砂漠の仕事
――スコーピオン。
ラドラル大陸北部に位置する、世界最大の砂漠「ザバ砂漠」に生息している非常に獰猛な生物。
両腕に巨大なハサミ、尻尾に毒針を持っている。ハサミは人の骨を用意に砕き、毒は処置をしなければ三日以内に死ぬ。
しかし、この地においてそんな生物底辺でしかない。
それもそのはず。この地域には、竜がいるから。
この大陸には、古より伝わる巨大迷宮「メル」が存在し、そこには数多くの竜が凄んでいる。
その竜に比べれば、スコーピオンなど下の下の下。生き物としての強さが、ここはインフレ化している。
砂漠を歩いていると、一つの。いや、幾つかが固まってできた大きな黒い影が蠢いているのが見える。
おそらく、スコーピオンだろう。
ガルムはタルワールを抜き、近寄る。
「…………?」
近寄っていくと、影がハッキリと見えてくきた。たしかに、それはスコーピオンであったが、その下にはスコーピオンではない何かがいる。
「なんだ、人間か」
スコーピオンが群がっていたのは、人の形を成していた。もう、こうなっては生きてはいないだろう。
――己の強さを自負するからこうなるのだ。
と、ガルムは人を一瞥した後、タルワールでスコーピオンを端から貫いていく。
数匹襲ってきはしたが、幾つもの戦地を駆けてきた傭兵にとっては造作もない。来る順に急所を突いてやった。
「さて、あとは帰るだけか」
討伐の証として、スコーピオンの尻尾をもぎ取ってから、村の方に足を向けた。
空はまだ青い。これなら、夕方までには村に戻れるだろう。
「こちら、スコーピオン十一匹分の金銭となります」
盆の上に、銀貨が三枚に銅貨が五枚。
ガルムはそれを掴むと銭袋に投げ入れた。これで、二日は生活できる。
「ガルムー……待ってたぞぉ……」
フィオーネとの約束を果たすため、ガルムはカウンター席に向かった。
そこには、机に突っ伏しながらこちらを見つめてくる酔っぱらいがいる。ガルムは静かに隣へ座った。
「こっちにも麦酒を頼む」
「承知いたしました」
マスターに注文を頼み、ガルムは頬杖をついた。
「で?今日はどんな愚痴を聞けばいい」
「……あいつぅ、くそぉ……」
「そうか。お前もその癖辞めろ?」
「お待たせいたしました」
カウンターの下で、フィオーネは握り拳をガルムの脇腹に伸ばしている。ガルムはそれを言葉のみで制止し、マスターから受け取った酒に口をつける。
「苦いな」
「なんだよぉ、私のこと言ってんのか?ぶっ飛ばすぞぉ……」
「黙れ酔っぱらい。麦酒について言ってんだよ」
もう一回、ガルムは酒を口に含んだ。
「うぇ……い……」
それを最後に、フィオーネはぐっすりと寝てしまった。