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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意
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ドナドナ

 ポカポカ陽気のお昼時。でも僕の気分は、おいしいお肉にするために家畜を運搬するドライバー。

 何故ってそれは目的地が大天使のお屋敷だから。そこに連続殺人犯だとバレたであろうキラを連れてくんだから、ドナドナしても仕方ないよ。


「そういや思ったんだけどさ、もしかしてここに住んでるのって貴族ってやつ?」


 緊張を紛らわすために、レーンに話題を提供してみる。

 ラツィエルの屋敷は街の中央にあって、そこに近づくにつれて何か周りの建物が無駄に豪華になってるんだよね。もちろんこの街は軍事基地みたいなものだから、魔法や武術の訓練施設とか軍事施設みたいなものの方が多いんだけどさ。


「ああ、そうだ。しかし恐らく、君が考えているような横暴かつ欲深い貴族ではないよ。君たち召喚された勇者は、貴族と言えば下賤で下劣で欲深く、貴族以外を人とも思わない畜生だと思っているようだが、実際の所それは違う。確かにいないことも無いが、それは限りなく少数派だ」

「じゃあどんな奴ら? 長年純血を保ってる奴らとか?」

「いや、違う。そもそも純血を保っても意味が無いだろう? 大天使はともかく、人間は天使の血が混じらなければ魔法を使えないのだからね。貴族というのは、戦で手柄を立てた強者たちのことだよ。武闘派の集団、と言えば分かりやすいかな?」


 なるほど。貴族に召し上げられる方法とかは、僕の知るものとあんまり変わらないのか。

 でもなぁ、この世界ずっと戦争してるんだよなぁ。僕の知ってるラノベとかアニメとかでの貴族って大概は豚だったりするけど、この世界じゃそんなんじゃ生き残れないだろうし、レーンの言う通りめっちゃ武闘派のヤベーのがいっぱいいそう。

 そして戦で手柄を立てたってことは、魔獣族をたっぷり虐殺する過激派の筆頭みたいな奴らってことで……うん! 関わるだけ無駄だな、これ!


「じゃあなるべく関わらない方が良さそうだね。真の仲間はいなさそうだし」

「それが賢明だね。とはいえラツィエルも貴族である以上、すでにその判断は遅きに失しているようだが」


 あっ、そっか。あのショタ大天使はどっかの頭お花畑大天使と違って、魔獣族を殺すことに何の躊躇いも無かったね。それに三千年くらい前から生きてるはずだし、たぶんかなり位の高い貴族なのでは? 公爵とかその辺?


「……ん、待てよ? 戦で手柄を立てた奴ってことは、もしかして見目麗しいレーンカルナ様も偉大なご貴族様であらせられるのでしょうか?」

「その気持ちの悪い言葉遣いは止めてくれ。確かに貴族だった時代もあるにはあるが、虐殺を止めてからはただのしがない魔術師さ。尤も立場に付随する役目が無い分、一介の魔術師でいた方が遥かに過ごしやすくて気に入っているがね」

「はーん……」


 意外とセコイな、コイツ。でも面倒だから偉くなりたくない、っていうのは分かる気がする。

 でもそっかぁ。貴族は武闘派の脳筋集団みたいな感じかぁ。つまり貴族の令嬢はよくある女騎士みたいな感じ? 誘拐して苛めてくっころさせたらすっごい楽しそう……楽しそうじゃない?






「さ、ついたぞー。キラの処刑台――じゃなくて、大天使様のお屋敷に」

「おい、今お前縁起でもねぇこと言ったろ?」


 適当なことを駄弁りながら歩くこと十数分。ついに僕たちはラツィエルの屋敷前に到着した。

 でっかいお庭や素敵な噴水が敷地内にある美しいお屋敷だよ。でも正門から玄関までかなり距離があるのがマイナスかな? 何で金持ちとか偉い奴って、こうやって無駄に広くして住みにくくするのかな?


