思考航海と蛇の足 ~ASHIWARANOSHIKOO~
集団発想法。提案を嵐のように出し合い、提示された知恵は決して否定せずに、その中から現実的な提案を抽出して最適解を採用する手法である。思考の大海原を漂い目的地を目指すことから、この物語では、思考航海の文字を宛てようと思う。言い得て妙だろう?
時は一時、パーティー編成時の神州九州に遡る。
経費を指摘され殊勝らしくシュンとする三人に、
「俺は私情をしまえと言ったんです。棄ててしまえとは言っていない」
クロは苦笑、
「家族を優先――当然の反応だ。それで良い。でもツンデレ小母さまの件は、イズモに売られた戦争です」
獰猛に嗤う。ピリリと肌を撫で付ける殺気に三人は戦慄え、
「売られた戦争は買います。買ったからには勝ちます。総員を集めなさい。思考航海して小隊編成の最適解を導き出しなさい」
クロは獰猛に下知。
戦慄える三人、
「ブレストってなによハニー?」
「胸部じゃん?」
アンポンタンなアナムチ夫妻。
「なるほど、桜桃だから、直接的な卑猥な単語を言えないのね」
スセリは、さりげに嘲り、クロはコメカミをピキらせ、
「エベっさ~ん」
制裁を要請。エベっさん騎兵隊帽子をブーメランに変形させるや、
「衝撃的二重基準ッ!」
制裁発動。三人は俊敏に屈んで難を逃れるが、
「「「いっ痛っぁ~ッ! 総隊長殿ッ! これひとに向けちゃダメなヤツぅ~ッ!」」」
二重基準は、見事に痛恨の一撃を三人の後ろ頭に叩き込み、エベっさんの手もとに華麗に帰還。
「おまえら神さまじゃん」
「ならばヨシッ!」
クロとエベっさんはスルー、
「「「いいわけあるかあッ!」」」
三人は抗議の声をあげるが、
「わからん言葉が出たら尋ねなさい脳筋ども」
クロは抗議を封殺して、思考航海について教示する。
航海は進んでいく、
「俺とヌマっちと課長でよくね?」
「ああ、それもいいかもな」
アンポンタンな、
「装備はこれでよくね?」
寄り道をしながら。ハラシコが手にしているのは際どい水着であり、
「ああ、いいかもな」
ヤカミ、コメカミをピキらせスルー。
「良くないからッ! なんで荒野で水着着るのよ?」
カワノは容赦なく否定、
「否定しねえって言ったじゃ~ん」
ごねるハラシコに、
「ウカノー」
クロは要請。ウカノ、転瞬に消えるや、
「はい。伯父御さま」
ハラシコの臍下を掌打で射貫く。先日にクロが見せた技だ。
「飲み込みが早いですねウカノ。それにこれを――」
「な、なるほど勉強になります。伯父御さま」
臍下を射貫かれ、地面をのたうち回るハラシコをふたりはスルー。
「ヤカミ。続けてください」
武術指導をしながらクロは下知。チヨは吐息をひとつ、のたうち回るハラシコによるや、顔を近づけ耳朶に耳打ち。ハラシコ、即座に起き上がるや、
「パーティーには盾役が必要だ。俺は外せない、オイジョーズのメンテにはミモロが適任だし、攻め手はイワノで良いと思うぞ? 突貫力ならヤチホコ以上だ」
最適解を提示した。
あまりの変わり身に、
「なに吹き込んだんですチヨ殿?」
ハラシコの目は爛々だ。脅しの類いではないようだ。
「させてやる。と…」
短な回答に獰猛な笑み。ハラシコが望むものでないことだけは確かである。疲れた嘆息、
「悪女ですねチヨ殿」
「あら人聞きの悪い。義伯父御さま、これもひとつの優しさですわ」
チヨはシレ。道中でハラシコの急成長が見込まれる。
「俺も同道しよう」
ここでアナムチが立候補、
「双璧には別の任務があります。せっかくの重装備だ。処の怪異や仙人に難癖つけて暴れてきなさい。責任はアシワラナカツクニ長官スサノオ――が持ちましょう」
