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俺は魔法使いの息子らしい。  作者: 高穂もか
第一部 決闘大会編
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第四十三話

 イノリの両腕は、あったかい檻みたいだった。

 ギュッと力づくで抱きしめられて、息が止まりそうになる。

 溺れるみたいに広い背中を指で掻くと、もっと強く引き寄せられた。


「――っ!」


 苦しい。――でも、はなさないで欲しい。

 痛いほどの力が、嬉しかった。

 白いシャツに当たる頬から、イノリの体温が伝わってくる。

 なつかしい甘い香りに包まれて、瞼が熱くなった。

 心臓が怖いくらい鼓動して、胸がもどかしい。

 いてもたってもいられなくって、イノリの背に強く抱きつく。


「イノリっ」

「トキちゃん、ごめん。ごめんね……」


 イノリの声が切なく震えてる。

 「違うよ」って、首をぶんぶん振った。

 辛そうな声が、辛い。

 ふいに、大きい手に肩を掴まれて、体をやさしく抱え直される。

……イノリ、あったかい。

 肩に額をくっつけて、うっとり息を吐いた。

 イノリがぽつりと言う。


「トキちゃん、痩せた」

「それは。……お前だって!」


 前より、体の厚みがかなり薄くなった気がする。

 生徒会、忙しかったのか。

 それと、やっぱり……俺のことでも、悩ませちゃったのかな。

 しゅんとすると、両頬をやわらかく包まれた。


「イノリ、ごめん」

「ううん。俺こそ」


 何度も、「ごめん」を言い合う。

 俺が悪いのに、イノリが謝るから終わんなくて。

 これじゃ、いたちごっこだ。

 おかしくなって笑うと、イノリも唇を綻ばせた。

 額をこつんとぶつけられる。


「トキちゃん、ありがとう」

「え?」

「さっきの。すっげぇ嬉しかった。……他の人にだなんて、ほんとうに馬鹿なこと言ったよなぁ」


 そう言って、イノリは微笑った。


「俺もトキちゃんじゃなきゃ嫌だ。トキちゃんのことも、誰にも触らせたくない。――ううん、触らせないから」

「本当にっ?」


 優しく頷かれて、ぱっと頬が熱くなる。

 嬉しくて、照れくさい。

 俯いてにやにやしてたら、腰を引き寄せられた。


「わっ」

「トキちゃん、あのさ」


 後頭部を手のひらで包まれて、ぐいと仰のかされる。

 鼻先が、触れ合いそうだ。


「……触ってもいい?」


 真っすぐに目の奥を覗きこまれて、「あっ」と息を飲む。

 イノリの目が、きらきら光ってる。

 いつも薄茶の虹彩がもっと明るくなって、眩しい金色に輝いていた。

 そんで、すぐわかった。

 イノリの「触る」が言葉通りじゃないって。――今から、魔力で俺に触るつもりなんだって。

 きゅう、と喉がしまる。

 緊張のせいか、胸がすげえ苦しい。

 でも。

 俺は、勇気を振り絞って、イノリの背にぎゅっとしがみつく。


「触って、イノリ」

 

 言葉にした刹那。

 触れ合うところ全てから、イノリの魔力がどっと流れ込んできた。


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