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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第4章:ジャーニーズエンド
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森の中での強行軍

「……うん、撒いたみたいだね」


 魔獣族の襲撃を受けながら森の中を突き進むこと、およそ一時間。やっと追っ手の姿が無くなった。

 念のために魔法で探査してみても、僕たちの所に真っすぐ向かってきてる敵はいない。周りにもいないし、これでやっと一息つけそうだ。


「かーっ! クズ共殺し放題なのは楽しいが、さすがにちっと疲れたぜ!」

「私もだ……あまり体力には自信の無い方だから、さすがにそろそろ休息が欲しいところだね……」


 クラウンがその場にドカっと座って、レーンもちょっと呼吸を荒げながら木の幹に背中を預けて、ずるずるとその場に座りこむ。

 まあ地面がデコボコしてて走りにくい挙句、そこかしこに潜んだ敵からの攻撃を警戒しないといけないからね。普通に魔物も出てきたし。そりゃ疲れるのも仕方ないよ。

 えっ、僕? 僕は平気だよ? 探査の魔法で敵の位置を把握して走ってたし、疲れてきたら疲労回復の魔法をバンバン使ったしね。なに、卑怯? 卑怯で結構、最高の誉め言葉だ。


「えほっ、げほっ! うっ、ぐっ……!」

「だ、大丈夫、ですか……?」

「ほら、ここ、座りなさ――座って、ください……」


 ちなみに一番グロッキーなのはハニエル。奴隷二人に介護されつつ、そこらの草むらの奥で吐いてる。ちらちら見えるでっかい翼は木の枝だの葉っぱだのでだいぶ汚れてた。

 だいぶアレな状態だけど、僕としてはよく頑張った方だなって思ってるよ? だって周りでどんどん人が死んでいく中を、頑張ってついてきたんだもん。途中からリアが手を引いて先導してあげてたとはいえ、よくもまあ目と耳を塞いでここまで走れたもんだ。


「……ちょっと色々アレな人が多いし、少しここで休もうか。僕が見張ってるから、寝たい人は寝てていいよ」

「お、そうか? じゃあちょっくら休ませてもらうぜ?」

「では、私もお言葉に甘えよう……」

「す、すみま、せん……勇者、様……」


 心優しい勇者様である僕がそう提案すると、クラウンはその場で大の字になって、レーンは木の幹に寄りかかったまま、そしてハニエルは死んだようにぐったりと眠り始めた。国境越えを達成できる率は三割ってのが、説得力のある光景だね。

 とりあえず神経尖らせて見張る気はさらさらないから、代わりに周囲に結界を張っておいたよ。魔獣族を入れない結界にしちゃうと別行動中のキラが入れないから、聖人族に強い敵意を持つ魔獣族のみって限定してね。あとはゆっくり休めるように防音とか色々加えて、っと……。


「……それで、お前らは休まないの?」


 結界にちょこちょこ手を加えてると、奴隷二人が僕の所にトコトコ歩いてきた。見ればさっきまで介護されてたハニエルは、土で作った枕と葉っぱで作った天然のシーツをかけられて、青い顔で死んだように眠ってる。本当に大丈夫か、アイツ……。


「えっと……リアはそんな疲れてないよ? 走るの疲れてきたら飛んだりしてたもん」

「私も、別に……というか、何か途中まで記憶が飛んでたっていうか、よく覚えてないっていうか……」


 素直に答えるリアと、首を捻って答えるミニス。虚言罰則(ライズ・ペナルティ)が発動してないってことは、マジで覚えてないんだろうね。

 でもそれも仕方ない。何せ肉盾にしてたらおでこに矢がぶっ刺さって抜けなくなって、その状態だと自動で蘇生しなかったんだよ。だから無理やりに引っこ抜いてやって、自動で蘇生するようになった後しか記憶が無いんだろうね。まあ引っこ抜いたのはほんの数分前で、それまではずっと武器兼盾にしてたんだけどな!


「あー……ミニスちゃん、ご主人様に盾にされたり武器にされたりしてたもんねー」

「は? 何それ、もっとその話詳しく聞かせてくれない?」


 そんな事実をリアが馬鹿正直に教えちゃって、ミニスは頬を引きつらせながら話を聞いてる。

 どうせ死んでて武器にされても盾にされても痛みは無かったんだから別にいいじゃん。それにめっちゃ面白かったしね。デコに矢が刺さった同族の少女を盾にされて驚愕の表情を浮かべる獣人野郎を、その少女の身体でぶっ叩くのはさ。鳩が豆鉄砲食らったような顔、っていうのはああいう表情のことを言うのかな?


「――よぉ、帰ったぜ」


 奴隷二人が仲良くお話してる所を眺めてると、いきなり上から隣にキラが降ってきた。

 ぶっちゃけすっげぇ驚いたけど、音もなく後ろに立たれるよりはマシかな? それに今まで別行動してたのは僕がそうお願いしたからだし、ここは大目に見てあげよう。


「おかえりー。どうだった?」

「上々だな。とりあえず後ろから追ってくる奴らは皆殺しにしといたぜ」


 などと恐ろしいことを、やたらに血色の良い笑顔でのたまうキラさん。

 もう分かってるとは思うけど、追っ手が来ないのはすでに全滅してるからなんだよね。いつまでも追われるのはウザったいから、ちょうど透明人間になってるキラに始末を頼んだってわけ。もちろん喜んでやってくれましたよ。ええ。


「ご苦労様。お前も少し休んだら?」

「馬鹿野郎、せっかく人目を気にせず殺しまくれる状況なんだぞ? この森に潜んでる奴らを根絶やしにする勢いで殺り回ってやるぜ」

「まだ殺り足りないのか。まあ疲れてないなら良いけどさ……じゃあ先行して通り道にいる奴らを片付けといてよ。日が落ちる前には戻ってきてね」

「あいよ。それじゃ行ってくるぜ」

「いってらーしゃい」


 まだまだ元気も殺意も有り余ってるキラを送り出して、道中の面倒を先に片付けておく。

 キラは大好きな殺しができて嬉しい、僕は面倒を片付けて貰えて嬉しい、正にウィンウィンの関係だね。実に素晴らしい!