自身の役目と名前を恐ろしいまでの小声で言い、
「スサの名前を売りなさい。この神州九州で。その責はウツシクニタマが負います」
弟の名を広める行為には責任を負うとは、なんとも、
「「ず、狡くない?」」
それである。悪名はスサ。スサに怒られる責任だけは負う。つまり、そう言うことである。
「あっははははッ! 長官が、あわてふためく姿が目に浮かぶ」
チヨは大笑い。
「お、伯父御さま…」
ウカノはジト目。
「ではヤカミとスセリで別れて小隊編成です。イズモの防衛を視野に入れ、経費も考えながら思考航海しましょう」
クロはそれらを意に介さずにパンパンと手をふた叩き、思考の海原を最適解へと向けて進めていく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この辺りに棲む敵対勢力について、
「怪異は、土地神と人の混血だ。仙人は天上神との混血になる。どちらも独自の術式や、独自の文明を活かした戦闘方式をとることで知られている」
簡潔に情報共有する。
クロが威力偵察を基本方針に定めたのはこのためだ。怪異と仙人は独自の進化を遂げており、情報が足りていない。
オイジョーズを偽装シートに隠し、竹林へと足を踏み入れる。あからさまな違和感に、
「各位、防御障壁展開」
チヨは迅速に下知。ハラシコは大楯な神器を構えて前面で障壁を展開するが、
「「え? お、俺は?」」
障壁はチヨを始めとする女性陣の前にしか展開されない。
「長官代理は、防御障壁あっても飛び出すんでしょ。どーせ。いざって時には、障壁を張りますよ。課長命令ですからね」
軽口にクロの苦情を措き、
「テメェの身はテメェで守れ」
ミモロに至っては切り捨てる。ミモロは慌てて防御障壁を展開し、ハラシコの予想通りに、着弾と同時にクロは吶喊し、
「エベっさんッ!」
「ハイなッ!」
草薙剣を大楯に変形させ敵の懐に肉薄した。
「ミモロ。オイジョーズの副砲を義伯父御に向けて斉射だ」
チヨの下知に、ミモロは困惑。
「撃ち方始めッ!」
独特の発音方法での号令に、
「撃ち方始めッ!」
ミモロは条件反射、シートを引っ剝がすや副砲斉射。クロのいる辺りに黒煙があがる。
「イワノ、スセリは衝撃捕縛銃だ。構えッ! 斉射ッ!」
衝撃が黒煙を吹き払い、敵の姿を露見させる。大楯を構えて副砲の砲撃を防いでいる誰かの首筋にクロは草薙剣の切っ先を突きつけ、捕縛銃に捕縛された誰かが、そのすぐ脇で転がっている。
「所属勢力と名前を教えてくれるかな? 此方は、ここからも見える塔から訪ねてきた神さまだ」
クロが訪ねると、大楯を構えた男は、
「キテイ組合のチンゲンだ。武塔神が何用だね?」
名を告げるは降伏の証明だろう。力量の差は明白で、武器の性能差も歴然だ。
「いきなり踏み入ったは、此方だが、それにしては、火力が強い。そうは思わない?」
少しだけ獰猛な威圧。クロから滲みでる殺気に、転がる誰かは苦笑し、
「キテイ。勝てないよ。武塔から来て、この容姿だ。こいつ、たぶんスサノオだぜ?」
推定チンゲンは、クロの都合が良いように勘違い。
「アシワラナカツクニ長官スサノオ――だ」
相変わらずに自身の役割と名前は、恐ろしいまでの小声で告げ、草薙剣を鞘におさめる。
推定キテイも大楯を中空にしまうや、本来の姿に戻る。3頭身な猫の仙人がキテイの素の姿らしい。
「それで長官代理殿。我がコタン拠点に何用だ?」
キテイは平行線を引きながらに、意趣返しを置く。吐息をひとつ、
