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砂漠の相棒  作者: ずここ
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砂漠の相剣

ガルムは大地を蹴って、砂を撒き散らしながら走る。


ガルムのコラの持ち方、構え方。そして、相手に接近する際の姿勢から、「ガルムは剣の扱いに慣れていない」と、結論付けたのであろう。

相手はその場から動かず、受けの体制を取った。


この時点で勝利は、完全にガルムの方へ傾いた。


ガルムは直線的に進んでいたのを途中で切り、低い姿勢を取ると、そのまま右に螺旋を描いて刀身を打ち込んだ。


相手は腕当て用いて攻撃を受け流そうと、両腕を折り斜めに構える。

だが、相手は構えたあとに後悔をした。


「あぁ、もうい」と。


相手の予想通り、螺旋の遠心力によって得た斬撃から放たれる一撃は、まさに達人の一振りと同等、もしくはそれ以上。

コラの達人は、熊をも両断する。熊に比べて、人間などさほど硬いものではない。


人間なんかの骨では、武器を刃毀れさせることすらできない。


ガルムは、対戦相手の両腕を叩き落した。

その瞬間、会場が再び沸く。


激しい血飛沫が上がる中、相手の断末魔は歓声のせいで何も聞こえない。

相手は膝を折って灼けた砂に突っ伏し、しばらく動かなかった。


それとともに試合終了のゴングが会場に鳴り響き、会場に、更に大きな歓声が広がる。

そして、毎度、毎試合定番である、親指を下に突きつける「キルサイン」。


「殺せ」と、いうのなら親指を下に。「生かせ」というのなら、親指を上に。対戦相手の生死を決めるのは勝者でなく、あくまで観客。

どこの闘技場へ行っても、これだけは変わらない。

そしてガルムが見渡す限り、親指を下に突きつける者が大半を締めている。


ガルムは手に持つコラを、上に突き上げた。


これは対戦者が、相手を生かすかどうかを決める際に行う、謂わば礼儀というもの。

このとき、生かす場合なら武器を地に起いて戦意がないことを伝え、殺すなら、武器を上に突き立て、斬首を意味するぽーじんくを取る。


ガルムは、対戦者を殺す。そう決めた。


武器を上げたまま、相手にゆっくりと近付き、到着。相手を起こし、膝をつかせ立たせると、


「汝の魂、浄化されんこと、ここに祈る」


斬首を行う際の礼儀を添え、思い切り振り下ろす。


歓声のせいでまるで聞こえなかったが、相手が死ぬ際に「助けて」と言っていたのを、ガルムのみが知っていた。







「ほれ、銀貨十二枚、金貨三枚をそれぞれ四倍して、金貨十二枚に銀貨四十八枚だ。受け取れ」


試合を始める前に渡した袋の五倍はある、貨幣の詰まった袋を渡される。


「そのコラは置いていけ」


受付員がその言葉を放つと、ガルムは顔をしかめて言う。


「なら先に、俺のタルワールを返してもらおうか」

「タルワール?」

「そうだ」


闘技場では基本、飛び入りは武器を半ば強制的に預けさせられる。それを闘技場は、試合中に武器屋などに売り飛ばす。

飛び入りの殆どはその試合で死ぬため、飛び入りの武器は闘技場にとっても良い収入資源となっているのだ。


だが、ごく偶に、ガルムのような運の良い輩が現れ、自分の武器を返せと言ってくる。

しかし、ここにはもう無いため、闘技場はどうしようもない。


「残念だが、もう売り飛ばしちまった。もうここには無いよ」

「どこに売った?」


ガルムの語尾が少し強くなる。


「だ、か、ら。もうここにはない。自分で探したらどうだ?お前さんは「犬」なんだろう?」


煽りを含みながら、受付員はガルムにとっとと消えろと伝える。


「犬」とは、傭兵であるガルムにつけられた異名のことだ。

ガルムは「砂漠の忠犬」と呼ばれ、傭兵界隈では恐れられている。まぁそれも、相棒であるイシュメアがいた頃の話だが。


煽りには乗らないが、ガルムは別の意味で腹を立て、受付員に詰め寄ると、コラを抜き取り受付員の喉に突きつけた。


「殺すぞ」


ガルムの声は低く、おぞましい。


「だから、俺は何も教えない。何も言わな―――――」


受付員の言葉を遮るようにして、喉を掻き切った。

傷口から、噴水のように溢れ出る出血。


それをガルムは顔面に浴び、真っ赤に染めた。

コラについた血を振り払い、昨日盗賊たちから剝いだ外套で拭う。拭った後、コラを鞘に戻して、ガルムは闘技場の外へ出た。


昼下りということもあり、街は多くの人で賑わっている。とにかく、ガルムは胸の傷を癒やすため、道具屋を目指す。


ちなみに今、ガルムが向かっている道具屋は私の店だ。

私は、便利な道具を安価で売っている。


「うっ……!」


道の脇で、ガルムは胸を押さえてうずくまった。店はもう、目の前だ。

ガルムはすぐに立ち上がり、壁を伝いながら店の扉に手を掛ける。

扉が開くと同時に、カランと音を立てて来客の鈴が鳴る。これが、ここでの私とガルムの出会いだ。


ガルムの前に立つ、外套に身を包む宝石のような長い銀色の髪を持っている、このいかにもセクシーで大人っぽいのが私だ。


「いらっしゃい。“べグリーン商店”にようこそ……て、血塗れじゃないか。傷薬あたりをご所望かな?」


私は目の前の苦しそうな男に、なるべく明るいように声をかける。


「切り傷によく効く薬をくれ。剣でやられた」

「斬撃なら………………これとかオススメかな」


そう言って私は、商品棚に「ハマオ」と記されたところに手を伸ばし、透き通った青の液体が中にある瓶を取る。


「この薬、これなら市販の傷薬、特効薬。まぁ、手を出せないだろうけど回復薬ポーションよりかはいい効果が出るだろう」

「いくらだ?」

「そうだねぇ……まだ、試したりしてないし、副作用があるのかもわからないから銀貨三枚でいいよ」

「銀貨三枚…………」


ガルムは怪訝な顔で貨幣の詰まる袋から、銀貨を三枚取り出し、台の上にポンと置く。置いた後、奪い去るように私の手から薬を受け取ると、その場で飲んで見せる。

ガルムの顔から察するに、傷はどうやら癒えたようだ。


傷は癒えた。しかし、ガルムは糸が切れたようにその場に崩れ落ち、眠ってしまった。

よく見るとガルムはぐっすり眠っている。


どうやら、即効性の「眠り」状態異常がこの薬の副作用らしい。

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