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砂漠の相棒  作者: ずここ
2/11

砂漠の闘技場

今宵は普段より寒く、凍える。


ガルムは赤い鮮血の滴るタルワールを大地に下ろし向け、全身もまた、生暖かい血で染めていた。この温もりは今晩の寒さに丁度良く、少し気分が良いらしい。


ガルムは月を見上げて笑っていた。


「安心しろ、俺の剣はよく切れる。だったか……?」


掠れた声で、ガルムは言葉を漏らす。


「本当に……そうだな……。この剣は……よく切れるよ……」


ガルムは視線を落とし、傍らに倒れる男たちを見る。そのまま何も言わず男たちに近寄り、何かを漁り始めた。


「使えそうなもの……」


まず、一番近くにいた男の纏う外套で刀身につく汚れを拭い取る。

次に、男たちの懐を見て回り、金品を頂く。

そして最後に、比較的きれいな外套を二枚引っ剥がし、片方は自分用に、もう片方は新しい相棒の鞘代わりに。


ある程度の身支度を整え、ここから一番近くの街を目指して進み始めた。





 ―――――三日後


オアシスと言うにはあまりにも汚く、薄汚れた場所の太陽の下、外套の上からでも分かるほど鍛え上げられた肉体を持つ男が居る。

ガルムだ。


血が乾いたような色の、脂じみた長い髪を額当てでたくし上げ、凛々しい焦げ茶の瞳を周囲に巡らせている。


ガルムは今、「ベルーシャン」という街に居る。


この街は、特に治安が悪いことで有名だ。路上での喧嘩は当たり前、至るところに血の跡が、死人が出てもお構いなしのなんでもありな街だ。


「久しぶりに来るな……」


ガルムは昔の記憶を遡りながら、目の前にある巨大建築物を見上げた。


砂色の円柱所のその建物は、小さい村一つ分くらいの大きさあり、中央に行くに連れてくぼんでいく。

そこからは絶えず歓声が湧き上がり、絶えず剣戟の調べを奏でている。


ここは、いわゆる「闘技場」と呼ばれる場所だ。


今ガルムがいる場所は、裏口。入り口とは別の、参戦者が使う道。そこへガルムは足を進める。

闘技場内へ入ると、血生臭い、鼻がもげそうな臭いが来場者を出迎える。


闘技で負った傷に関して闘技場側は何もせず、各々が自分で手当を行わなければならない。そのため、傷口から溢れる血が、常に、大量に散乱する。


「俺に、この袋にあるだけを賭ける」


血で湿った砂岩でできた道の奥にある受付へ着くなり、台の上にガルムは懐にある全財産の籠もった袋を雑に置く。


受付員はそれを黙って受け取り、中身を確認。袋から銅貨と黄銅貨を数枚取り出すと、袋の口を閉じ、「何倍だ?」と、一言。

ガルムはしばらく黙り、「二、いや、四だ」と返答する。


「全てと言ったが、端数は切らせてもらう。額が額だからな」


受付員が言った。


「それで構わない」


端的に、ガルムは答えた。


「飛び入り、だな?」

「そうだ」


受付員の言う「飛び入り」とは、闘技場に置ける挑戦者を区別するための言葉だ。

本来、闘技場に参加するためには、事前に闘技場に伝え、試合を行う地形や相手などの情報を金を出して得、様々な試合の行い方を思案してから出席するものである。


だが、闘技場にはたまに、あまりの金欲しさに目が眩み、当日、あるいは前日になって急に試合の参加を申すものが出てくる。このような輩を、闘技場では「飛び入り」という。

もちろん、そういった輩にはいくら金を出されたとて、情報開示はしない。


理由はなぜか。それは至ってシンプル。

闘技場側が損するからだ。


事前に受付も済ませ、決して安くはない情報料を支払って試合に臨むというのに、急に現れた飛び入りに情報を開示し、負けるというのなら、参加者はたまったものではない。


もし仮に、闘技場側が情報を開示すればどうなるか。たちまち参加者は消え、やがて闘技場は潰れるだろう。それでは実に困る。

だから、飛び入りに、情報は見せない。


「お前さん、得意武器は?」

「斧」


受付員は、回答を受けるとすぐに立ち上がり、奥から一本の鉄製の斧を持ってくる。


「鉄製のバトルアクス……相変わらずけちぃな」


台の上置かれた、傷が多く目立つ、片側に弧型の刃がついた長い柄を掴見ながらそれを言う。


「飛び入りが文句を言うな」


飛び入りは情報無しの他に、もう一つ、不利な状況を与えられる。それが、この斧だ。


参加者は相手に合わせて自分で武器を選び、調整を行う。

しかし、飛び入りはというと、そのあたりでさらに区別をつけるため、どこにでも売っていそうで、一番安そうな武器を与えられ、試合に出される。


まぁ、救いがあるとすれば、自分に合った武器種は一応使わせてくれることだろうか。


「あと、どれくらいで試合は始まる?」


ガルムは急かすように、受付員に問う。


「お前さんは昼からだ。あと、一時間といったところか」


受付員は、ガルムと目を合わせずに回答を行った。


「そうか。分かった」


一つ礼をし、ガルムは試合参加のため、参加者が集う待合室に向かった。

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