズ(シャークジョーズ)に乗って湿原スレスレを滑るように疾走し、水飛沫の軌跡を残しながら、標的ジョーカに接敵する。被害が出ないように、コタン拠点(ベース)からは、可能な限り距離をあける。


 濃紺のメイド服を着た女性が、哀しげな笑みを湛えて湿原に佇んでいた。

「ジョーカぁぁッ!」

 飛翔鰐(ホバーバイク)から、飛び降り、ヤカミは湿原を超高速に吶喊して行く。ヤカミの(トキ)は湿原を切り裂くように疾走(はし)り、

「キサキちゃん? どうせ長くは生き…」

 (トキ)に呼応するよう、ジョーカは動き出す。服が泥で汚れても構わず、蘆の間をすり抜けていく。彼女の足跡は、ぬかるんだ地面に深く刻まれ、すぐに消えてしまう。

 ジョーカに肉薄したヤカミの神爪が空を切る。神の爪(ツメ)異能(ちから)を注がれた鋭い衝撃が湿原と空気を切り裂き、ジョーカのフリルを僅かに掠めて切り裂いた。

「黙れぇッ!」

 激昂したヤカミの攻撃は、ジョーカに往なされるばかりで、有効打には至らない。

 ヤカミたちの物語(ストーリー)では、これは悲劇的な復讐劇(シリアス)だ。真相を知るクロにとっては、少し哀しい喜劇(コメディ)に過ぎない。いや、少しの悲哀も欲しくはない。不要(要らねえ)。クロは獰猛(どうもう)に嗤って悲劇の侵入を拒絶する。

「イワノ左翼から下段に吶喊。ヤチホコは左翼から上段に吶喊」

 下知を、

「ヤカミッ! 異能(ちから)任せに闇雲に打つな。これからふたりが隙を作る。間隙を突け」

 この場の全てを研鑽(ケンサン)に変えてやる。介入すれば数瞬で終わるだろう。が、それで得られるなにかはない。

「ジョーカ。こいつらは子供じゃねえ。意味はわかるよな?」

「確かに。大きくなり…」

 往なすばかりのジョーカに変化が起きる。お仕置遷移(ムーヴ)だ。鎖鎌の鎌を防御(ディフェンス)に、分銅での攻撃(お仕置)戦闘方式(スタイル)が変わる。


☆ ★ ☆ ★ ☆


 アナムチたちは、無人となったコタン拠点(ベース)に潜伏する。思考航海(ブレスト)で予想した結果、(アダナエ)は真っ先にコタンの中核たるキテイ組合(ギルド)を強襲するはずだ。そこに最高戦力であるジョーカを投入しないのは――

「いよぉ。重犯罪者諸君」

 ご機嫌斜めな声音に、アナムチは出迎える。ソミン拠点(ベース)怪異(アヤカシ)仙人(シャンレン)を従えた天上神(アマツ)を。

「ちょっとぉ、なぁ~に、このムナゲ?」

 気だるい声音で連れに尋ねる女に、

「ムナゲじゃねえよぉ、紙オムツ紳士(ダンディー)だ」

 揶揄(からか)うような笑みを浮かべて、ハラシコが答えてやる。

「イズモヤヱガキ八十神(ヤソガミ)隊第6小隊隊長スセリだ。所属と名を言え」

 女に尋ねられた男に銃を突きつけスセリは質す。階級的にこの場の最高位だが、戦力的には最弱だ。ヤソ(エイト)は、元隊長で構成されているのだから当然だ。

「それじゃあ落第だよスセリ」

 男の不意打ちを、銃を変形させたことで、スセリの肩に居たエベっさんが凌ぎ、

「あ、危ねぇな! 紙オムツ父親(ダディ)

 アナムチの振るった大鎚の一撃が天上神(アマツ)を吹き飛ばして、ハラシコの脇を掠めて壁に叩きつける。天上神(アマツ)は、素性を質すまでもなく沈黙し、

「誰がテメェのダディだコラッ!」

 アナムチは激昂。うん。夫婦揃って沸点低すぎだ。と言うか、八つ当たり先にハラシコを選んだだけか。強襲を仕掛けてきた敵対勢力(アダナエ)は、ふたりの鬼ごっこで次々に沈黙。勾玉(ギョク)に変わり、

