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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意

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再び森の中

「ヘイ、パス!」

「………………」


 両手を振り上げてアピールすると、しばしの沈黙の後、山なりの軌道でボールが飛んできた。コントロールが悪いのかかなり後ろの方に飛んで行くコースだけど、この程度なら特に問題なし。


「オーライオーライ。よし、キャッチ! そらっ、死ねぇ!」


 ばっちりボールをキャッチした僕は、それを即座に直線軌道で投げ返す。身体能力は常に三倍くらいに強化してるから、返球はかなりのスピードでぶっ飛んでったよ。時速百五十キロくらいは出てるんじゃない?

 でもそれを――パシッ! 特に苦も無く受け止める辺り、獣人ってやっぱフィジカルが振り切れてますね。何か悔しい。


「……あのさ、何で私ら森でキャッチボールしてるの?」


 そんな疑問を投げかけてくるのは、僕の奴隷であり実験動物(モルモット)でもあるウサギ獣人のミニス。ちなみにコレ、キャッチボール始めて十分くらい経ってからの台詞ね。ちょっと言うの遅すぎない?

 ミニスの言う通り、僕らはマジで森の中でキャッチボールの真っ最中。ラツィエルの所で偽装工作と処刑をかましてきた後にこれって、心底ふざけてるって思われそうだよね。でも勘違いしないで? 僕は至って真面目だよ?


「そりゃ待ってる間暇だからに決まってるでしょうよ。別にキャッチボールが嫌ならお前の身体を使った魔法による人体実験でもいいよ? お前の首を切り落としたら上から再生するのか下から再生するのか興味あるんだよね」

「うん、キャッチボールしましょ! 私、実験よりキャッチボールの方が大好き!」

「そんな生存本能溢れる必死な目で言われてもなぁ……」


 僕が投げたボールを必死の表情で受け止めて、魂を込めて投げ返してくる姿が何だか哀れみを誘うね。

 でも虚言罰則(ライズ・ペナルティ)の魔法が発動しなかった辺り、人体実験よりキャッチボールが好きなのは本当みたい。僕としては人体実験の方が好きなんだけど、本人がこっちが良いって言ってるし、仕方ないから付き合ってあげるかぁ。


「まあ良い子にしてればさすがにそこまで非道なことはしないから安心しなよ。僕は優しい勇者様だからね」

「本当でしょうね……あんたの頭はぶっ飛んでるから、非道って言葉の定義が絶対私とは違う気がするわ……」

「彼も人、我も人。でも考え方は人それぞれだから、たぶん僕に限らず皆違うんだよなぁ。というか今思ったんだけどさ……その格好、暑くない?」

「……暑い」


 ミニスは額の汗を拭いながら、かなり辛そうに答える。

 お花畑大天使のコーディネイトの結果、ミニスの今の服装はモフモフのコートでも纏ってる感じになってるんだよね。色は綺麗な白で、白ウサギなのに見た目は羊みたいになっちゃってるよ。

 確かにウサ耳はかなりモフモフしてたし、そこから考えると同じような見た目や質感の衣服が似合うのは分かるよ? でも聞いた限りだと今の季節は春真っ盛りみたいだし、さすがにそんな時期に毛皮のコート選ぶのはどうかと思うなぁ……。


「何でわざわざこんなポカポカ陽気に真冬に着るような服装にしたの? 蒸しウサギになっちゃうぞ?」

「今の私は奴隷だし、選んだのはよりにもよって大天使よ? しかも一切悪気なくこれが似合うって選んでくるし、断れるわけないでしょうが」

「なるほど。まあハニエルだし、嬉々として可愛い服を着せまくろうとするのは目に浮かぶなぁ……」


 普通に考えれば奴隷に選ぶ権利は無いか。ハニエルなら気に入ったかどうか聞いてきそうだし、実際聞かれたんだろうけど、まともな奴隷なら肯定以外の返事は返さないよね。悪意が一切無いから余計に。


「どれ、それじゃあちょっと快適に過ごせるようにしてあげようか。ほら、おいでおいで?」

「何かすっごい嫌な予感がする……」


 キャッチボールを一旦中断して、傍に来るようミニスを手で招く。

 めっちゃ警戒しつつも素直にこっちに来てくれたよ。まあ向こうに選択肢はないから当然と言えば当然かな。


絶対防御アブソリュート・プロテクション。それから――冷房固定(クール・フィクス)

「うわっ!? な、何かひんやりする!?」


 じりじりと近寄ってきたミニスに対して、まずは衣服への絶対防御。それから今即興で作った魔法をかけた。ひんやりするならたぶん成功だね。

 えっ? 何でミニス本体に防御魔法をかけないのかって? やだなぁ、自動蘇生と自動再生がかかってるんだから必要ないでしょ?


