息抜きと準備
⋇性描写あり
「……あれぇ? 何か普通に宿まで帰ってこれたぞ?」
何事も無く街に戻り宿に戻れた僕は、ベッドに腰かけながら首を傾げる。
森の中で小一時間くらい作戦を練って、魔法で色々して準備を完璧に整えて街に戻ったのに、ショタ大天使どころか兵士たちの歓迎すらなくて完全に拍子抜けだよ。宿への道すがらもずっと警戒してたのに、何か普通に自分の部屋に戻って一息つけちゃってる。
おかしいな? 少なくともキラが連続殺人鬼だってことはほぼ確実にバレたはずなのに、どうして向こうは何の行動も起こさないんだろ?
「ふむ。もしかすると体面の問題を考え、人目のある場所では手を出さない気なのかもしれないね。仮にも勇者の仲間におぞましい連続殺人鬼が混じっていたなど、醜聞が悪すぎて表沙汰にはできない問題だろう? その殺人鬼が聖人族に紛れていた魔獣族だったならなおさらね」
僕の疑問に答えてくれたのは、座らず近くに突っ立ってるレーン。
なるほど。魔王を倒して世界を救うはずの勇者パーティに実は悪人が紛れてたとか、送り出した何とか王や国そのものの体面とか威信とか信用とかに関わるからね。できれば秘密裏に処理したい気持ちも分かる気はする。
「……ということは、ゴミ掃除終わりましたーって報告に行くのを待ち構えてるかもしれないってこと?」
「その可能性が高いだろう。向こうも内密に処理することを望んでいるだろうし、万全の態勢で待ち構えているはずだ」
「ふーん。まあ、作戦は予め考えておいた案で良さそうだね。またちょっと面倒なこと続けないといけないけど、こればっかりは仕方ないかぁ……」
森の中で考えた作戦を実行しながら街に帰ってきたのに、出迎えが無かったからただただ無意味に面倒な真似をしてただけだったんだよね。それなのにまたこの面倒な真似を続けなきゃいけないんだから面倒くさい。
もちろんキラを切り捨てることが一番面倒が無い最適解だってことは分かるよ? でもほら、僕は素敵な勇者様だから仲間を売るなんてありえないから。勇者様なら命を賭けて仲間を守るのは当然だもんね!
「……なあ、一ついいか?」
「何かな? 大問題児さん?」
僕が精神的な疲れからため息を零すと、戦犯であるキラが控えめに声を上げた。
ちなみにその声がどこから聞こえたかというと、ベッドに腰かけた僕の脚の間からね。ん? 何でそんなとこから声が聞こえるのかって? そんなん決まってるでしょ? グヘヘ……。
「何で真面目な話しながら、あたしの耳をこれでもかってくらいに弄ってんだ?」
「そりゃ猫耳があったら触るでしょうよ。何言ってんだ、お前は?」
「えっ、あたしがおかしいのか……?」
そう、ずばり猫耳モフモフ。ちょっと精神的に疲れたし、部屋に戻ってきてからずっとキラの猫耳を指で弄ってモフモフしてるよ。キラもかなりヤベー状況に追い込まれて頼れるのが僕だけなせいか、正に借りてきた猫みたいに大人しくモフらせてくれてるし。
いや、ごめん。嘘です。猫人だから借りてきた猫みたいって言いたかっただけで、実際には前に一緒にシャワー浴びた時と同じでかなり無頓着で反応薄いよ。さっきはちょっと反応してたのになぁ。エロい喘ぎを零せとかは言わないから、せめてもっとこう、快感を抑えた感じの熱い吐息を零して欲しいかな……。
「いや、君だけおかしいというわけではない。君たち二人は揃っておかしいし狂っているよ」
「ハハハ、人をおかしいとか狂ってるとか言うなんて酷い奴だなぁ。そんなイケナイ子にはこうだ」
「っ!? お、おい、何を――」
快楽殺人鬼とひとまとめにされてちょっと腹が立ったから、左手でキラの猫耳を弄りながら右手でレーンの身体を抱き寄せた。腰の辺りをガッっと掴んでね。
「んっ……! や、やめたまえ、どこを触って……あっ……!」
そして無理やり隣に座らせて、ローブの上から胸を弄る。
うんうん、やっぱりほのかな膨らみの柔らかさは猫耳に勝るとも劣らない素晴らしい感触だね。キラと違ってレーンはエロい声で鳴いてくれるし、身体の下の方にピリピリ来ちゃうよ。後でまたトイレ行かなきゃ。
「どこってそりゃあ男の子ならみんな大好きな場所だよ。というか触られるの初めてじゃないでしょ?」
「う、くぅ……! こ、これが……君の思い描く、誠実な関係なのかい……?」
「まあちょっとやりすぎてるのは自覚してる。でもさ、これからクソ面倒で頭が痛い問題に対峙しなきゃなんないんだし、そのためにも英気を養う必要があるでしょ? これくらいは許してよ?」
そう言いながら、レーンの胸を揉み揉みしつつキラの猫耳をモフモフする。
実際この後は面倒そうなショタ大天使を上手く騙して立ち回らなきゃいけないしね。幾ら僕に演技力があっても、疲れることに変わりは無いんだよ。魔力は無限でも精神力は有限だし。
「はぁ……まあ、元より私は君に人としての尊厳を捧げた身だ。それに頭の痛みに関しては私も大いに共感できる。君が満足するまで、好きなように揉むと良いさ……」
「何だかんだで寛大なレーンママ大好き……」
何か達観した感じの許しが出たから、僕は遠慮なく揉み揉みさせもらいました。欲を言えば直に揉みたかったけど、さすがにそこまでやっちゃうと我慢できなくなるから自重したよ。だからその分右手は揉み揉み、左手はモフモフさせてもらうがな!
