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38.回想2

「恐れながら。殿下、あなた様は今、コンチュ様のことなどに心を砕いている場合ではありません。

速やかに向き合うべきことと向き合わねば、ご自分のお立場を悪くするばかりですよ。」

「……やはりお前は、()()なのだな……。俺の心情など、何一つ……。 」


がっかりした、とでも言いたげに、これ見よがしにため息を吐かれてしまいました。


(話が噛み合いませんね。まるで悲劇の主人公とばかりに、一体どの口が仰るのでしょうか。)


「まずもって、聞く相手をお間違えなのでございます。

わたくしは、あなた様がお求めになる答えを持ち合わせていないのですから。」

「そんなはずはないだろう?同じ学年で、互いに高位の令嬢同士で……。」

「そう仰られましても。彼女の所業については半分も存じ上げませんわ。

できる限り関わり合いになりたくありませんでしたし、彼女が特に苛烈だったのは、ご自身より明らかに立場の低いとみた相手に対してですもの。

……ですからこのような席でわたくしにお訊ねになるのではなく、被害に遭われた方に直接お話を伺えばよろしいのよ。」

「冷たいことを言わないでくれ、ここでお前が取り合わないのなら、俺にはもう王宮の外から情報を得る手段などない。

今の俺が自由に動ける立場にないことくらい、お前にも分かるだろう?」


確かに殿下は騒動直後から国王陛下の監視下にあり、その行動が著しく制限されているらしいことはわたくしも存じております。

外部の人間からの情報は、喉から手が出るほど欲しいものでしょう。


けれど、だからこそ、失望が深まるのでした。


(あれだけの仕打ちをして、しかもそれが不当なものだったと明らかになったばかりだというのに。

被害者であるわたくしを、単なる情報源として扱われるのですね。)


あえて意図せずとも、視線も言葉も鋭くなってしまうというものです。


「では周囲を説き伏せるなり振り切るなりして、会おうとするくらいの気概を見せてはいかがです?

もっとも今のあなた様では誠意を欠いた態度をとった上、被害者の心を余計に傷つけて拒絶されるのが関の山でしょうけれど。」

「ぐぬ、無礼な……いや。」


つい刺々しくなるわたくしの言い方に気分を害されたようですが、ぐっと堪えたところは成長なさったと評価すべきでしょうか。


「誠意と言ってもだな、被害者だと称する連中が誇張やでまかせを申した場合、私はそれを指摘することも咎められるのだろう?それでは意義のある聞き取りなど不可能ではないか。」

「はあ……?まるでその方々の証言が正しいものでないと決めてかかられているように聞こえますが。」


「大なり小なり脚色はあるに決まっているだろう。お前だって、学園で俺にコンチュのことを告げ口するとき、少なからず大袈裟に申していたではないか。

彼女に会うたび酷い態度をとっていたにも関わらず、自分の行いは棚に上げて。

だからこそ、俺はお前の言葉を信じられなかったのだぞ。」

「……。」



──プツン。



前言撤回。


ついにわたくしは、自らの堪忍袋の緒が切れる音を聞きました。


「……告げ口?大袈裟で、信用できない言葉……?」

「ひっ……!?」


この喉奥から、自分でも驚くほどの、まるで地を這うような低い声が滲み出ます。


「……それは、一人の臣下からの、必死の忠言ですわ。……忠言、でしたわ。」


(わたくしは一体ここへ何をしに来たのでしょうか、何をしているのでしょうか。

何ですの、この虚しいほど無駄な時間は。)


「殿下。」

「な、何だ。」


なぜか怯えたように体を引く殿下。それが余計にわたくしの感情を逆撫でします。


「……ひとまずお黙りになって、わたくしの話を、お聞きくださいね。」

「……!?」


お返事がないようですが、もうそれは承諾していただけたものと受け取ります。


「確かに、わたくしはコンチュ様に対して多少強い言葉を使ったかもしれません。けれど、だといたしましたら、そうなるよう仕向けていたのは他でもないコンチュ様ですわ。」

「なんだ……お前、急に……?」


わたくしは、すう、と深く息を吸い込みます。


そして、あのパーティーの場では申し上げなかったことを、荒れ狂う感情に任せて一気に述べ立てました。


「先ほどあなた様が挙げられた例ほどに過激ではなくとも、わたくしだって彼女に色々と不快なことはされておりましてよ……?

とはいえ、互いに家名を背負う身。まともにお相手をしては大人げないと耐えてきたつもりですけれど、一向に止まない粘着質な攻撃に、少なからず心を痛めておりましたの。

彼女の嫉妬による攻撃に悩まされ、十の攻撃を受けた後に文句の一つでも言おうものなら、なぜかこちらが嫉妬しているようなことにされ、婚約者であるはずのあなた様には全く取り合っていただけず。

懸命に訴えても、理解しがたい色眼鏡を通され、まともに聞いていただけた試しがございませんでした。


ええ、ええ。ほんとうに訳がわかりませんでしたわ。

まるで言語の違う民……いえ、もはや人語を解さない獣とお話をしているようで。

もちろん味方をしてくださる方もいらっしゃいましたけれど……。

学園内で最も貴いお立場であり、将来を共にするはずのあなた様が終始その調子でおられるものですから、とても心細く恐ろしい思いをしましたの。


この際でございます、言わせてください。

今になってもまだコンチュ様を信じたいだの何だのとのたまっているあなた様は、人々の上に立つ器ではないのです。

わたくしたちをここに引き合わせた陛下のお考えは存じませんが……。あなた、まだ外部の人間と会うのは早すぎたのですわ。


今はただ逃げずにご自分の行いを反省なされませ。


……申し上げたいことは以上でございます。……では、さようなら、殿下。」



呆然とする殿下を一瞥しながら、最後にそれだけを告げ、わたくしは王宮を辞したのでした。



「何もかも……何もかも、もう信じられぬのだ……。皆、どうして今さら言うのだ……。」



背後で恨み言のように絞り出された悲嘆の声は、聞こえないふりをして。

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