第10話
「次の日から俺と弟は朝早く起きて、飯を食ったらすぐに外へ遊びにいった。
物置にボールとグローブがあることは聞いてたから、夜のうちにキャッチボールをしようって弟と約束してたんだ。
外に出てすぐに物置を見に行ったよ。
物置にはおもちゃがいっぱい入ってた。
ラジコンだろ、虫取り網、それに小さなトランポリンまで。
圧巻だったね。
…今思えば子供がいない集落の子供がいない家だ。
あんなにおもちゃが置いてあるのは不自然なんだけどな。
でも子供じゃそんなこと思いやしない、ただ嬉しいだけだ。
それで俺と弟はすっかり夢中になって、もう全部に手を出したよ。
ラジコンなんてどうせすぐ壊すからって親父は買ってくれなかったから、めちゃくちゃ楽しくてさ。
広い庭を使ってどこまでも走らせたよ。
キャッチボールもした。
7歳の弟にはまだちょっと難しかったんだろうな。
何度も庭の端までボールを取りに走った。
たまたま、たまたまなんだよ。
そのボールが転がっていったところに山道の入口があったんだ。
それで、やっぱり気になったんだ。
山の中は何があるんだろうってな。
虫取り網もちょうど2本あって、二人で虫捕りにいこうって俺は弟に言ったんだ。
弟はお父さんに止められたからだめだって言った。
でも俺が先に行ったらあとをついてくるってわかってたから、俺は聞かずに山の中へ入ったんだ。
案の定弟は半べそかきながら追いかけてきた。
俺はトノサマバッタを見つけて、飛んでいった方へ駆けていったんだ。
山道は程なくして石畳になった。
急に変わるもんだからびっくりしたよ。
バッタはどこか茂みへ入ってわかんなくなっちまった。
でも俺は見つけたんだ、あの神社を。
なんていうんだろうな、山の中に不自然に平地があって、その入口に鳥居が立ってたんだ。
神社があるなんて知らなかったから少し怖かった。
でも境内に若いお兄ちゃんが立ってて、箒でそこらを掃除してたんだ。
そのお兄ちゃんは俺らを見つけると笑顔で近づいてきた。
『どうしたの、迷っちゃったのかな』ってな。
俺は虫取りに来たんだって正直に言った。
そしたら『汗だくだ。少し休んでいくと良い。』って言われてな、社の中に迎えられたよ。
社の中で俺と弟はアイスキャンディーをもらって、それで随分気を良くした。
その兄ちゃんは自分はここの神主だと名乗って、『夏休みの間はここにおいで、またアイスをあげるよ』って言った。
そうして休んでるといつの間にか日が暮れ始めてて、親が探したら山に入ったのがバレると思ってそのまま山を降りたんだ。
弟には、山に入ったことは絶対言うなよって釘を差した。
それからというもの、俺らは毎日その神社に行ってはアイスをもらったよ。
いろんな遊びを教えてもらって、一緒に遊んだ。
その頃にはもう神主にずいぶん懐いてたな。」