「よし。英気も養って気分もスッキリさせたことだし、そろそろ行くかぁ」
「コイツ、結局あたしのは耳しか触んなかったぞ……」
トイレで用を足してスッキリしてきた僕は、ごそごそとお出かけの準備を始める。
レーンの控えめなお胸と、キラの魅惑の猫耳のおかげで元気は百倍だね。まあそれでもクソ面倒な問題に真正面から挑まないといけないから、気分はいまいち盛り上がらないけどさ。あと発散しちゃったから下半身の方も似たような状態です。
「行くのは構わないが、リアはどうするんだい? 気持ちよさそうに寝息を立てている所を起こすのは少々忍びないが、一応連れて行くべきかな?」
そう言ってレーンが視線を向けた先には、僕の部屋のベッドがある。そしてその上で幸せそうな顔で眠りこけるロリサキュバスの姿がある。
何でコイツ寝てるのかっていうと、それは僕が無理やり魔法で眠らせたから。いやもう、本当にご機嫌でハイテンションでうるさくてね? にっくきサキュバスを惨たらしく殺せたらしいから喜ぶのも分かるんだけど、僕は今わりと重要な問題に直面してるからね。ちょっとうるさくて集中できなかったので魔法で眠ってもらいました。
「えへへ……ザクザク……グチャグチャ……」
ちなみにその愛らしい寝顔に反して、すっげー物騒な寝言を零してるよ。一体サキュバスをどんな風に殺したんですかね? 原形残ってる?
「んー、ご主人様が大変な思いをしてる時にすやすや眠ってるのは腹立つけど、今の僕は気分もスッキリで心が広くなってるからね。特別に大目に見てあげよう。そもそも眠らせたの僕だし」
「ではクラウンはどうするんだい? ちょうど下で酒盛りをしているようだが」
「アイツは偉い人が苦手だから任せるって言って辞退してきたよ。いても暑苦しくて邪魔なだけだし、別にいいけどね」
部屋着から盗賊かぶれの暗殺者みたいな格好に着替え終えた僕は、最後に武器を手に取る。もちろんそれは最初に本格的に使い始めた、愛着のある短剣二本――は、今回はおやすみ。
代わりに装備するのは普通に勇者らしい長剣。何でかって言うと、短剣よりも楽に首を刎ねられそうだから――じゃなくて、勇者らしさを強調するためだね。
キラによる犯罪の発生時期と僕が召喚された時期から考えれば、僕とキラがグルだって思われることはほぼ間違いなくありえない。でももしかしたらちょっとは疑われるかもしれないし、それに備えて勇者らしさを高めようとしてるってわけ。
本当はもっと神々しい光を放つ聖剣とか、後光を放つ煌びやかな聖鎧とかを装備しようかと思ったけど、さすがにそれはやりすぎだから自重しました。どこでそんなもん入手したのか不審に思われちゃうしね。何事も目立ちすぎない程度にするのが一番だよ。
「よし。覚悟は完了、備えはほどほど。残るはコレなんだけど……」
腰のベルトに剣の鞘を固定した後、今回の目玉である秘密兵器の調子も確認する。
ん? 今回の目玉っていう目立つ存在なのに、秘密の存在でもあるのかって? 矛盾してるように聞こえるけど、これに関しては別に間違っちゃいないんだよなぁ。そもそも物理的に隠してるわけでもないし。
でもネタバレになっちゃうから詳しくは教えないよ! 僕はサプライズとかで人をびっくりさせるのが大好きだからね!
「うん、大丈夫そうだしそろそろ行くかぁ。右手を振ると同時に左脚を出して――あっ、いけね。転んだ」
「……なあ、本当に上手く行くのかこれ?」
僕がせっかく頑張ってキラを守ろうとしてるのに、当人はすっごい疑わしい目をして僕と秘密兵器を見てくる。
見た目はあんまり焦ってるようには見えないけど、キラがかなりヤバい状況なのは確かだし、内心では結構心配なのかな?
「ん? 不安? じゃあやっぱりお前を差し出すっていう確実な方法取る?」
「いや、それは嫌だけどよ……」
「まあ黙って見てなって。この剣に誓って、絶対に僕がお前を守ってあげるからさ」
「言葉と表情だけなら、実に勇者らしい返しだったんだがね……」
「だよなぁ。心底似合わねぇぜ……」
精一杯勇者らしさを前面に押し出した台詞を口にしてみたら、何かキラより先にレーンがダメ出ししてきた。
まあ気持ちは僕も分かるけどね。めっちゃくっさい台詞だし、誓うための剣はさっき適当に魔法で創り出した何の変哲もない鉄の剣だし。
それはともかく、やっぱりコイツらには勇者らしい振る舞いは不評ですね……そんなにありのままの僕が大好きなのかな? 全く、可愛い奴らだなぁ!
そんな風に皆で愛を深め合いながら、僕らはショタ大天使ことラツィエルの屋敷を目指して歩くのだった。四人分の足音を響かせながら、ね?