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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第4章:ジャーニーズエンド

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ルキフグス・シェリダー

※残酷描写あり



「アレが魔獣族の国の砦かぁ……」


 邪魔者がいなくなったから全員に消失(バニッシュ)をかけて進むこと四日。何の障害も妨害も無いまま、ついに僕らは魔獣族の国境の砦に辿り着いた。

 外観としてはあんまり聖人族側の砦と変わらない感じだけど、侵入を防ぐためなのか色々と砦の壁に仕掛けてあるっぽい。登れないようにか若干壁に角度がついてるし、そこかしこに有刺鉄線とか走ってるし。砦の上と砦の外にもたくさん歩哨がいるし……ここは軍事施設か何か?


「こちらの国の砦よりも警戒が厳重に見えるのは、やはり勇者が攻めてくるのを警戒しているのだろうね。すでに勇者が召喚されたことは、魔獣族側も掴んでいておかしくない」


 そう口にするのは、何だかんだでここまでついてきてくれたレーン。とんぼ返りで首都まで戻らないといけない上、心が壊れたハニエルの介護もしないといけないのに、魔獣族の砦の前まで一緒に来てくれたんだから感謝しかないよ。コイツ優しすぎでは?


「……では、私はここまでかな。武運を祈るよ、クルス」

「待って、まだ行かないで。もう少し一緒にいよ? お前がいなくなると寂しいの」


 だから僕は背を向けて歩き出そうとしたレーンに縋りついて、必死に引き留めた。最後の最後まで一緒にいたいから、まだ行かないでぇ!


「はあっ……仕方ない、乗りかかった船だ。もう少しだけ付き合おう」

「よっしゃ! レーン、愛してる!」

「愛の言葉はいらないから、早くウロボロスを私が使えるようにしてくれ……」


 やっぱり寛大で優しいレーンは、深いため息をつきながらも頷いてくれた。

 ちなみにウロボロスっていうのは、僕がレーンにあげた杖のことね。正式名称は魔杖ウロボロスで、名付けはレーンさん。随分と中二臭いネーミングだと思ったけど、二匹の蛇が螺旋を描いてるんだから的確って言えば的確だね。

 で、使えるようにしてくれって言うのは……何故かレーンはウロボロスから魔力を引き出せなかったんだよね。使って感想を教えてくれって言ったのに、最初の一歩でこけた感じ。これにはレーンもかなりご機嫌斜めになってたよ。魅力的な研究対象が目の前にあるのに、触れる事すらできないようなものだから仕方ないよね。

 レーンは今もウロボロスを手にしてあの手この手で使おうと頑張ってるのに、やっぱり魔力は引き出せないみたい。僕も理由は分からないから、レーンに何とか謎を解いてもらおう。考えるの面倒くさいし。


「さて! それじゃあ予定通り、ここでひと暴れしたいと思います。魔将とやらも見ておきたいしね」


 そんなわけで、予定通りに行動することにしたよ。温泉に浸かりながら皆と話し合って決めた予定通りにね。

 僕は国境越えで力及ばず戦死したってことにするのは変わりないんだけど、そのためにも派手な戦いがあると説得力があるからね。というわけで今からちょっと砦をつついてみようと思います。魔将とタイマンして勇者が戦死したってのは、力を手に入れて増長した勇者に良くありそうな末路だし。


「了解した。勇者としての最後の仕事、精々頑張ってくれたまえ」

「あたしも見学させてもらうぜ。頑張れよ、クルス」

「頑張れー、ご主人様ー!」

「……死ね」


 僕に声援を送って、レーンたちはこの場から離れて行った。何か一部罵倒が聞こえた気がするけど、気にしないようにしよう。

 皆を下がらせるのは、たまには僕一人で色々したいから。何か僕の活躍の機会がレーンとかキラに奪われちゃってる気がするんだよね。気のせいかな?

 何にせよ僕もたまには身体を動かしたいし、今回は久しぶりに羽目を外そう。えっ、いつも羽目を外してたって? そんな馬鹿なことあるわけないだろ。

 

「――っ!? おい、見ろっ! 人間だ!」

「敵襲ううぅぅぅぅっ! 敵襲うううぅぅぅぅっ!」


 というわけで僕は消失(バニッシュ)を解除して、短剣を両手に堂々と砦の正面に姿を現した。途端に歩哨が気付いて大声を上げて、砦の中から警戒を知らせる鐘の音が聞こえてくる。

