第18話
「お話していただけますか。」
僕はK氏にそう問いかけた。
彼はしばらく黙ったままうつむいていて、それから、ぽつりぽつりと話し始めた。
「いくつか、あなたにお伝えすべきことがあります。
その石碑に彫られた文字。
そして、その絵。
それは『くっちさま』です。
供千様はあの神社で祀られている怪物です。
正体はわかりません。
ただ、子供にだけ供千様は見ることができます。
大人には供千様が見えません。
ただし、例外があります。
私の、K家の血筋の者。
その長男だけが大人になっても供千様を見ることができます。
私は長男として、U神社の神主という家督を継ぎました。
我が家の言い伝えはこうです。
『童の肉を供千様に与えよ。
さすれば災いは来ぬ。
社と祠を守るべし。』
私はこれを16歳になった夜、父に告げられました。
初めは驚きました。
父は家族の誰も立ち入らない部屋に小さな冷凍庫を設置して、その中に遺体を保管していました。
死体が自宅にあって、それは父が殺した子供のものだなんて、ショックでした。
私が捧げ物を調達するときはいつも夜中に民家に赴き、大人たちに『番が来ました。』とだけ伝えました。
供千様の存在は村民なら皆知っていますから、仕方のないことだと誰しもが諦めました。
そうして寝ている子供を連れ去り、境内で殺して解体していました。
一度だけ、私は言い伝えを破りました。
子供を供千様に与えることをやめたのです。
程なくして、供千様はあの大きな手を祠の向こう側から突き出し、何度も『くっち』とつぶやきました。
『くっち』と言うのはあの辺りの方言で、「くれ」という意味です。
供千様が祠よりも里側に出てくることはこれまでなかったので、何か異常なことが起こっているとわかりました。
数十分もせずに、村の子供達が山道を登ってくるのが見えました。
皆生気を失っていて、操られるかのようにふらふらと歩いていました。
供千様はそれを見ると、ケタケタと笑い出し、大きな声で『くっち、くっち!』と叫び始めました。
私は恐ろしくなって、残っていた子供の指を供千様に渡しました。
供千様は不満そうな顔をしてそれを食べると山の方へ戻っていきました。
すぐに子どもたちは正気を取り戻し、ハッとして山を駆け下りました。
村の子供達は『山に入ってはいけない』と厳しく教えられているからです。
私は明くる日から、再び捧げ物を始めました。
私がやっていたことは紛れもなく殺人です。
ですから死刑判決にも納得しています、当然のことです。
それに、あれは私の使命でした。
K家に生まれたからにはやらねばならないことだったのです。
社は既に取り壊されたと聞きました。
祠が無事ならしばらくは大丈夫だと思います。
役目を全うできず、子どもたちには申し訳ないです。」