第19話
Kは話し終えると、再びうつむいて何も話さなかった。
僕はコートを手に取り、立ち上がって聞いた。
「最後にひとつだけ。
Sという名字の兄弟を覚えていらっしゃいますか。
約15年前、あなたは彼らに会っているはずです。
兄は私の友人で、彼からU村のことを聞きました。
彼の弟について、あなたは隠していることがありますか。」
Kはうつむいたまま、それでいて力強い声で答えた。
「私が、Eちゃんと同じように殺しました。
そして、供千様に捧げました。
あの子にも申し訳ないことをしたと思っています。」
僕はF拘置所をあとにしてすぐにSへ電話をかけた。
Sは3秒も待たないうちに電話を取った。
「今、Kに会ってきた。
S、あのな。
やっぱり君の弟は、Kの犯行だった。」
「まあ、うん。
そうだよな。
事件のことを知ったときからそうだと思ってたよ。
はっきりしてよかった。
うん、よかった。」
Sに弟のことを伝えることは、正直かなりつらかった。
供千様についてはどう伝えたら良いのかわからず、何も話すことはできなかった。
しばらく沈黙の時間が流れる。
ひどく長く感じる。
何を言ったら良いんだろう。
何を言っても間違えそうな気がして、怖い。
「ありがとな。」
沈黙を破ったのはSだった。
「あのさ。
もう一回、あの神社へ行きたい。
弟のこと、よく思い出したいんだ。」
実のところ、僕だけでも再びU神社を訪れる気でいた。
僕は自分の目で真相を確認しなければならない。
Kから伝えられた情報があれば供千様の正体もなにか掴めるかもしれない。
そしてなぜか、「またあそこへ行きたい」と心の奥で感じていた。
だがこのことに気がついたのは自宅へ帰った後だった。
その週の土曜、僕はSとともにU村を再び訪れた。
今度は事前にSが村内会へ訪問を伝えていてくれたため、ある程度の歓迎をもって村に迎え入れられた。
かと言ってなにかもてなしがあった訳では無いが、門はしっかりと開かれていた。
Sは気丈に振る舞っていた。
無理をしているのか、もしくは既に彼の中で折り合いがついているのかもしれない。
それなら良いのだが。
それにしてもやはり、田舎の連携の力強さには目を見張る物がある。
もう随分前にS家の人間は皆U村を出たというのに、Sは名乗っただけで話がすんなりと通ったそうだ。
おそらく村内会のメンバーにS家を知っている者が複数存在しているのだろう。
高齢化、そして村社会。
その影響をこんなところで感じるとは思いもよらなかった。