第3話
Sの言った通り、店にはすぐ到着した。
店の戸を開けようとするとすぐに奥から店員が飛んできた。
「いらっしゃいませ、お客様何名様でしょうか!」
「ああ、2名です。入れますか?」
店内は程よく客が入っており、がやがやと賑わしくしている。
「はい大丈夫です、それではご案内しますねー!」
コートを掛けて席につき辺りを見回す。
案外広い店だな、と思った。
どうだろう、40人以上は入るんじゃないだろうか。
この立地なら客足もいいだろうしきっと繁盛しているのだろう。
「いらっしゃいませ、一杯目はなんにします?」とさっきの若い店員が尋ねると、Sはすぐさま「生2つ」と答えた。
まあ、別にいいが一応確認くらいしないのかこいつは。
きっと表情に出ていたのだろう。
Sは俺の顔をじっと見つめた。
「どうした、あたりを見回して。なにか面白いものでもあるのか?」
Sはいつものニヤケ面でそういった。
もうさっきの違和感はなく、いつものSだった。
「いや、結構広いんだなと思って。」
僕はおもむろにタバコをポケットから取り出す。
机に置かれたそれにSは手を伸ばし、慣れた手付きで箱からタバコとライターを取り出した。
「お前、自分のタバコは持ってないのか。」
「いやあ、嫁に禁煙しろって言われててな。持ち歩かないんだ。吸いたいときはもっぱら、一箱買って帰るまでに吸いきってしまうか、こうやっていただくかだ。
それにしても久しぶりだな。最後に会ったのは去年の正月だったかな?」
「いや、正月の集まりは来なかっただろう。Oが寂しそうにしてたぞ。」
「そうか、でもOとはよく顔を合わせてるからな。まあいいや。ということは、えっと、じゃあ一昨年の夏か。俺の家でバーベキューをやったやつ。」
「そう、それだな。お前の家が裕福なのはなんとなくわかってたけど、S家の庭がまさかあそこまで大きいとは思わなかったよ。」
「いやいや、お前の家ほどじゃないよ。」
「ばか言え、うちに庭はないよ。
ところで、最近はどうだ、元気してたか。」
「まあ、ぼちぼちね。仕事もプライベートもいつも通り、変わらないな。それよりお前、また脚本書き始めたんだって?」
「うん、まあね。とは言え劇団に出してるだけだからな。まあ稼ぎはバイト程度、趣味の範疇を出ないよ。」
事実、今日び物書きなど儲かりはしないのだ。
物書きが裕福だった時代があるとも聞いたことはないが。
「ふうん、でも金はもらってるんだろ。じゃあ、”先生”だな。」
「よせよ、冗談じゃない。」
「お、照れていらっしゃる。おもしれえや。」
「勘弁してくれ…。」
「お待たせしました、生ビールです!」
頭にタオルを巻いた店員が両手にいっぱいのジョッキを持ってやってきた。
腕の筋肉が盛り上がっている。
まあ毎日あれだけのものを持っていれば当然なのか。
「じゃあ、乾杯しようか。」
Sはそう言うとタバコを乱雑に灰皿へ押し付け、火を消した。