 そして十秒も経たずに砦の上から色んな武器を携えた獣人やら悪魔やらが飛び降りてくる。飛び降りてこなかったのは、身を乗り出すようにして弓やら杖やらを構える後衛タイプの人たち。ちょっと人間一人に警戒が過ぎるんじゃない? まあ僕に対しては全然足りないんだけどさ。


「やぁ、薄汚い魔獣族の諸君。僕は勇者クルス。君ら雑兵じゃ話にならないから、魔将と一騎打ちをしたいんだけど、呼んできてくれない?」

「……殺せっ!」

「ですよねー」


 一応余所行きの笑顔を浮かべてフレンドリーに挨拶してみたけど、返ってきたのは攻撃命令。僕を目掛けて一斉に矢が降り注いで、炎だの氷だの岩だの魔法による攻撃が殺到する。

 すでに身体能力は十倍、反射神経や思考速度も十倍に加速してるから、あまりにも攻撃が遅すぎて欠伸が出るね。ぶっちゃけ避ける必要は無いとはいえそれはちょっと油断が過ぎるし、とりあえず横に飛んで躱したよ。


「よし、じゃあまずは挨拶代わりに――電撃(エレクトリック)


 そしてお返しに魔法。イメージするのは僕を中心とした同心円状に電撃が広がっていく広範囲への攻撃。ちょっと雑兵が多いからまずは一掃しようかなって。


「ぎゃっ!?」

「ぐあっ……!?」


 目論見通り、魔獣族はバタバタと倒れてく。でも死んだわけでは無いっぽいし、中には膝をついてるだけの奴もいた。砦の上の奴らはそもそも効果範囲外っぽい。

 微妙にダメージが少ないのは周りの樹とかを燃やさないように配慮したせいで、上が範囲外になったのは地面を電撃が伝っていく様子をイメージしたからだろうね。本当に魔法は便利なのか不便なのか分からんな……。


「癒しの光よ――ヒール!」

「ヒール!」


 即死では無かったせいで、砦の上の魔術師たちや意識が残っている奴らは魔法で治療をして、戦闘を続けようとする。

 でも君らと戦ってもつまんないんだよなぁ。僕が戦いたいのはこの砦にいるはずの魔将なのに……。


「うーん……効くかどうか分かんないけど、一応やってみようかな?」

「うわっ、地面が急にっ……!?」


 無意味な戦いに嫌気が刺した僕は、地面を粘土みたいに操って、身体が痺れてまだ動けてない魔獣族たちを僕の所まで引っ張ってきた。向こうから見たら土の波に攫われたように見えるだろうね。そしてギロチン台に拘束された女騎士みたいな状態に固定して、その内の一人の首筋に短剣の刃を当てる。

 どうせギロチン拘束するなら可愛い女の子が良かったのに、こういう時に限って女の子いねぇの! チクショウ!


「はーい、畜生の皆さんよく聞いてくださーい。僕は魔将とやらと一騎打ちがしたいんです。なので呼んできてくれませんか? 今から魔将が来るまで、三十秒経つごとにこの人たちの首を切り落とします」

「なっ!?」


 お、人質は意外と有効みたい。皆ざわついて攻撃の手を止めたぞ。ちょっと甘ちゃん過ぎでは?


「いーち、にーい、さーん……」

「構わねぇ! 俺たちごとやれ!」


 おや、随分度胸があるな。僕が短剣を首に当てた犬耳野郎が、覚悟を決めた瞳で叫んだよ。

 見れば他のギロチン拘束した奴らも同じ感じの目をしてる。いいねぇ、そういう自己犠牲の精神は嫌いじゃないよ?


「カッコいいねぇ。でもこれじゃ人質としては使えないからいらないや。死んで?」

「っ……!」


 嫌いじゃないけど、もう人質としての価値はない。だから僕は短剣を振り上げて、手始めに犬耳野郎の首を刎ねようと振り下ろした。


「――っ!」


 そして、僕は鮮血を撒き散らしながら宙を舞う物体を尻目に、全力で後ろに飛び退った。

 えっ、何故突然逃げたのかって? そりゃ決まってるでしょ。くるくると空高く舞い上がって血を撒き散らしながら落ちてくる物体が、犬耳野郎の頭部じゃなくて、僕の右腕だったからだよ。二の腕の半ばからバッサリ持っていかれたわ。腕が焼けつくように痛くて涙が出ちゃう……。


「――だ、大丈夫? 私が、来たからには、もう、安心……」


 それをやったのは、今さっきまでこの場にいなかった人物。まるでドラゴンみたいなデカくて力強い翼を生やした、黒髪赤目の女の子だ。たぶん美少女なんだろうけど、長い髪は寝起きみたいにボサボサだし、髪の隙間から覗く瞳も何か光が薄いしで根暗な印象があるね。

