第2話
どうしてだろう。
どんなに親交の深かった友人でも、久々に会うとなるとなぜか少し恥ずかしいような気分になる。
どことなく気恥ずかしいというか、どんな顔をして会ったらいいのかわからない。
予定の日は朝からそわそわして仕事が手に付かないし、予定時刻の数十分前から意味もなく集合場所で待機して時計をちらちら見る。
そんな時の時計の進みというのは信じられないほど遅い。
10分ほど経ったかなと思い携帯の画面を開くとまだ2分も進んでいない。
これは僕だけなのだろうか、それとも誰も皆こんな風に据わりが悪い気分を味わっているのだろうか。
謎はますます深まるばかりだ。
そんな僕の心配などいざしらず、集合時刻の18時を過ぎてもSは現れなかった。
はあ、こんなことならもっと遅く出てきてもよかったんじゃないだろうか。
そもそも、元来彼は時間にルーズな方だ。
集合時刻に間に合ったことのほうが少ないじゃないか。
そう考えると、よく彼は商社などで働けるものだ。
あまり彼には向いていないんじゃないか、いや、人当たりだけは群を抜いて良かったからそのためなのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると、遠くの方からスーツの男が、まるで競走馬か何かのようにパカパカと革靴を鳴らしながら走ってくるのが見えた。
まったく、変わってないな。
寸分違わず僕の予想通りに走ってきた男はSだった。
「やあ、しばらくだな。」
「はあ、はあ。ははは、ほんと。」
まだ20代半ばとは言っても寄る年波には勝てないらしい。
あんなに運動能力に長けていたSも、あんなジョギング程度で息を切らせている。
もし僕が同じことをやったらおそらく彼以上にひどい体たらくなのだろう。
本当に恐ろしいものだ、明日から運動でも始めようか。
「はあ…、もう、店は決めてあるのか?」
「いや、まだだ。どこか適当に入ればいいと思っていたから。」
「そうか。それなら、すぐ近くによく行く居酒屋があるんだ。飯もうまいし、今じゃまあ珍しい、席でタバコが吸える居酒屋でもある。どうだ?」
「おお、それはいい。ぜひそこにしよう。」
「よしじゃあ決まりだ。この時間ならまだ座れないってことはないだろうから、このまま行ってしまおう。」
「その店はここから近いのかい?」
本当は気にもなっていないが、話題が見つからないのが嫌で仕方ない僕はそんなことを聞いた。
少し考えればわかる、近いに決まっているのだ。
大都会東京で、ここは新宿駅前だ。
徒歩圏内でなければ何であれ適当な電車を使うまでのこと。
どれだけ緊張しているんだ僕は。
ばからしい、相手はSだぞ。
何を気を使うことがあるというんだ。
とは言ってみたものの、やはりなんとももぞもぞする。
早く酒を入れてしまいたいところだ。
「ああ、5分も歩かないんじゃないかな。」
横断歩道の赤信号で足を止め、振り向きながらSは言った。
「ここを渡って、すぐ右の路地に入ったところだよ。」
僕はなぜか、その笑顔に何処か違和感を感じた。