第20話
何度歩いても不気味な道だ。
以前に増して湿気があり、空気がベタついている。
しかし、物の怪の類が住み着いていてもおかしくないなどと冗談を飛ばす余裕はない。
Sも僕も、表には出さないがとても緊張し、今にも息が切れそうだった。
砂を蹴る靴音がコツコツと石畳を踏む音に変わる。
もうすぐ、U神社だ。
倒れていた鳥居は既に撤去されていた。
また村民の手が入ったのだろう。
とはいえ、本殿の木材が全て取り去られていることには驚いた。
これは文字通りまっさらだ。
まだ前回来たときから半月も経っていないというのに、いつの間にこんな作業をしたのだろう。
他所者が立ち入ったことがそんなに脅威だったのだろうか。
それもこれまでの行動を見ていればおかしくは思わないが。
ここが境内だと示しているのはもう敷き詰められた石畳だけだった。
Sは何も言わなかった。
境内の中心まで歩き、そこでしゃがみ込んだかと思うと彼は土を触っていた。
思い出すことがいくつもあるのだろう。
なにせ15年以上も溜め込んだ思いだ。
後悔や懐旧などといった言葉だけでは言い表せない感情。
僕が気軽に踏み込めるようなものじゃない。
じっと下を向いているSに背を向け、僕は山の方へ歩いた。
気がかりだったのは祠だ。
草木が伐採されているようには見えないから、問題ないだろうか。
僕はあの日と同じように木々をかき分け、祠の様子を確認しようとした。
だが、ああ、なんということだ。
そこにあの石祠はなかった。
石祠があったA4サイズほどの場所には、まるでそこには元から何もなかったとでも言うように、ただ土の地面だけがあった。
そしてその場所には、20cmないほどの、子供の靴が転がっていた。
これは。
ダラダラと嫌な汗が額を伝う。
おそらく、あの村民たちだろう。
写真を見せたのがまずかった。
祠や社の重要性を認知しているのは言い伝えを知っているK、そして僕だけだ。
そして僕らでさえ、なぜ守る必要があるのかをはっきりと理解しているわけではない。
もちろん彼らにとっては知りもしないことだ。
ならばまず考えるのは、子殺しを隠蔽すること。
手がかりになる石祠が残っていると知れば早急に破壊するのは当然だ。
これでめでたく僕もこの事件の当事者となったわけだ。
僕は本能からの緊急退避命令を無視しながら全力で思考を巡らせる。
さっきから冷や汗と鳥肌、動悸が止まらない。
Kは言っていた。
供千様は祠より里側に出ることは決してなかったと。
そして操られるかのように歩いてくる子どもたち。
仮説だが、祠は結界のような役目を担っていたのではないだろうか。
供千様を山に閉じ込める障壁、線引き。
では、祠が無くなった今、供千様の行動範囲は。
その時、僕は後ろから声を聞いた。
それはひどくしわがれていて低く、扉がきしむような声。
獣の唸り声にも似ていて、しかし人の声のようでもある。
「くっち。」