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34.騒動のあと、アクミナータ邸

例の騒動から一週間ほど経ったある日。


わたくしはブルーノ様──無礼のないよう「ブルーノ卿」とお呼びしたところ、「お互いもう堅苦しい線引きは止めにしよう」とお許しをいただいたのです──のエスコートで、我が家であるアクミナータ邸の庭園を歩いておりました。


暖かな春の日差しの下、お互いの近況などをポツリポツリと話しながら、多少ぎこちないながらも和やかな空気を楽しみます。


「あのパーティーがお開きになった後、家族に散々叱られてしまいましたわ。」

「はは、 私もだ。父や兄達に久々にこってり絞られたよ。」


そうして少しだけ互いの出方を窺うように、二人して軽く笑いました。


「……ブルーノ様は、図書館でお会いしたあの日から、ずっとフラン様を探っていらしたのですね。」

「ええ、()()()()()()我が家にとっても、到底看過できる企みではありませんでしたから。」


(?今何か……気のせいでしょうか。)


言い回しか内容か、少し引っ掛かりを覚えた気がしましたが、いまいち正体を掴み取ることができませんでした。


「そう、ですか?……でもわたくし、どうしても分かりませんの。

フラン様を阻止するためとはいえ、歴史ある公爵家がいわゆる革新派であるわが家に肩入れする理由が、いったいどこにあったのです?」


「貴女が疑問に思われるのも無理のないことです。

確かにバルビシアーナ家は、秩序の維持に不可欠である伝統や格式を重要視していますから。

しかし、昨今の世界情勢を鑑みればそれに固執するだけでは生き残れないことは明白。

発展を放棄し、停滞に甘んじることは即ち滅亡を意味するのです。

……ならば、革新派と呼ばれる方々の試みに水を差す理由がない。

そもそも、新興勢力に易々と取って変わられることを怖れて足の引っ張り合いなど、無能の証明でしかありませんしね。

当主が宰相職に就くバルビシアーナ家は、そのことをよくよく理解しているのです。

……とまあ、そういった事情で、新たな風を執拗に妨げる古参貴族の発言力をほどよく弱めたかったのですよ。」


あっさりと明かされた公爵家の思惑に、わたくしは思わず目を瞬かせました。


「そのように深いお考えがあったとは露ほども知らず、稚拙な質問をいたしました。どうかご容赦くださいませ。」

「いえ?我々も立場上、表立っては悟られぬよう注意を払っていましたので。

何せ、なまじ高位であるだけに、余計な目も多く……。

おまけに事が事ですから、成就させるには余程の理由が必要と思っていたところに、貴女が素晴らしいヒントをくださったのです。

容赦も何も、貴女には感謝してもし足りませんよ。」


恭しく礼をされて、わたくしは慌てます。


「二年前の件ですか?あれはただの偶然です。

あの頃はただ右往左往していただけで、彼らに振り回されるままに呟いた台詞が、たまたま貴方のお耳に届いたというだけですもの。」

「ふふ、まあそういうことにしておきましょうか。

ですが、少なくともそれを発端にフラン・ショーンやその周辺の動向を注視し始めることとなったのです。

そうして、あのパーティーでの暴挙についても事前に情報を掴んだ上で陛下の(みことのり)を得、現場に直接介入することと相成ったわけですね。」

「まあ、そうでしたの……。」


「ですから当日は介入の機を見計らいつつ、状況を見守っていたのですが……。

学園長の到着まで時間を稼ぐためとはいえ、貴女が随分と挑戦的な物言いをなさるものですから、こちらも肝が冷えましたよ。」

「だって、あの場面では気迫で押されたら負けですわ。」


おどけるような言い方にばつの悪さを感じ、思わずふい、と顔を逸らしました。


ブルーノ様は気にした様子もなく、なおも楽しそうに続けます。


「ああ、肝が冷えたといえばもう一つ。

此度はフラン・ショーンやその周辺を探るために我々の手の者を学園に送り込み、見張らせていたのですが。

……ふっ、その報告で同時に上がってくる貴女の行動がとても愉快でしたよ。

白鳥の羽毛を被って雪に擬態したり、池に潜り水面に出した管で呼吸しながら近づいたり……。一体、あの発想はどこから来たんだい?」


控えめながらも楽しそうに笑う彼の顔は、いっそ嫌みなほどに美しいもので。


「……わたくしには、恥じることなどひとつもありませんわ。」


少し不貞腐れた気持ちで、再度顔を背けました。


「それはそうなのだが……。でも、危険だから二度としてはいけないよ。

特に池の水など決して清潔とは言えないし、足を取られて溺れるかもしれない上、体を冷やす恐れもある。」


困ったように微笑みつつも意外に口煩いことを仰るブルーノ様に、わたくしは少し驚きました。


「……何を驚いているんだい?貴女の身の安全を心配するのは当然でしょう。」


そして、怪訝そうに続けられた言葉に、さらに首を傾げたのでした。

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