「あながち間違ってはいないし良いじゃん。さ、それじゃあ覚悟を決めて行こうか」


 睨んでくるキラにそう返して、正門前にいる兵士たちに近付く。

 もちろん僕の表情は余所行きの優しくて誠実そうな勇者らしいものに切り替えておいたよ。ただ表情や雰囲気はともかく、帯剣してるからちょっと警戒されてる気がするね。やっぱり身に着けるんじゃなくて異空間に放り込んでおくべきだったか?


「こんにちは。何か御用でしょうか?」

「お仕事お疲れ様です。大天使ラツィエル様にお目通りを願いたいのですが。あっ、僕はこういう者です」


 いきなり武器を向けられたりはせず普通に対応されたから、とりあえず頭を下げて勇者の証を名刺みたいに渡す。

 あのショタ大天使が貴族だっていうなら、本来は事前にアポイントメントを取ってから来るべきだと思う。こういう風にいきなり押しかけるのはNGだよね。

 でも今回の魔獣族掃討はその貴族様からの依頼だ。それに街中では何も無かったし、内密にキラを捕えるために屋敷の中で待ってるんだと思うから、たぶん普通に入れてくれるはず。


「ああ、あなたが勇者様でしたか。勇者様のご一行はすぐにお通しするよう、お達しが出ております。どうぞ、お通り下さい」

「ありがとうございます。それじゃあ行こうか、二人とも?」


 『まずは予約を取れ常識知らずが!』とか言われることは無く、兵士は普通に門を開けてくれた。

 これはやっぱり中で張ってるのか、それとも自分から頼んだ仕事だから面倒な手順は省かせたか。とりあえず悪い方に考えておけば下手な失敗をすることはないでしょ。前向きに悲観的に考えよう。

 そんなわけで、僕らは四人分(・・・)の足音を立てつつ、でかい屋敷を目指して歩く。さすがにこの辺りでは聞き耳立ててる奴がいてもおかしくないから、下手な会話はしなかったよ。実際植物の手入れをしてるオッサン庭師とか、掃除をしてる可愛いメイドさんとかもいたしね。

 しかし庭師はともかく、メイドさんはさっきから同じところを何度も箒で掃いてるような……やっぱこれ張ってますね。


「ようこそおいでくださいました、勇者様。ご主人様がお待ちです。どうぞお上がりください」


 僕たちが屋敷の玄関に近付くと、その一番近くで掃除をしてた天使のメイドさんがぺこりと頭を下げてきた。そして玄関の大きな扉を開けて、華やかな笑顔で僕たちを招く。

 普段なら何も考えずにメイドさんに招かれたいとこなんだけど、今は完全に魔獣の巣窟に叩き込まれる生贄の気分だよ。絶対この扉くぐったら何かあるでしょ?


「あっ、ご丁寧にありがとうございます。お疲れ様です」

「さっきから君のその無駄な腰の低さは一体何なんだい……?」


 でもそれは予想してここに来たんだし、足を止める理由にはならないね。そんなわけでメイドさんに頭を下げてから、遠慮なく中に入らせてもらいました。

 中はもちろんだだっ広いエントランス。高そうなカーペットやら豪華なシャンデリアが目を引く高級そうな感じだ。シャンデリアって見てると落ちた時のことを色々考えちゃうんだよね。できればアレの下にはいたくないかなぁ。

 それはともかく、最後にキラも入ってついに僕ら全員が屋敷の中に足を踏み入れた。さあ、一体何が起こるかな?


