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供千様  作者: 鍋島後尺
終章
24/24

エピローグ

 まただ。

 葉月だというのに全く稲の花が出ていない。

 もうしばらくお天道様を見ていない。

 それに、毎朝凍えるように寒く、昼も暖かくならない。

 今年も年貢は納めきれないだろう。

 こそこそと貯めていた備蓄米も底をつきた。

 飢饉は免れない。

 少しでも村民が残ればいいが、どうなることやら。

 腹が立つのは、隣村は今年も豊作だったという知らせだ。

 流石に飢饉ともなれば食物をわけてくれるだろうが、それにしてもなぜ。

 なぜうちの村ばかりこんな目に合うのだ。

 どれもこれも、連中がここに来てからだ。

 所詮は敗れて都から逃げ出してきた連中だというのに、いつまでもああやってふんぞり返っている。

 未だに過去の身分を誇って、自分は百姓などではないという気でいる。

 少しは置かれた状況を考えれば良いのだ、そうすれば見下している我々以下であることがわかるだろう。

 ああ、本当に憎たらしい。

 口減らしの最優先候補が彼らになることはまず間違いないだろう。




 近頃子供がいなくなる事が多い。

 聞いた話によると、いなくなる子供たちは皆、山で物の怪を見たと言っているらしい。

 一度山へ登ってはみたが、子がそこにいると騒ぎ立てるだけでどこにも物の怪などいやしない。

 大人の中でも都落ちしてきた連中にはその物の怪が見えるそうだ。

 「くっち」と鳴いてこっちを見ていると見える者たちが叫ぶので皆馬鹿にして「くっちさま」と呼んでいる。

 山に囲まれて隔絶された土地だ、狐憑きや神隠しも昔から少なくはないが、それにしても病死よりも多いとは、あまりに異常だろう。

 年貢の一部免除と隣村からの援助でなんとか冬を越せたというのに、これでは本末転倒だ。

 ただ、良いこともある。

 今年は天気がとても良い。

 稲の成長も早く、やっと豊作が期待できる。

 ありがたいことだ。




 村長の子が山に消え、本格的にくっちさまの対策を考えることとなった。

 我々は学がなくよくわからないが、村長が言うには物の怪を祀れば良いらしい。

 そういえば隣村の山神様は川に入る者の足を引くので祀られるようになり、それからめっぽう被害は減ったと聞く。

 名前は結局そのままくっちさまとなった。

 これもよくわからないのだが、名を当てる為に漢字を用意しなければならない、多くの子らを連れ去ったので「千」を「供える」で「供千様」という名にしたと聞いた。

 とはいえ、俺にはどの字も読み書きはできないが。

 村長がその名を掘った石を作ったので、俺は山の中腹にそれを置いてきた。

 村の子らには『山に子供らだけで入ってはならない』という言いつけがされた。

 童にそんな事を言っても聞かないと俺は思うのだが。




 それ見たことかと思ったが、俺の思った通りではないらしい。

 どの子も帰ってこれなくなることを知っているので自ら山には近づかないそうだ。

 だが月に一度、子供がたったひとりでふらふらと夜の山へ入って消えていく。

 それも、これで三月目になる。

 消えていく子らは例外なく、何日か前から「供千様に呼ばれている、こわいよお母ちゃん」と言うらしい。

 そしてどんなに太い支え棒で戸を固く締めても、見たこともない怪力で出ていってしまうそうだ。

 それだけじゃない。

 近頃ずっと日照りが続いている。

 冷害が無くなったことも併せて、皆供千様の力だと恐れている。

 つまり、供千様の力はまだ抑え込められていないということだ。

 あれだけの祀り方では足らなかったのだ。

 村長は村の大人、女までもを呼び集め、決め事をした。

 第一に、供千様を祀る社を建てること。

 第二に、何年かに一度子を殺し、幾度かに分けて供千様に捧げること。

 これはなるべく被害を減らすための苦肉の策といったところだろう。

 男はもちろん、女達はより強く反対したが、最後には皆泣きながら仕方ないと飲み込んでいた。

 社と供物の管理には、都落ちの者を一人置くこととなった。

 連中がなぜ怪物を見ることができるのかはわからない。

 都での怨呪が原因で物の怪を生み出したのだとしたら、迷惑な話だ。

 村長は「そうでなかった場合を考えると供千様が見えるものがいなくなるのは困る」と止めたが、連中を皆殺しにすれば供千様も消えるかもしれない。

 仕方がないが俺もしばらくは静かに従うことにしよう。

 もしも供千様の正体が知れて、連中が原因だとわかったら。

 その時は奴らの首を以て、必ず埋め合わせをさせてもらおう。


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