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供千様  作者: 鍋島後尺
本章
17/24

第16話

 ひとまず、僕はこの石祠と石碑、そして墨で書かれた化物の絵を写真に収めた。

 もう十分だ、これ以上探しても見つかるものはないだろう。

 早く山を降りてしまいたい。

 ここに留まると気分が悪くなってきそうだ。


 参道を車へ戻る途中、僕は何度も後ろを振り返った。

 こんな馬鹿馬鹿しいことは言いたくないが、何かが後ろをついてきているような気がしてならなかったのだ。

 当然振り向いても誰も、何もいやしない。

 気にするだけ無駄だとはわかっている。

 そう思いまた数歩歩き、そしてまた振り返る。

 まったく、不快だ。


 しかしそんな気配は石畳を抜けるとすぐに無くなった。

 一体何だったのだろう、不気味で気色が悪い。

 今度は全く振り返ることなく、僕は逸る気持ちを押さえてゆっくりと山道を降りた。


 以前から気にかかっていたことだが、何故往路と復路ではこうも体感時間が違うのだろう。

 知らない道と知っている道、ということなら理由はなんとなく察しが付く。

 今日のような場合だ。

 しかし通り慣れた道でも行きと帰りでは帰りのほうが随分短く感じる。

 不思議なことだ。


 不安はあったが、実に面倒なことになった。

 僕の車の周りを数人の村民が取り囲んでいる。

 そして車を見つめ、ヒソヒソとなにか話をしているのだ。

 厄介だ、早く帰りたいというのに。


 僕が山道から姿を表すと、彼らは一斉に僕に注目した。

 かと思うと、小太りの中年男性が僕の方に近寄って来た。


 「おめ、他所者だべ。」


 聞き取れる範囲の方言で助かった。

 もう少し北の地域だとしたらこうは聞き取れないだろう。


 「ええ、福島共同新聞のものです。

 U神社の事件を調べていまして。」


 嘘だ。

 新聞社に勤めた覚えはないし、福島共同新聞も存在しない。

 作家だと言うと面倒事が起きる場合は多い。

 なので僕はある程度社会的に信頼のある新聞記者を名乗ることにしている。

 不誠実なのかもしれないが、トラブルを避けるには仕方のないことだ。


 「あの事件はどっくに片がついでるんだ。

 もうなんも調べるものなんてねぇ。」

 「ええ、その通りです。

 今日は死刑判決全般についての調査でして、記事に載せるU神社の写真を取りに来たんですが、取り壊されているんですね。

 それで、ひとつお伺いしたいのですが、上にこんな祠を見つけまして。

 これ、「供物」に「千」で「供千様」。

 僕には検討もつかなくて、なにかご存知ですか。」


 僕がそう聞くと、男性の表情が一瞬ぎょっとしたように見えた。

 しかしすぐに男性は平静を取り戻し、僕に、と言うより周囲に向けてこう言い放った。


 「いや、おらだぢはなんも知らねぇな。

 ほだな、みんな!」

 「んだ、んだ!」


 数人とはいえ、突然声を合わせて返答されると圧がある。

 まるで何度も練習したかのような、そんな声の揃い方だった。


 「そんだがらもういかんべ。

 はやぐ帰ってぐれ。」


 そう言うと男性は僕をキッと睨みつけた。

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