 服装は黒を基調とした感じの和服っぽい感じで、右手に持ってるのは一本の刀。それを太刀筋が見えないほどの速度で振るって、ギロチン板を切り飛ばして仲間を助けてる。

 こっちを警戒してはいるけど、まずは仲間を助けるのが優先みたいだね。じゃあ今のうちに――解析(アナライズ)



名前:ルキフグス・シェリダー

年齢:2183歳

身長:155cm

種族:魔獣族(魔将:アルファ・ドラゴニュート)

職業:剣士

聖人族への敵意:大

魔獣族への敵意:無し



 なるほど、やっぱりコイツが魔将か。しかしコイツ、僕の腕を切り飛ばすとは根暗でチョロそうな顔してる癖にやるじゃん。

 ていうかアルファ・ドラゴニュート? 確かアルファって始まりを意味する言葉のはずだから、さしずめ最初のドラゴニュートってところか。よく見ると角も悪魔のそれとは何か違うし、黒い尻尾もかなり太くて鱗がある。もしかして魔将って皆悪魔ってわけじゃないのかな?

 あー、しかし腕が痛いなぁ。普通の勇者なら痛みで絶叫してるところだぞ。


「る、ルキフグス様! 申し訳ありません、ご迷惑をおかけしました……!」

「ぶ、無事で、何より。みんな早く、と、砦の中に、隠れて……」

「は、はい……!」


 ルキフグスがボソボソ言うと、周りにいた魔獣族たちはわらわらと砦の中に駆け込んでいく。『自分も一緒に戦います!』とか言わず素直に従うのは、信頼されているからなのか、それとも……。


「ルキフグスって言うんだね。僕はクルス。勇者だよ、よろしくね? ところでこれ、どうやったの?」


 そう聞きながら、僕は切り飛ばされてまだ血がドバドバ流れてる右腕を指さす。

 切り飛ばされたこと自体はそこまで不思議じゃない。別に僕の肌はダイヤモンドで出来てるとかそういうわけじゃないしね。問題は僕が常に展開してる完全な魔法防御ごとあっさり切り裂かれたこと。剣速が弱まるどころか、一瞬の抵抗も無く突破されて切断されたんだよ? 一体どうやったんですかね?


「……? なん、のこと……? 意味が、分からない……」


 でも当人は質問の意図が理解できないみたいで、可愛らしく首を傾げてる。僕が魔法防御を展開してることを知らずにやったってことかな? 確かに魔法を使う時は魔力とかを察知されないよう、しっかり隠蔽もしてるけどさ。


「……まあいいや。治癒(ヒール)


 それは戦いながら探っていくことにして、とりあえず右腕の治療をする。ボコボコと骨やら肉やらが生えて、瞬く間に僕の右腕は元通りになった。ちょっと痺れがあるのはさっきまで無くなってたから仕方ないね。まあ無視できる範囲だから問題なし。


「ここに出てきてくれたってことは、一騎打ちをしてくれるってことで良いのかな?」

「も、もちろん。可愛い部下達が、き、傷つくのは……見たく、ない……」

「なるほど。仲間想いなんだね? 部下達にも慕われてるみたいだし、理想の上司ってとこかな? ちょっと根暗っぽいけど、それも親しみやすさに繋がってそう」

「え、えへへ……そうだと、嬉しい……」


 何やらぽわぽわと嬉しそうに笑って、身体をくねらせるルキフグス。案外可愛いっすね。これなら意外とイけるかも。


「……じゃあ、そんな君を部下たちの前で半殺しにして犯したら、部下たちはどんな顔をするのかな? 瀕死の君の前で部下たちを皆殺しにしたら、君はどんな表情をするのかなぁ?」

「……っ! そ、そんなことは……そんなことは、絶対、させない……!」


 とりあえず挑発してみると、ルキフグスは全身から闘気を迸らせながら刀を腰だめに構えた。口調の不安定さに反して、その格好はめっちゃ様になってるよ。まるで武士だね。やっぱりこれはなかなか楽しめそう。


「だったら僕を倒すしかないね。ほらおいで? ちょっと揉んであげるよ。ついでにその貧相な胸も」

「ひ、貧相じゃない! 魔将、ルキフグス・シェリダー……い、行くっ!」


 大変に和服っぽい服が似合ってるスタイルを揶揄すると、ルキフグスは顔を真っ赤にして否定しながら突っ込んできた。さあ、楽しい殺しあいの始まりだ!


  


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