巨旦将来END也 前編 ~MIINOKAMI~
暴走族のこともそうだが、優先度の高い問題対応が多すぎる。ウカノがオイジョーズで暴走族死露兎に肉薄すると、
「ミイちゃん! 白黒だ!」
体制側のワニの塗装は確かに白黒色だ。どうやら暴走族たちの隠語らしい。そして、彼女らは、拳を交えれば友達になるらしい。強敵と書いて友人らしい。うん。単純だ。嫌いじゃない。
「あれはオイジョーズです。主砲は都市を焼き。副砲は猛者をも滅ぼします」
ミイは冷静に状況を解説。
「そこのワニ! 止まりなさい! 集団での危険飛行は禁止されています! ただちに止まらないと…」
ウカノは副砲に砲撃準備の充填をし、恫喝に威嚇する。
「おまえ。名は?」
ミイは反骨に獰猛な笑みを携え問う。冷静な解説に少女は困惑気味。後部座席からミイは少女の胸部を鷲掴み。
「うひゃあ! な、なにすんだよ?」
「お名前は?」
頓狂な悲鳴をあげる少女にミイは促す。
「名前なんかねえよ。みんなはヨーコって呼ぶ。妖狐だから」
「今からヨーコはタマモです。髪型から義兄弟魂を感じます」
確かにタマモの髪型は、アフロである。気づけばタマモの心は平常運転。今のすっとぼけた遣り取りに緊張が緩和されたらしい。あとは胸部を鷲掴みの影響か。
ミイは、
「やってみなッ!」
よい子が真似しちゃいけない手の信号をウカノに突き付け大音声に挑発する。これにウカノの心のダムは転瞬に決壊。うん。沸点が低すぎだ。
「煽るなよお。てか、見た目かよぉ」
タマモは、オヨヨのトホホ。
「タマモ。あの巨大な航空艦船に突撃します。違法無線で各ワニに通達しなさい。特攻をかけます。ミイが手をあげたら迅速に散開しなさい」
ミイは下知。と言うか、どこで覚えたその隠語?
「お祖母さまから教わりました。少年対応課ですから」
タマモの心の声にミイは呼応。暴走族死露兎は、天鳥船に吶喊し、ウカノの警告を超過した威嚇砲撃が炸裂する。
「散れい!」
右手をあげてミイは大音声な下知。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「対艦砲撃防御障壁ッ!」
クロはカワノに指示。クロの指示にカワノは迅速な対応。
「達する。各位耐衝撃体勢をとれ!」
カワノは通達、次の瞬間に着弾。天鳥船は激しい衝撃が走るが、
「安全確認。カワノ、拡声器最大出力!」
「吠え方始め!」
独特の発音方法でカワノは復唱。
「危ないだろうがッ! こぉんの悪小僧どもがあッ! まだ減価償却してませんからあ! 明日も避難救出作戦で使いますからぁ!」
じつに切実で吝嗇な叱責。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
散開した死露兎たちは散り散りに逃走をはかり、
「ま、待ちなさいッ!」
ウカノはオイジョーズの推進力を出力全開。
『ウカノ。ハウス』
『『『ミイちゃ~ん。ちょっと、いらっしゃ~い』』』
保護者たちの刺々しい声音に、ビクりと両者は肩を震わせる。
「「こ、ここまでか…」」
両者は、異口同音に天鳥船に向かい、
『『『『いいから。いらっしゃい』』』』
保護者たちは異口同音。悪さをしたら叱られる。子供の義務だ仕方がない。
★ ☆ ★ ☆ ★
不条理な光景が艦橋で展開されている。
「あんなもの撃ってミイに当たったらどうするつもり!」
ウカノは、ちょこんと正座し小さくなっている。ウカノを叱りつけているのは、正座し小さくなっているウカノほどの背丈しかない特攻服を羽織ったミイである。そう、ミイは逆ギレで、この難局を乗りきろうとしている。
「中指立ててましたよね?」
クロがポソリと呟くと
「子供のしたことでしょう? なんておとなげないんでしょう!」
ミイは強硬姿勢で押しきろうと試みるものの、
「やあゲンちゃん。悪い子がいるんだって?」
クロが呼んでおいた道祖神に、首根っこをちょこんと掴まれ吊るされる。