「その服を着てる限り、お前の体感温度は十八度になる魔法をかけたぞ。正確に言えば周囲の熱気とか冷気が、お前の身体に届く前に十八度になるって感じ。あと服が破れたりもしなくなるようにしておいたよ。色々考えたけど、嘘つくたびに服が焦げるのはちょっと困るし」


 確かに服が焼け焦げて肌が露わになるのはエロいよ? でも考えてみて欲しい。一応コイツは僕の奴隷だから、頭のてっぺんからつま先に至るまで僕の所有物だ。それなのに不特定多数の目がある中で、熱さに息を乱して汗を流すエロい姿を見せたり、真っ白な肌を晒しちゃうってのは、どう考えても許せないでしょ?

 あ、ちなみに十八度固定なのは特に理由は無いよ。強いて言えばエアコンの冷房は二十八度にしましょう、っていうルールへの反逆かな。二十八度はどう考えても冷房じゃないんだよなぁ……。


「あっ…………あり、がと……」


 一気に涼しくなったおかげか、ミニスは珍しく素直にお礼を口にした。心なしか頬に赤みもさしてるような気がする。

 まあ何だかんだで結構高そうな服だし、ハニエルが親身になって選んでくれたわけだから、ずっと着られるのは嬉しいんだろうねぇ。あるいは僕が突然優しくしたことで絆されちゃったのかもしれない。確かに悪い奴が良い事をすると、どんな些細なことでも凄く良い人そうに見えちゃうよね。


「じゃあちゃんと魔法の効果が発動するか、色々試さないとね。というわけでまずはこれだ――(フレイム)!」

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ!? やっぱあんたはゲス野郎よ! お礼返せ、この屑!」


 でも僕は芯から悪人だし関係ない話だね。そんなわけで、ミニスの足元に炎を創り出して魔法の効果を実験しました。

 ギャアギャア叫びながら僕を罵倒しつつ、足元で燃え上がる炎を避けるようにタップダンスを踊るミニスだけど、別に熱いとは言わないし服も燃えず肌も焼けない。うん、実験は成功だね! でも今度は極低温下での実験に移るぞ! というわけで――氷結(フリーズ)






「……で、そもそも何でこんな場所に来たわけ? 一体何を待ってるのよ?」


 温度実験を終えてメッタメタに罵倒された後、僕らはまた楽しいキャッチボールに戻った。

 というかわりと色々えげつない事されたのに、コイツもう普通のメンタルに戻ってるな。機嫌治るの早すぎない? 防御魔法と服にかけた魔法のおかげで毛ほどもダメージ通らなかったとはいえ、燃やそうとしたり凍らそうとしたりしたんだけど? 案外どっかの頭お花畑大天使よりメンタル強そうだな、コイツ。 


「そういえばお前はショッピングしてたから何も知らなかったっけ。説明面倒だから詳細は省くけど、実は僕ら勇者一行の中に犯罪者いるのが大天使にバレちゃったんだよね。後で蘇生してあげるって言ったけどそいつは死にたくないって言うから、代わりに異空間にコレクションしてる死体を魔法で偽装して、大天使の目の前で処刑したんだ。首切り落とした後に頭踏み潰してね」

「何かあんたの説明聞いてると吐き気がしてくる……それとここで待つことに一体何の関係があるっていうのよ?」

「死体は向こうで処理してくれるっていうから置いてきたんだ。でもその死体は魔法で偽装した死体だから、たぶん魔法で詳しく調べれば偽装だってバレるんだよね。もちろん僕なら調べても何も出て来ないようにすることはできるよ? でも今回はあえてそういう処理はしなかったんだ。こっちも色々と試してみたいことがあったからね」


 実は本来の計画だと、頭を切り落とした後に身体ごと燃やし尽くす予定だった。何の証拠も残らないよう、塵になるまで念入りに。

 でもそれは街に戻る前に森の中で練った計画。それも街の入り口とかで兵士に囲まれることを前提とした計画だったから、何事も無く戻れた宿の部屋で作戦を若干練り直したってわけ。だから死体の処理こそしなかったけど、代わりに死体に魔法を色々と仕込んできました。


