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供千様  作者: 鍋島後尺
本章
6/24

第5話

 明朝、僕は目を覚ますと真っ先にデスクへ向かった。

 というのも、昨日書いたメモの存在を忘れないうちに作業に取り掛かりたかったからだ。

 こう見返してみると僕はやはりメモの取り方が下手だ。

 要点がうまくまとまってはいるが、裏を返せば要点だけ。

 内容が全くわからないので覚えているうちに書き始めるほかない。

 一体このメモに意味はあるのだろうか。


 福島県A町、それがSの言った町だった。

 A町は福島県の西部、いわゆる会津地域に属している。

 その中でもU村と呼ばれる地区こそSがルーツを持つ場所だ。

 Sの両親は二人ともU村の出身で、父親の就職に合わせて一緒に上京したらしい。

 幼少期ではあるが、両親の帰省に連れられS自身も何度かこの町へ訪ねたことがあるらしい。

 しかし思い入れはあまり無いようで、Sひとりでこの町へ赴いたことはないそうだ。

 それどころか、最後にU村を訪ねたのはもう20年近く前のことだそうだ。

 もしかしたら取材に行くかもしれないので、その時に一緒にいかないかとも誘ってみたが、Sは「俺からしたら別段おもしろくないならいいや」と言うだけで、興味もないような様子だった。


 U村は、かつては政治的に、もしくは戦に敗北した都の人間が身を隠す”隠れ里”であったそうだが、大規模幹線道路の開通により今やもうその影を見ることはない。

 とは言えそれは道が開かれて交通アクセスの問題が取りさらわれたというだけのことであって、日本の一般的な地方集落同様、人口減少や過疎化の波を受けている。

 人口は年々減少しており、2000年当時は900人程度であったが、今や500人を切っている。

 人口ピラミッドの形状はひょうたん型といったところだろうか。

 上部が膨らみ、中間が著しく凹んでいる。

 労働者が流出した高齢者社会であることは明白だ。


 いや、待て。

 なにかおかしい。

 ひょうたん型の人口ピラミッドはこうじゃなかったはずだ。

 僕は数分間の思考の末、その違和感の正体に気がついた。

 弱年齢者層が”あまりにも”存在しないのだ。

 30代以下の人口が不自然に少ない。

 30代はかろうじて5人残っているが、20代は2人、10代以下もたった2人のみだ。


 そんなことがあるのか?

 子供がほとんど全くいない村。

 高齢者社会とはいえ、そこまで病的な子供不足にまでは陥っていないはずだ。

 僕はすぐに周辺、そして国内で同様の集落について調べてみた。

 だがしかし、やはりこうはなっていないのだ。

 どの地域にも微小ながら労働年齢層が残っている。

 そして最終的には高齢者層と弱年齢者層だけが残る、だからひょうたんのような形になるのだ。


 僕はこの奇怪な人口ピラミッドの謎を無視することができなかった。

 そして同時に、昨日Sから感じたあの違和感を、強烈に思い出すこととなった。


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