第7話
「U村について、詳しく聞かせてほしい。」
僕のメッセージにSはしばらく返信をよこさなかった。
普段は既読無視などするようなやつではないとわかっていたので、僕はSの気持ちを慮ることにした。
しかしそれは同時に、僕の疑いが事実であることを彼が認めたことを意味していた。
驚きはあまりなかった。
なにせあれだけの異常性があるのだ。
少なからずあの集落を知るSがその異常性に気付いていないはずがない。
そして、彼にはやはり彼なりの目論見があったのだろう。
3日ほど経った頃だろうか。
深夜にはやかましいバイブレーションの通知がSからの返信が来たことを知らせた。
「ごめん。」
おちゃらけという言葉がおそらく日本で一番似合うSから、72時間もために溜め込んだ末出た言葉がこれだけとは信じられん。
たった3文字、その短い謝罪にはどんな意味が込められているのだろう。
文字面以上の意図があることは疑いようがなかった。
Sは一体どこまで知っているのだろう。
児童の連続行方不明、そしてそれが明るみに出ることはない。
意図的に隠されているのか、もしくはもっと大きな闇がひそんでいるのか。
何も知らない人間にとっては全てが妄想にすぎない。
結局情報を集める以外に僕の持つ手段はなかった。
Sとは来週の火曜、夕方に新宿のカフェで待ち合わせることになった。
よくもまあこんなに喫煙可能な店を知っているものだ。
ニコチンの恐ろしさここに極まれりだなと思いつつも、ちゃっかりタバコを咥えている自分を客観視することを諦めた。
運良く数日の間が空いたので、僕はU村について徹底的に調べ尽くすことにした。
だが結果的に、それはU村の恐ろしさをかき立てるものでしかなかった。
図書館、書店、インターネット。
使える手立てのすべてを使い尽くしたと言っても過言ではない。
にもかかわらず、U村についての情報はほぼ全く手に入らなかった。
わかったことは2つ、児童の消失は少なくとも1967年から続いていること。
そしてU神社と呼ばれる祭祀施設があり、その神主が昨年殺人罪で死刑判決を受けたということだけだった。
これらはどちらもインターネットから仕入れた情報だ。
殺人事件については全国区のニュースにすらなっていない。
不可思議な点は、書物という書物にU村の記載がないことだった。
隠れ里とはいえ少しは記述があるものだろう。
だがU村については、実際に全く記載が見られない。
ほんの数年前の殺人事件についてさえだ。
これは意図的に隠蔽されていると断言して間違いないだろう。
巨大な力が働いている。
闇を覆い隠そうと、大きな怪物がうごめいている。
僕は今、それと対峙しているのだ。