「……あのさ、女神だっけ? に、私に優しくしろって言われたんじゃなかった? 何で私を盾にした挙句振り回して武器にしたわけ? それがあんたの優しさなの?」


 なんて感動してたら、リアから事の全てを聞き出したらしいミニスが、怒りにぴくぴく頬を引きつらせながら近寄ってきた。

 確かにミニスには優しくしろって、女神様に言われたね。僕もそれくらいは覚えてるよ。それに幾ら僕でも武器にしたり盾にするのが優しさじゃないってことくらいは分かるし。


「えっ、違うけど? だって優しさはもうあの時のキスで終了したし。女神様もずっと優しくしろとは言わなかったしね」

「えぇ……」


 そう、女神様はずっと優しくしてあげろとは言わなかった。だから僕のミニスに対する優しさは、あの二度目のファーストキスで終わり。でもちゃんと優しくしてあげたから、女神様の言いつけは守ってるよ?

 しっかり優しくしてもらった癖に、ミニスは何か呆れ果てたような反応してるのは何でだろうねぇ? もしかしてもっとキスして欲しいのかな?


「えっ!? ミニスちゃん、ご主人様とキスしたの!? ひゃ~っ……!」


 そして僕らの話を聞いてたマセガキ――じゃなくてメスガキが、何やら頬を赤くしてデカい翼をパタパタさせる。

 まあメスガキって言っても、コイツもうそういうのじゃないよね。性知識ゼロだし。初対面の時とキャラのブレが激しいっていうか、何ていうか……同族への殺意と憎悪だけは一切ブレてないんだがなぁ……。


「したっていうか、無理やりされただけだし……あんただって、そうなんでしょ?」

「んー? リアはご主人様とキスしたことないよ?」

「いや、お前にもしたよ。あ、でもお前には眠ってる間にしたんだったか」


 そうそう、確かリアと夜の殺人に繰り出した後、ベッドで一緒に寝た時にキスしたんだ。ちょっとうるさかったから魔法で無理やり眠らせてたし、本人は何も気づいてなかったんだね。

 あれ? そういやキラにはキスしたっけ……?


「えっ!? 何それ、聞いてないよ!?」

「いや、聞かれなかったし」

「酷い! ご主人様、酷い! リアの知らない内にリアのファーストキスを奪うなんて! 外道! 痴漢! エッチ!」

「アッハッハッハ。そんなに褒めるなよ、照れるじゃないか」

「絶対褒められてないわよね、それ……」


 飛びついてポコポコ叩いてくる頬を膨らませたリアと、すっごい冷めた瞳で蔑みの視線を向けてくるミニス。いやぁ、感情豊かな女の子たちってやっぱり良いよね!







 そんなこんなで、しばしの休息を終えた僕らは再び森の中を歩き出した。すでに追っ手は全滅――じゃなくて撒いたから、今度はそこらに潜んでるであろう魔獣族に見つからないよう、ゆっくりとね。まあそっちも大体片付けられてるんだけどさ。キラは働き者だなー。

 あ、そうそう。ファーストキスを奪われたって怒ってたリアだけど、話を聞いた感じだとどうも奪われたことそのものに怒ってるわけじゃなくて、意識が無い時に奪ったのがお気に召さなかったみたい。

 だからミニスの時と同じように二度目のファーストキスをしてあげたら、それはもう嬉しそうに頬を緩ませてたよ。でもその理由は僕とキスしたからじゃなくて、大人に近づけたからっていうのが悲しいところだね。いやまあ、やることやらせてくれればそれでも良いんだけどさ。


「……だいぶ暗くなってきたね。もう先の方が全然見えないよ」


 それはさておき、森の中を進み続けることおよそ六時間。辺りはすっかり暗闇に包まれてた。

 六時間進んだって言うと結構進んでるように思えるだろうけど、たまに出てくる魔物を狩りつつ、本当にごく稀に出てくる獣人を締めつつ、ちょくちょく休憩を挟みつつだから、実際はあんまり進めてないかな。


「夜は向こうの独壇場だ。無暗に危険を冒して進むより、今晩はここで夜営をした方が良いかもしれないね」

「だな。もう限界って奴もいやがるしな」


 そう提案してくるレーンとクラウンも結構疲労の色が濃いけど、その後ろからよろよろ歩いてきてる奴に比べればまだマシ。


「だ、大丈夫、ですか……?」

「ちょっ、そこ危ない――です!」

「……………………」


 ハニエルはもう真っ青な顔で終始無言だからね。奴隷二人に左右から介護されてるし。

 しかし精神も肉体も消耗しすぎじゃない? 確かに森の中を常時警戒しながら歩くのは辛いだろうけど、お前全然戦ってないじゃん。せいぜい誰かが転んだ時に不必要な治癒魔法使ってるくらいじゃん。まず自分の今にも死にそうな様子を何とかしろ。


「……なあ、クルス。ちょっと良いか?」

「おん? どうしたの?」


 夜営の準備をしてると、珍しくクラウンがこっそりと話しかけてきた。

 コイツが内緒話なんて本当に珍しいなぁ。いつも暑苦しくてうるさいイメージしかないから。


「あの大天使様よぉ……ここで殺さねぇ?」


 とか思ってたらすっげぇこと提案してきたぞ、コイツ。いや、理由は分かるし共感もできるんだけどさ……。




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