砂漠のギルド
店を出たあと直ぐ、ガルムは傭兵ギルドに向かった。
――傭兵ギルド。
傭兵たちが集うギルド。依頼は基本、ここで請け負う。大体が魔物の討伐などや王国内のいざこざに関する仕事だ。
そして稀に、国家からの依頼が入ってくることがある。例えば、内乱の鎮圧、国家間の戦争。そして年に一度ある、ドラゴンフィーバーなど。
そんな依頼を受けに、傭兵たちはここまで足を運ぶ。ガルムもまた、そのうちの一人であった。
ギルドの入り口に到着すると、多くの傭兵が周辺付近に屯している。皆、戦いを生業とする同業者だけあって、仲がよく、喧嘩っ早い。
中にはそういった事柄が嫌いなやつも居るがそういうやつは、直ぐに死ぬ。
周りを一瞥した後、ガルムは中へ入った。
中に入ると、外よりも賑やかであり落ち着く。依頼の確認のため、ガルムは掲示板に行先を決めた。
「よぉ、ガルム。元気かぁ?」
ガルムの肩に、重い衝撃が伸し掛かる。
「なんだフィオーネ。酒臭い」
鮮やかな海色のボブを決め込み、右目に眼帯をつけるこの女。彼女の名前はフィオーネ。
この「ギルドの看板娘」だ。と、自負しているかなり痛い奴。
「あたしと飲もうぜぇ?偶にはいいだろぉ?」
「また振られたのか?」
ガルムのドストライクな質問に、フィオーネはサラッと答える。
「そうなんだよぉ……あの野郎、もう付き合いきれないって……」
「そりゃ、会う度に潰れるまで飲みに付き合わされて、その後もお前の好き勝手にやられるってのは付き合いきれないさ」
「そう言うなよぉ……」
フィオーネは、ガルムの肩から腕を外さないまま麦酒片手にそれを飲み干す。
深いため息をした後、さらにガルムを引き寄せた。
「なぁ、お願いだよぉ……」
おいおいと泣き、肩を揺さぶるフィオーネを見兼ねたガルムはほぅとため息をつき、「仕事から戻ったら飲んでやる」とだけ伝えて引き剥がした。
「約束だぞぉ!絶対だからなぁ!」
叫ぶフィオーネを背に、ギルドの扉から出る。
タルワールの柄頭に手を置き、角を曲がったところでガルムは足を止めた。
「あ、なんも依頼受けてねぇ」
「………………」
ふむ、と顎を触りながら掲示板を見つめるガルム。目線の先にあるのは、とある護衛についての依頼であった。
護衛依頼は主に、出発から目的地まで人を送り届けるまでの過程のことを指す。商人、どこかの高官。偶に国のお偉方。
危険な場所を往来する護衛依頼ほど、対価も高くなる。そのため、普通ならば競争が激しい。
しかし、ここは商業の栄える国として有名だ。商人が毎日のように行来するため護衛依頼というものはそう珍しくもない。
どちらかといえば、数が足りないくらいもある。
「豪商の依頼か…………」
豪商の依頼料は馬鹿高い。普通に生きていくだけなら半年は遊んで暮らせる。ガルムは直ぐにでも手を出したい依頼だ。
だがなにせ、ガルムには相棒がいない。
護衛依頼は必ず、相棒でなければならない。
理由は単純。前と後ろを守るという二つの役が必要だから。
しかし、相棒であったイシュメアはつい五日前に死んでしまった。
「あれからもう五日か……」
時間の流れとは早いものだな、とガルムは頭をかじる。
「相棒……また作らなきゃな……」
だが、相棒が居なくなったからとて次の相棒はそう簡単に作ることはできない。
傭兵の殆どが、すでに相棒を組んでいるからだ。
フィオーネは、古くからの友人であるラドと組んでいる。頼めば、短期間であるなら了承はしてくれるだろうが、それではラドの方に申し訳がたたない。
ガルムはギルドの中をざっと見てみるが、暇そうなやつは居ないと見受けられる。
――さて、どうしたものか……。
取り敢えず相棒ができたときのため、依頼の紙は持っていくことにした。傭兵の間ではこれを「予約」と呼んでいる。
「しゃあないから、今は別の依頼でも受けるとするか」
ガルムはそうして、スコーピオンの討伐依頼を手に取った。