「うん。この子たち。ドーソの小父さん。ポカリとお願いします」
「まったく、困った子たちだね」
爽やかな笑顔を浮かべ、道祖神はポカリ。次々に拳骨を振り下ろし、主だった死露兎の少年少女は頭を抱えて踞る。もちろん、
「う、ウカノは大人ですよ?」
ウカノにも。涙目で訴えるウカノに、
「もういいでしょう? ウカノ…」
オーゲツは、パチンと指をひと鳴らし。ウカノの姿が二十代前半から、十代中盤に戻された。神術で姿を偽装していたようだ。
「どうもありがとうドーソ小父さん。これ神州九州のお土産です」
そう言ってコロク用の土産である古酒を、道祖神に渡す。ひと瓶しかないのだから仕方がない。
「おお、ありがとうよ。ゲンちゃん、コロクのヤツとゆっくり飲むよ」
こうして察してくれるところが、じつに大人だ。道祖神は家路につき、涙目で頭をさすりながらも、
「カワノの小母さま。神徳計のデータを表示してください」
大人な彼女に迷いはない。オバサン扱いに若干の引つりを表情に出し、カワノは、御神徳を可視化した線表を表示する。飛び抜けて高い数値が投影されるが、百鬼夜行が集団暴走していた時間帯の数値は極端に低い。バンと宙空に浮かぶ線表を叩くように、ミイは手を振り上げ、大人たちと対峙する。
「怪異の違法行為は、こうして御神徳が低下します。イズモヤヱガキの周りを周回するだけで、各地に分散された神器の恩恵を無効化できるんです。御神徳がなければ神器は起動しない、超過文明は、成熟していない人々にとって猛毒なんです。必ず滅亡に繋がります」
ミイの保護者たちは、黙り込む。子供であるミイに指摘され、初めて事態の深刻さを痛感する。
「タマモ。名前がないのはなぜですか?」
頭を抱えて踞っているタマモに唐突に問う。
「え、俺たちは長く…」
「生きられないから名前がない。誰が決めて誰に吹き込まれた?」
タマモの言葉をヤカミは、被せるように引き受け、尋ねた。短髪が獰猛に逆立っている。
「ジョーカってヤツ」
ここでミイ、またタマモの胸部を鷲掴み、
「うひゃあ! も、なにすんだよミイちゃん」
「俺じゃない。あたしでしょう。それからタマモ。偽情報な。それ…」
かけられた思い込みを解いてやる。
「カワノ。天鳥船発進だ。各位、交代で休息をとれ」
クロは嘆息し、神州九州へと航空艦船を進めた。
なにやら、色々と根が深そうだ。情報が三日分しかないクロに解けるものじゃない。
天鳥船には、風呂がある。これだけで予算超過を許せるから不思議である。クロは浴場に歩みを進めた。
☆ ◇ ☆ ◇ ☆
男湯と女湯に分けられているのは幸いだ。脱衣所で服を脱ぎ、体の汚れを綺麗に流して湯槽につかる。
「うん。知ってた。うん」
湯帷子を着ている。女神がいる。
「安心していいぞ。兄さま。重装湯帷子だ」
「俺は湯帷子着てないからな。つか、なにが君を掻き立てるの? ねえ?」
テラスは、頭をふりふり、やれやれをし、
「根が深すぎるよな…」
「そうだな」
湯槽につかりながら、クロとテラスは情報共有。御神徳の抑え方が解明し、
「祭りかー。高天原でもやるけど、なんか違うのよね~」
「スサがいないから、ノリが足りないんだよ」
クロが言う通り、スサはこれ以上ないくらいに突き詰める。情熱の熱量が足りないのだろう。
「てか、上がりなさいよ」
「えっち」
「重装湯帷子だから大丈夫です。言っとくけど、俺は装備してないからな」
「ちぇー。わかったよー」
不承不承にテラスは、湯槽から上がり、クロはスッと目を反らした。
★ ◆ ★ ◆ ★
艦橋にて、ヤカミとウカノ。ウカノはヤカミから目を反らし、
「ウカノ姉ちゃん。娘のミイだよ」
「初めましてウカノ伯母さま。ミイと申します」
ミイは特攻服を脱いでペコリとお辞儀、
「こっちの義兄弟魂は、義姉のタマモです」
遠慮がちに席を外そうとするタマモを、強引に引き戻し、お辞儀を強要。