「所属はいい。ジョーカの所有者(オーナー)は誰だ?」

 率直に質すスセリに、エベっさんは嘆息。

「やあ。ぼくはエベっさん。異能(ちから)は、物質の変換だよ。素直に話せば見逃そう。そうでなければ…」

 ふわふわと女の耳元に飛んで、

『『おまえも、同人誌(薄い本)に、してやろうか?』』

 耳打ちに伝達。耳から広がる情景に女は硬直、忽ち失禁。

「ち、竹林の外に…」

 情報が提供された瞬間に女の姿は、同人誌(薄い本)へと変わり、同人誌(薄い本)は激昂するアナムチの元へと飛んでいく。

 バサリと眼前に広がる同人誌(薄い本)の絵姿は、

「きゃあ!」

 ムナゲ筋肉質(マッチョ)なアナムチが乙女な悲鳴をあげるほどに、過激で卑猥(ひわい)なものだった。

「逆らめぇ版らしいよ。落ち着いたムナゲ?」

 エベっさんがポツリと尋ねると、アナムチはコクコクと首肯。言葉に出せないほどの猥褻物(エロ本)のようだ。ハラシコが拾い上げようとするのを、異能(ちから)を使って深い穴に封印。

「やめておけ」

 鋭い眦に威嚇。あまりの剣幕にハラシコもコクコク首肯し受け入れる。

「ミモロ。竹林の外に敵影(アダナエ)は?」

 スセリは通常運転。ただちに待機組に情報共有。


★ ◇ ☆ ◆ ☆ ◇ ★


 情報共有を受けたミモロは、上空から哨戒し敵影(アダナエ)を確認する。居るには居たが、

「子供?」

 子供が数名居るばかりだ。状況をありのままに報告すると、

『ミイ。エベっさんだ。ミイたちの出番だ。ミモロ、状況をミイに共有。暴走族(百鬼夜行)死露(SHIRO)(USAGI)の誘導と標的の監視を継続だ』

 エベっさん総隊長をして、迅速に下知。


☆ ◆ ★ ◇ ★ ◆ ☆


 ソミン拠点(ベース)の最高戦力を強襲に配置しない理由は明白だ。コタン拠点(ベース)の戦力を逃亡先で排除するためだ。

 そろそろ、ヤカミたちの動きも鈍り出す。感情を剥き出しに、力んだフォームで全力投球を繰り返すのだから当然だろう。

『クロー。こっちは済んだ。仕上げ(そっち)は任せたぜ』

 エベっさんからの連携に、

「OK任された」

 これまで動かなかったクロが動く。ジョーカに肉薄し、

「……」

 耳朶に耳打つ。ジョーカは、ホッと安堵の嘆息をし、

「キサキちゃん! 決着をつけましょうッ!」

 クロを鍔迫り合いに突きはなすや、ヤカミの元へと吶喊する。

 ふたりの影が交錯し、

「なぜだ…」

 ジョーカはヤカミの神の爪(ツメ)に切り裂かれ、

「大きく…なられて…」

 絞り出すように言葉を吐き出し、

「だから、何故だって…」

 ヤカミの瞳は、正体不明の涙に湿り、ジョーカはその機能を停止した。

「おま、おまえ…なんで…」

 大粒の涙がヤカミの瞳から零れ落ちる。涙の理由をヤカミは知らず、クロは知っている。

「仇討って、気分は晴れた?」

 疲れたような声でクロは問う。想定外の答えが返らない事を祈りながら。

「「「だって、みんな…」」」

「憎悪ってさ、猛毒なんだ。それも中毒性の猛毒――感情(こころ)を殺す猛毒だ。おまえたちの友達は、おまえらの感情(こころ)を殺すことなんて望んでいない…」

 そこへ黄色い落雷が機能を停止したジョーカを撃つ。撃たれたジョーカは、三つの光に別れ、光が収まると、光の中から三つの影が浮かびあがる。蛇と龍と狐だ。クロは髪をガシガシ掻きむしり、

「おまえらが言う友達な。疑似生命体(ホムンクルス)だったらしいぜ。天鳥船(バードシップ)とかと一緒だ。そんでジョーカは――」

 ぶっちゃける。ヤカミの母のことは巧く隠して。さすがに三人は居たたまれなくてちょこんと正座し反省を表明。

「ソミン拠点(ベース)に関しちゃ有罪(ギルティ)だ。粛清は過ちじゃない。それとジョーカは停止してくれることを望んでいた。子供をさらったりしたくなかったんだ」

 狐は、美しい女性へと姿を変え、ヤカミのことを期待の籠った眼差しに見据え、

「名前をつけて欲しいんだろうよ」

 狐の意図を汲んでクロは促す。龍と蛇の間の姫は、

「タツキ」

 と、ヤカミが名を与え、

「じゃあタツキは今日から葦原中津国(ウチ)()だ。所有者(こころ)を入れ替えた君には、この認証鍵(セキュリティ)鬼子母神(キシボジン)のふたつ名を贈ろう。これまで通りに子供たちを見守ってくれ」

 認証鍵(セキュリティ)所有者(オーナー)にヤカミを登録した。

「大きくなられてヤカミさま…」

 タツキがギュっとヤカミを抱き締めると、何故だかヤカミの瞳から大粒の涙が溢れ出す。理由(わけ)がわからないまま、ヤカミは声をあげてただ泣いた。


鬼子母神の物語はハードボイルドですねー。

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