「スセリ。説明を…」
クロはスセリに交代を申し出る。どうやら面子を気にする手合らしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
竹林の中に佇む小さな酒場に、キテイ組合が併設されていた。そこで、
「貴組合は営業許可を取得されておりません。そのため、現在の営業活動は違法となります。すみやかに業務を停止していただき、所定の手続きを取っていただく必要があります」
事務方スセリの遵法精神無双。キテイとチンゲンのふたりは、
「こ、ここは神州九州だぞ?」
反論するも、
「そうですね。葦原中津国の神州九州ですよね。ところで、移住申請はされましたか? 異能や神の爪の封印は? これに違反が見られた場合の罰則規定は、ご存知でしょうか?」
柔らかな声音で、ニコヤカな笑顔での恫喝。目だけは笑っていない。嗜虐的に輝いている。遵法精神を振りかざして抑圧するのは、事務方の得意技である。
脂汗を流して、タジタジに縮こまる組合長たちを、オロオロと見守る観衆たちに、クロは嘆息。
「なあキテイ。俺とウケイをしないか?」
ウケイを持ちかける。
「「ウケイ?」」
キテイとチンゲンは、小首を傾げてキョトン。ウケイを知らない世代らしい。
「ようは賭けだ。それに勝ったら見逃してやるよ」
「長官代理?」
スセリはご不満、それを片手で制して、
「武力じゃ勝負にならんのは証明されたわけだ。おまえの得意分野でかまわない。ちなみに俺は絵心がない」
クロはキテイの優位な勝負を持ちかける。
「長官代理殿が勝ったら?」
「素敵な小母さまの傘下につけ」
そう言ってクロは、勾玉の首飾りを、キテイの元に放ってやる。放られた首飾りに触れた途端に、
「あ、アヤカシの姐さん…」
キテイの血の気が引き、顔面蒼白どころか顔が白くなる。と言うか、白いのは毛の色か。
「え、絵だ! 絵なら得意だ。長官代理殿には負けねぇ!」
「そうだな。蛇の絵にしようか…この盃に酒が満ちるまでが期限だ。イワノ、お酌をお願いできますか?」
イワノに大振りの盃と、瓢箪を模した酒瓶を委ね、
「エベっさん、紙と筆をお願い」
「ハイハイ」
ここでエベっさんはワルい笑み。
「準備はいいか? イワノ、始めてください」
「はい。長官代理」
イワノ、珍しく空気を読んでクロの名を伏せて呼ぶ。お淑やかに酒を注ぐ。
クロは手を動かさない、キテイはサラサラと紙に筆を滑らせる。あっという間に見事な蛇の絵が書き上がる。なかなかに見事な水墨画だ。
「どうした長官代理殿。儂は書き上げちまったぞ? 酒は盃をまだ満たさない…なんなら、もう一匹書いてやろうか?」
「好きにするさ」
少し拗ねたようにクロ。
「おいおい、ちょっと言っただけでヘソ曲げるなよ。ガキだなあ」
キテイは煽る。
「ほうら、儂なんか足まで書いちゃうもんね。どうよ?」
ここでクロはニヤリ。酒は間もなく盃を満たそうとしている。
「蛇に足があるか」
と、クロ。
「ほうら、これが蛇だぜキテイちゃん」
エベっさん、異能を使って、写実的な蛇を転写する。
「さあ、勝負あった。カタメの盃と洒落こもうぜキテイちゃん」
「き、きたねえぞ! 長官代理殿は書いてねぇッ!」
「俺が書くとは言ってないし、手書きとも言ってないし。それに、足書いて台無しにしたの自分じゃんか?」
足掻くキテイに首飾りが反応。
『まあ、かわいい。小母ちゃまのとこの子になる?』
キテイにだけ聞こえる声。ビクリと身を竦ませ、
「つ、謹んでお受けいたします」
完全降伏。キテイは盃の酒を飲み干した。