「……試してみたいことって?」

「一つは大天使ラツィエルの行動。アイツ随分と考えて動くタイプみたいだし、アレの行動や対応を今後の指標にしようかなって思って。アイツが死体を調べるなら、今後はその手の偽装に絶対隠蔽が必要って分かるでしょ?」

「随分と周到ね……二つ目は?」

「二つ目は血沸き肉躍るバトルが狙いだよ。見た目クソ生意気なショタガキとはいえ、アレは戦争で戦い続けて三千年間生き残ってる奴だからね。その強さを間近で測ることが出来たら、そういう歴戦の猛者たちの強さの指標になりそうだなって」

「いちいち狡猾で姑息なこと考えてるわね、あんた……三つ目は?」

「純粋に偉そうで生意気なショタガキ大天使が気に入らないから、地べたに引きずり降ろしたい」

「三つ目はクソみたいな個人的感情だったわね……」


 この三つが今回確かめてみたいこと、そしてやりたいこと。

 次の目的地が国境だから聖人族の国はもうそろそろおさらばするけど、魔獣族の国にも大天使にあたる存在は確実にいると思う。勇者とかいう堅苦しい立場が無くなって幾分動きやすくなるとはいえ、まだ表立って悪さはすべきじゃないからね。そのためにも敵の強さや動きを把握しておくことは必要でしょ? 立場は同じでも天然大天使じゃ参考にならんし。


「試してみたいことってのは分かったけど、それとここで時間を潰してることはどう関係するわけ?」

「もし誰かが死体を魔法で調べた場合、この場所にそいつを転移させる魔法をかけておいたからね。だからここで時間を潰して待ってるってわけ」

「えっ。てことは、もしかしたらここで大天使と殺しあうかもしれないってこと……?」

「うん。大天使が僕や死体に何らかの疑いを持って、自分で直接調べた場合に限った話だけどね。でもまあ、確率は結構高いと思うよ?」


 何でそう言い切れるのかと言うと、それはラツィエルの屋敷に入るまで向こうに何の動きも無かったから。

 たぶんレーンの言う通り、出来る事なら内密に処理したい問題だからなんだと思う。魔王を倒して世界を平和にするはずの勇者一行に、猟奇殺人鬼が紛れ込んでるなんてあまりにも外聞が悪すぎるしね。実際キラを牽制してた兵士や魔術師の人数もそこまで多くは無かったし。

 だからあの処刑の一幕で何らかの疑いを持った場合、死体を調べるならラツィエル本人が行う可能性が高いと思う。たぶん魔力が相当多いだろうし、自分一人で調べれば他の誰にも情報は洩れないでしょ?

 仮に一人で調べなくても、一応そこは問題ない。死体にかけた魔法は調べた奴だけじゃなくて、同じ部屋の中にいる奴全員を転移させるものだからね。一つ気になるのは野外で調べた場合、同じ部屋の中の奴って条件がどうなるかってことなんだけど……まあ、そこはあまり深く考えないようにしよう。うん。


「……勝算はあるわけ?」

「僕は殺ろうと思えば一瞬で殺れるし。何ならこの場所から距離を無視して殺ることだってできるし、殺すことが目的で僕が戦うなら勝算は百パーセントだよ」

「何なのコイツ? 何でこんな頭おかしい奴が、そんな力を持ってるわけ……?」


 すごい疑念に満ちた表情をしながら、ボールを投げ返してくるミニス。それはもちろん、僕が女神様に選ばれた救世主だからさ。

 しかしコイツ、なかなか聞き上手だな。何だかんだ言いつつ僕の話に適度に相槌を打って、先を促してくれたし。これは実験動物(モルモット)以外に話し相手としても期待できそうだね。


「――おっと? 噂をすれば……」


 ボールをキャッチしようとしたその時、僕の頭に軽い頭痛にも似た一瞬の痛みが走った。

 これも死体にかけた魔法の一つで、誰かが死体を調べた時にそれを僕に知らせるっていう魔法なんだ。もっと他に知らせ方があるんじゃないかと悩んだけど、気付かなかったら致命的だからね。絶対無視できないであろう頭痛として知らせる形にしたってわけ。

 そして誰かが死体を調べたってことは、今正にこの場にそいつが転移してくるわけで――


「――な、何だ!? ここは、一体……!?」

「うわ、本当に来た……」


 現れたのは……銀髪眼鏡生意気系ショタガキ大天使が一人! よっしゃ、想定通りだ!

 さーて、それじゃあ楽しい楽しい悪事の時間だ。ネタ晴らしして驚かせてから、生意気なショタをボコボコにしようぜ! 




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