第22話
それからSと連絡がつくことは二度となかった。
供千様があの時何を見つけ、村に走ったのか。
それはきっとSだろう。
供千様はSをずっと覚えていたのだ。
舌なめずりして彼が返ってくるのを、その機会をじっと待っていたのだ。
そして機はやってきた。
供千様はもう放たれた。
誰にも止めることはできない。
僕はただ、被害があの村だけに留まることを祈るばかりだ。
ひとつ、気がついたことがある。
なぜ僕はU村を再び訪れようと思ったのかということだ。
僕はずっと、自分は供千様の正体を突き止めたい、自分なら突き止められるかもしれないと思っていたからだと、勘違いしていた。
だがよく考えれば、Kにわからなかったことが僕にわかるはずもないのだ。
ではなぜ再訪への意欲をかき立てられたのか。
その事実に気がついた時、僕は平静を保てなかった。
僕は供千様に呼ばれていたのだ、次の捧げ物として、もしくは次のKとして。
僕は今回の騒動の当事者になってしまった。
そしてはっきり言って、僕は全く不誠実だ。
これ以上の被害を出さないために、僕はK家を引き継ぐべきだったのだろう。
だが僕にだって信条はある。
自分の手で子供を殺すなんて冗談じゃない。
人生を化物のために使い果たすほど酔狂でもない。
正直、U村の村民、彼らは報いを受けるべきだとさえ思っている。
だがもしあの怪物、供千様がU村の外にまで触手を伸ばすというのなら。
僕は彼らが逃げ続けていた責任を果たすだろう。
その時はなんとしても食い止める。
それが僕の責任だと思う。
Kの死刑は異常なほど早期に執行された。
死刑の確定から執行されるまでの平均期間は約8年と言われている。
確定後2年で執行されたというのも、何かしらの影響があったのだとみられる。
村社会の力が強大であることはもう嫌になるほど思い知ったつもりでいたが、それは僕の浅はかな理解をゆうに超えていた。
これも僕の想像の範疇を出ないが、おそらくは警察、役所、ひいては代議士に至るまで、あの村の出身者は恐るべきならわしを他言することなく、もし表に出るような危険性があれはそれを隠蔽していたのだろう。
僕が手を突っ込んでしまったあのU村はまさにブラックボックスだったのだ。
今回の件について、僕が何かしらの形で公表するとすれば、供千様の影響がもう外部には及ばない、もしくは供千様が無力化・消失した後だろう。
それまでは絶対にこのことは他言できない。
この点では僕も彼らと同じなのかもしれない。
だが、子供を連れ去り、好んで食す化物。
そんなものが自らに迫っていると知ったら、人々はどんな行動を起こすかわかったものではない。
いや、何を言っているんだ僕は。
そんなもの、誰も信じるはずはないのだ。
子供の夢想でしかないと鼻で笑われるのが関の山。
どちらにせよ、しばらくは僕の中だけにとどめておこうと、一人寂しく誓った。