「よ、妖狐のタマモです。ミイちゃんの義姉らしいです。てか、義姉っておかしくね? 義姉じゃねえの?」
そこは二代目総長。物怖じはしない。
「ウカノは、ヤカミの姉ちゃんのままでいいですか? あたしは、まだ」
大人じゃない。ウカノが恐る恐る紡ごうとするのを、
「俺たちが勝手に大人になったんだ。ウカノさんは、俺たちの姉ちゃんのままですよ」
アナムチは被せ、
「ウカノ姉ちゃんがヤダって言っても、クロさまがダメって言っても、あたしの姉ちゃんはウカノ姉ちゃんだけだよ」
ヤカミの言葉に、心のダムと涙腺は決壊。グシャリと泣き顔に顔を歪め、ウカノはヤカミの胸に顔を埋めて泣く。
「あたし、姉ちゃんなのに、みんなを、指導できなくって、ごめんねえ」
それから、ウカノは延々と謝り続け、ヤカミの方も心のダムと涙腺が決壊して、
「あたしこそ、妹なのに気づけなくてごめんなさい」
泣き顔に顔を歪めても、キチンと言葉が紡げるのは大人と子供の違いだろう。
☆ ★ ◇ ★ ☆
風呂から上がると、廊下で険しい顔をしたヤチホコとイワノとすれ違う。深々と嘆息、
「どこに行くつもりだよ…」
むんずとふたりの後ろ襟を鷲掴んで、問い質す。ふたりは無言。譲れないことらしい。
「ジョーカってのに、なにやら覚えが?」
クロは呼び水を投入し、
「あいつは仇なんですッ! 行かせてください長官代理ッ!」
噛みつくように吠えるヤチホコに、
「どこにだよ? 無計画なんだろう?」
「それでもッ! あいつはッ!」
悔しそうに地団駄を踏むふたりに、
「作戦会議室で作戦会議だ。睡眠時間を返上で研鑽したいとは見上げた心がけだ」
獰猛に嗤って指示。
◇ ★ ◇
ヤカミが浮浪児であったことに、クロは納得。彼女の素性を知っているのは、クロだけだ。
「闇雲に動いても無駄だよ。怪異なのか仙人なのか、それさえ不明なんだろう? スセリ、子供たちは休ませます。ここからは、大人の時間です」
「卑猥いことするの?」
ミイの無邪気な発言に、
「そうですよ。卑猥いことをします。子供は寝なさい」
クロはスルー。スセリはすかさず、
「いだだだだッ! もう! お顔が伸びます!」
制裁発動。
ミイをはじめとした子供らが退室し、スセリが戻ると、
「動くように仕向ければ良い。幸い主導権は、こっちにある。目的は見えている勾玉だ」
クロは言葉を続ける。報告によればソミン拠点は、勾玉を大量に必要としているらしい。確かに子供に聞かせて良い話じゃない。卑猥くはないが。
「イナバにまで接近するとは、舐められたものだ。チヨ殿がイズモを離れた理由は、防衛だろうさ」
ウカノもジャンル子供に分類されて休ませている。今日はエベっさんも付いてやるようだ。
「とすると、標的は、ソミン拠点にいる公算が高い」
「しかし、ヤカミでも退けられなかった相手だ」
アナムチの言葉に、
「子供だったからよ!」
ヤカミは噛みつき、
「それを踏まえて作戦会議だよ。まずは情報共有だ――」
クロは標的ジョーカについて考える。組手のヤカミは、確かに強い部類に入った。子供の頃でも変わらないだろう。格上の相手が排除に舵を切らなかった理由。
「上等じゃねえか」
クロは獰猛に嗤う。怒気の交じった殺気が駄々漏れだ。クロの殺気にみんなは慣れた。
「うん? どうしたのさ」
キョトンと尋ねるクロに、
「長官代理て、たまに悪人顔になるよな」
「悪人つうか魔王だよ」
「「てか、大魔王よね。桜桃なのに」」
みんなはヒソヒソ。後半はさりげに嘲りが入っていたがもう慣れた。
「相手の所属には検討がついた。ヤカミ、感情はしまえそうですか? しまえないならチヨ殿とウカノに任せますが」
尋ねるクロに、
「無理です。でも人任せはもっと無理です!」
ヤカミは噛みつくように吠えたてた。クロは元浮浪児たちに向き、獰猛に嗤い、
「遊撃小隊頭目は、俺だ。ヤカミ、イワノ、ヤチホコ。それで良いですね」
「「「応ッ!」」」
三人は大音声な鬨に応えた。




