第17話
言われるがまま、いや元来そうするつもりだったのだが、僕はすぐに村から離れた。
彼らは律儀なことに、僕の車が通るとすぐさま鉄門を閉じた。
バックミラーには番人のようにあの男が門の前に立っているのが見えた。
車がカーブに差し掛かるまで、ずっとだ。
おそらくもう十数分はああしているつもりだろう。
何も調べることはない?
何も知らない?
よく言うものだ。
彼らが不自然だったことは誰の目から見ても明らかだろう。
間違いない。
U神社を中心とした何か、深い闇があの村にはある。
不審な行方不明の原因、U神社の取り壊し、そして「供千様」。
僕は着々とその真相に近づいている。
ハンドルを握る汗ばむ手に力が入った。
K氏との面会日はすぐに訪れた。
U村についてもっと深く調べたかったが、急な仕事が入ってしまい先週は忙しなかった。
裁判でのK氏の発言記録は一通り読んだ。
「供千様」という言葉や類似した絵も探した。
しかしどちらも、目新しい情報を得ることはできなかった。
K氏はF拘置所に収容されていた。
裁判で死刑が確定すると、死刑囚は絞首による死刑執行施設のある拘置所に収容される。
北は札幌から南は福岡まで、大都市に1つずつといった印象だ。
飛行機を使わずに済んだことにはほっと胸をなでおろした。
取材・調査の費用というのは馬鹿にならない。
金も時間もかなり持っていかれるが、良いものを書くためには必要経費だ。
面会にスマホを持ち込めないことも事前に調べていたため、写真は印刷した。
長い廊下の椅子に座り、名前を呼ばれるのを待つ。
大きな留置所だというのに僕の他に面会人はほとんどいない。
なんというか、心寂しくなるものがある。
予想通り、すぐに面会の時間は訪れた。
アクリル板の向こうに座る男は、やはりどう見ても人を殺すようには見えない。
優しそうなおじさん、というのが率直な感想だ。
ゆったりとした笑みを浮かべている。
「急にお手紙を送ってしまいすみません。
私、福島共同新聞のNと申します。
本日はU村での事件についてお聞かせいただければと思います。」
K氏は相変わらず笑みを浮かべたまま頷いた。
「裁判での発言記録を閲覧させていただきました。
その繰り返しになるのですが、今一度お聞かせください。
あなたがEちゃんを殺害し、遺体を解体して保管していた。
間違いないですか。」
「はい、間違いないです。」
「では、なぜあなたはEちゃんを殺害したのですか。」
「殺すべきだと思ったからです。」
「なぜあなたは遺体を解体し、保管していたのですか。」
「そうすべきだと思ったからです。」
一切表情を変えず、淡々と優しい口調でK氏は答えた。
この、穏やかな笑顔のままで。
「そうですか。
何度もなされたであろう問答を繰り返してしまい申し訳ありませんでした。
…ところで、この石祠をご存知ですね。」
僕は両手で3枚の写真をアクリルガラスに貼り付けた。
石祠、石碑、そしてあの不気味な絵。
K氏の口角がゆっくりと、氷が溶けるように下がった。
もうあの優しい表情はなかった。
その代わりに、怒りに似た感情を含んだ、悲しげな表情がそこにはあった。