第4話
酒が回るのがずいぶん早くなったように思う。
まだ3杯目だというのに、程よく酔いが来て心地いい。
コストパフォーマンスは良くなったが、以前のように朝まで飲むことなど到底不可能だろう。
そう思うと少し寂しいような気もした。
しかし、やはり旧友とはいいものだ。
初めは少しぎこちなかったが、酒が入った途端にふたりとも饒舌によく話した。
どんな話題でも共通の経験があるので、話が弾む。
それに、ある程度込み入った話でも差し支えなくすることができるというのは良い。
普段いかに抑圧されて会話をしているのかよく分かる。
しばらく出不精をしていたが、たまには良いものだ。
「で、作家先生よ。」
「マジでやめてくれ。そんなたいそうなもんじゃないよ、作家なんて。世の大先生方は偉そうにふんぞり返っちゃいるがね、結局は煮詰めに煮詰めた根暗でしかないんだから。」
「そうかねえ、俺には真似もできないような芸当をしている方々だからなあ。」
「文字なんて今日び誰でもかけるさ。」
「ふうん、そうか。お前は”カンヅメ”とかやらないのか?」
「カンヅメね。できることならやりたいくらいだよ。ネタもないし時間は足りないし。」
「お、ネタ切れって本当にあるんだ。」
「そりゃあるさ。持ちネタの数にも限りがあるからね。なにか面白い話があれば教えてほしいくらいだよ。」
「面白い話かあ…うん、まあないことはないな。
お前、田舎に住んだことないだろう。俺の親の故郷はひどい田舎だからな、なにか新発見があるかもしれないぞ。」
「田舎ね。たしかに。あんまり知らないかもしれないね。」
田舎。
どこからが田舎でどこからが都会なのかよくわからないが、まあ確かにあまり触れる機会はなかったように思う。
田舎の因習なんてのはまあ面白いネタになりそうだ。
簡単に取り扱って良いものかどうかが気になるところではあるが、まあそれは編集あたりに聞けばいいだろう。
「いいアイデアだ、ありがとう。連載のネタにさせてもらうよ。」
「おおそうか。それならよかった。」
「もし本格的に採用するとなったら連絡が増えると思うが、良いかい?」
「うん、そうだな。繁忙期まではまだまだあるから、夜、もしくは週末なら連絡できる。こうやって飲みに来るのも良いんじゃないか?」
「そうだな、それもいい。」
「じゃあ、このへんで。」
「ああ、そうか、Sは中央線だったな。高円寺だったっけ?」
「いや、阿佐ヶ谷だ。まあ住みやすいところでいいぞ。」
「阿佐ヶ谷か。行ったことないな。今度お邪魔させてもらうよ。」
「もちろんいつでもどうぞ。男2人、むさ苦しく同部屋で寝ることになるがな。」