「――なっ!? 何ですか、あなたたちは!?」


 そしてパタンと扉が閉まった瞬間、それを待ってたみたいに上から兵士たちが四人降ってきた。降ってきた兵士たちは着地するなり、持ってた槍の穂先を素早くキラの首筋に向ける。

 おまけにエントランスの階段の陰から魔術師やら弓術師やらが何人も出てきて、皆一斉に攻撃体勢を取ってキラを狙ってたよ。

 良かった、狙われるのはキラだけみたい。というかとりあえず驚いてみたけど、降ってきた奴らは今までどこにいたんですかね? 天井に張り付いてたとか? ご苦労様です。


「――驚かせてしまってすまないね、クルスくん。だが心配しなくていい。君とそちらの魔術師のお嬢さんに危害を加える気はない。用があるのは、そこの殺人鬼だけだ」

「キラが、殺人鬼……?」


 二階の扉から出てきたかと思えば、わざわざコツコツと階段を下ってくるラツィエルに対して、困惑してるような反応を返す。

 まあ実際はそんなこと百も承知だし、何なら僕も殺人鬼だし、その上キラと一緒に殺しに行ったこともあるんだよなぁ。むしろ今ここにいる僕の仲間で、人を殺した経験が無い奴がいないっていう……レーンは聖人族殺してないかもだけど、必要とあらばやりそうだしなぁ。


「そうだ。それもただの殺人鬼じゃない。彼女は悪名高き連続殺人鬼――ブラインドネスだ」

「馬鹿な、キラがブラインドネスだと……?」


 意外とノリが良くて演技力もそこそこなレーンさんが、目を見開いて驚いた振りをしてる。初めて知った衝撃の事実だね!

 大天使もまさか勇者とその仲間も真っ黒だとは思ってもいないみたいで、何の疑いも見せずに僕らの前まで降りてきた。


「この世界に召喚されたばかりの君には分からないだろうから、説明をしてあげよう。数年ほど前から、僕らの国ではとある猟奇的な殺人事件が頻発していた。鉤爪で切り裂かれて殺された上、眼球を抉り出されるという身の毛もよだつ殺人がね。命を奪い、瞳をも奪う奇行からついた通り名はブラインドネス。そんな度し難い蛮行を重ねる悪人が一体どのような人間かと思えば、まさか勇者の一行に紛れた小柄な少女とは驚きだよ」

「……待って下さい。キラがそのブラインドネスだという証拠が一体どこにあるんですか? 彼女は僕のかけがえのない大切な仲間です。何の証拠も無しにキラを殺人鬼だと断定するようなら、さすがに僕も見て見ぬふりはできません。仲間を守るために、全力で抗います」


 一瞬悩んだけど、僕は兵士たちに槍を向けられてるキラを庇う位置に移動した。ついでに腰に下げた剣の柄に手をかけると、兵士たちが動揺したように何歩か後退する。

 ん? 何でわざわざそんな危ないことするのかって? そりゃその方が勇者っぽいからだよ。現状ではまだ確たる証拠を出されてないから、守らないって選択肢は勇者的に無いだろうしね。


「ほう? それは大天使であるこの僕と、敵対することになってもかな?」

「……必要とあらば」


 ショタには似合わない鬼畜っぽい笑い方をするラツィエルに対して、微かな溜めを挟んで答える。予想はしてたけど、途端にこっちを見る目が鋭く細まったよ。

 おまけに特に魔力を放ったり魔法を使ってる様子もないのに、何かお肌がチリチリしちゃう。隣でレーンが僅かに息を呑んで身体を固くしてる辺り、これは俗に言う威圧の類なんですかね? さすがは歴戦の猛者。素晴らしい戦意をお持ちで。常人なら恐怖で震え上がってるだろうね。

 でもちょっと相手が悪かったな! ここにいるのは頭も倫理観も死生観もぶっ壊れてる異常者だぜ! こんな威圧は屁でもないね! まだあのクソデカカマキリを前にした方が怖いわ!


「……………………」


 そしてこんな今にも殺しあいが始まりそうな一触即発の空気の中、槍やら弓やら魔法やらで狙われてるキラさんは何の感情も無い表情でぼーっと突っ立ってたよ。

 仕方ない事とはいえ、余裕な上に暇そうに見えてなかなかムカつくなぁ、コイツ……。 


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